ヒモ歴13年のふみくんと彼女さん 既存の恋愛観に振り回されない心地よい生活とは

文=原宿なつき
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 友達から「私の彼氏、ヒモなんだよね〜」と打ち明けられたとき、「そんな人やめなよ! 騙されてるんじゃない?」と思う人は少なくないと思います。

 しかし、『超プロヒモ理論 浮いた家賃は1000万、寄生生活13年の逃げきり幸福論』(二見書房)の著者である、“自称プロヒモ”のふみくん(ライター業で小遣い稼ぎをしながらヒモとして生活する31歳)とその彼女さん(IT企業勤務の30歳)の話を聞いたとき、私はシンプルにこう感じました。「こういう彼氏、求めている女性、多いだろうな」と。

 実際、ヒモであるふみくんの彼女さんは、最初にふみくんから「僕はヒモです。家事はしますが家賃は払いません」と自己紹介されたとき(ふみくんは、フェアネスの精神から、お付き合いする前にヒモであることを女性に宣言しています)、彼女さんも「家事好きじゃなかったし……やったぜ! ラッキ〜」と思ったとか。

 男らしさや女らしさ、「男性が女性を養うべし」的な恋愛観がはびこる日本において、女性が稼いで家賃を払い、男性が家のことをするというカップルは多数派ではないでしょう。しかし、そういった関係性を求めている人は確実にいるはずです。

 というわけで今回は、自称プロのヒモであるふみくんとその彼女さんに、お二人のリアルな生活についてお話を伺いました。

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ふみくん
1989年生まれ。本業プロヒモ、副業ライター。早稲田大学人間科学部卒。 在学中からこれまで一度も会社勤めをせず、10年以上10人の女性に家事を施しヒモとして生活を送ってきた。 現在は沖縄の家で南国暮らしを満喫中。日刊SPA! にてヒモ生活が取りあげられ、注目をあびる。

――ふみくんは、家賃をその時の恋人に支払ってもらう生活を13年間続けていらっしゃいますよね。著書の中では<彼女と別れたとき、次の飼い主が今の彼女の家まで迎えに来てくれた。ペットの引き渡しみたいだなと思った>という描写が印象的でした。ふみくんのような、いわゆる“ヒモ”でも問題ないという女性とはどのような場所で出会うのでしょうか?

ふみくん:ヒモになるために出会いを探したことはありません。もともとおしゃべりが好きで、人と人を繋ぐのも好きだし、飲み会を開催したりしているうちに、自然と出会いは作れていたんです。今の彼女は、同じ大学の友人という関係でした。大学時代は親しくなかったんですが、卒業後に共通の友人経由で徐々に仲良くなっていった、という形でした。

――著書の中では「ヒモになるコツ」として、「かわいいと言ってくれる女の子を見極めること」と書かれていますよね。巷の恋愛・婚活指南などでは、女性に対して「男を立てろ」「無知なフリをしろ」といったアドバイスがされていたり、男性の心理として「恋人よりも上の存在でいたい」との声が紹介されていたりしますが、ふみくんはそうは思わないのですか?

ふみくん:僕は「頼り甲斐がある」と思われたら困っちゃいます(笑)

 学歴や年収が劣っている女性に好意を抱く男性は、関係性を構築する前からステータスで優位に立っていたい思いもあるのではないでしょうか。対等なお付き合いとか、女性が自分よりも多くのお金を稼いでいるという状況を怖いと感じているのかもしれません。

――では、彼女さんはふみくんのどういったところを「かわいい」と思われたのでしょうか?

彼女:大人になると、友人との会話はキャリアや将来についてなどの話題が多くなりがちですよね。でも、ふみくんは「今日、初めて『スタバ』でグランデサイズを頼んだよ」とか、「深爪の限界に挑戦したよ」といった些細な日常を面白がれる人なんです。そういうところがかわいいなと思いました。お財布にお札が一枚も入っていないのに外に飲みに行って、飄々としていたり。一緒にいて、疲れないというか、気分的に楽なんですよね。

 ふみくんは本の中で、私たちの関係を「自分の方が力関係は下」「飼い主とペット」と面白おかしく書いていますが、実際はけっこう対等だと思います。なんでも話し合いますし、無理なことは無理、できないことはできない、って言い合える関係です。ただ、ご飯のメニューとかは、ふみくんが私の食べたいものに合わせてくれていますけど(笑)

――家賃や外食費用などは彼女さんが支払い、ふみくんは料理や掃除をすべて引き受けて、彼女さんのためにお弁当も作ってくれる。男女逆であれば、世間にはこうした夫婦やカップルは多く存在すると思いますが、まだまだ「稼ぐ女性+稼がない男性」の組み合わせとなると偏見の目を向ける人もいますよね。

ふみくん:やっぱり子どもの頃からの刷り込みが大きいんじゃないでしょうか。「働く父、家事する母」という家庭で育った人も多いでしょうし。

 「稼がない男なんて!」と非難する男性は、自分の人生を否定したくない、という思いもあるんじゃないかと思います。「頑張って自分は働いてきたのに、働かない人生でも大丈夫だった」となれば、ズルいと感じる人もいるでしょうから。

――彼女さんは、ふみくんとの関係を友人や家族には伝えていますか?

彼女:実は、うちの両親は「稼いでる男性と結婚したほうが安心」という形が幸せだと思っているタイプなので、まだ言えてなんです。今は「彼氏はいるよ」とだけ伝えています。ただ、今後、両親に彼を会わせることもあると思うので、そのときどう説明しようかな……と悩んでいます。

 ふみくんに会ったことがない友人に彼について話した場合、「大丈夫なの? 騙されてない?」なんて言われることもあります。でも、ふみくんに実際に会った人は、そういう風には言いません。

 私自身は、今の二人の関係が心地よいのですが、世の中には「女性は普通、男性を支えるものでしょ」とか、現状、男女の賃金格差の問題もあるので「女性の方が賃金が低いんだから、男性が働いた方がいい」と考える人がいることも理解しています。だから、ふみくんとのことは人を選んで話すようにしています。

ふみくん:男女の賃金格差は僕の生活にもダイレクトに関係してきますし、早くなくなればいいと思っています。

――ふみくんのヒモ生活がネット記事になったとき、「こんな彼氏ほしい」とか「これはヒモじゃなくて主夫」という好意的な反響が多数あったそうですが、これについてはどう思われますか?

ふみくん:僕的には、主夫って言葉にも違和感があるんです。主婦も主夫も、性別を強調している言葉ですよね。家事なんて、性別関係なくやれる方がやればいいじゃん、って思います……とかいうと、「新しい男性の生き方!」「哲学書だ!」と称賛を受けることもあるんですけど、そういう高尚なことはとくに考えていません。

 僕が今の生活になった理由は色々あるんですけど、ひとつには、4歳のときに「同じところに毎日同じ時間に行くっていうのが無理だと悟った」ということがあります。「会社員は無理だな〜」とかなり以前からわかっていたことに加えて、家事が苦にならなかったので、今の生活スタイルになっただけなんです。

 僕なんてそんなたいしたもんじゃないですよ!! とは言いたいです。下駄を履かせられすぎるのは怖いですが、「こういう生き方もありなのかな〜」「嫌なことから逃げてもいいや」なんて、読者の方が少しでも楽になってくれたら嬉しいですね。

――「男らしさ」の抑圧に隠れているだけで、会社勤めが向いていないとか、稼ぐよりも家事が好きという男性はいますよね。

ふみくん:類は友を呼んでいるだけかもしれませんが、僕の周りには、働くより家事の方がいいという男性はけっこういますよ。口に出さないだけで、「週5で通勤するより、家で角煮とか作りてぇ〜」って男、絶対にいますから。

 どうやったら僕たちのような関係になれるのかと聞かれることもあります。無理に見栄を張ったり男らしさや女らしさを強調するのではなく、むしろ弱みまで晒したうえで、お互いが無理なくいられる人を探すことじゃないですかね。弱みを見せることで見下してくる人もいますが、僕は見下されてもなんとも思いません。誰に見下されても、自分のことが大好きでいられる自信があるので!

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