ひと昔前まで、妻は“主婦”で夫が大黒柱として家族を養うのが一般的でしたが、最近では夫が家事や育児を担当する“主夫”となり、妻が仕事をして家計を支えるというケースもみられるようになってきました。
とはいえ、実際のところ“主夫”はまだまだレアな存在で、たとえ共働き世帯でも育児や家事の大部分を妻が担当するという家庭も珍しくありません。
今回紹介するコミックエッセイ『主夫をお願いしたらダメですか?』(祥伝社)の著者でイラストレーターの弓家キョウコさんは、自身が家計を支え、夫が主夫として家事や長男の育児を担当するという形で暮らしています。弓家さんの家族としての在り方について聞いてみました。

弓家キョウコ 漫画家、ブロガー
主夫の夫と息子と猫だい たい 4~7匹(※保護猫活動により不定期に数が変わる)と暮らす。 晩酌と読書 が日課。 ninaruポッケで性教育をテーマにした新連載『ママ、ちんちんない の?と聞かれまして。』がスタート。 初の著書『主夫をお願いしたらダメです か?』(祥伝社)が発売中。
――弓家さんの夫さんが主夫になったきっかけは何だったのでしょうか?
夫はもともとダイニングバーをやっていたんですが、そのお店を一時閉店して移転することになって。移転までに2、3カ月かかるので、それまでは私が一人で家事や育児をやっていたこともあって「だったらその期間、主夫やってみてよ」と提案したんです。
夫は料理も得意だったし、子どもの世話もお願いすればやってくれていたので、まずは期間限定のお試し感覚でどうかなと。結果、コロナの影響でお店の移転話がなくなって、そのまま主夫をやってもらうことになったんです。
――“主夫”になったばかりの時、夫さんはどんな様子でしたか?
家事や育児の中でも、夫が働いていた時には見えていなかった部分がたくさんあったようで、最初は大変そうでしたね。例えば、以前の夫は私が子どもと買い物に行く姿を見て「楽しそうでいいな」くらいにしか思っていなかったようなんですけど、実際に自分が子どもと買い物に行って初めて、まずは子どもをベビーカーに乗せたり、買い物中も子どもの様子を気にかけたりといった、買い物以外のいろんな作業が必要になることがわかったみたいです。
今では夫はすっかり家事や育児に慣れて、ママ友とも交流しています。ママ友側も男性目線の話が聞けるのが新鮮なようで、夫は男の子のママに男の子ならではの悩み相談を受けることもあるそうです。

『主夫をお願いしたらダメですか?』より

『主夫をお願いしたらダメですか?』より
――コミックエッセイの中で、夫さんが主夫になったことについて弓家さんの友人に「それってヒモじゃないの?」と言われたとのエピソードなどもあり、“世間との温度差”を感じたようですが、そうした反応にはどう向き合っているのでしょうか?
私も夫も、夫が主夫になったことで世間から何を言われるのかは最初から想像がついており、やっぱりその通りでした。でも、“世間との温度差”を感じる度に家族の絆が深まっていると思います。私たちは自分たちに合った形を選んで、同じ温度で幸せを分かち合えているので、周囲から何を言われたとしても、夫とは「今日こんなこと言われたけど、私たちって幸せだよね」と話しています。
実は私は、幼少期にドイツに住んでいたんですが、現地で“外国人”として差別的な扱いを受けた経験から「自分自身の考えを持たないと、自分が傷つくことになる」と気づいたんです。それからは、自分のものさし『で』考えるのではなく、自分のものさし『を』考え「自分が生きる上で、この考え方でいいのだろうか?」と、自分との対話を大切にするようになりました。そうすることで自分の中に軸ができていって、誰に何を言われても気にならなくなりましたね。

『主夫をお願いしたらダメですか?』より

『主夫をお願いしたらダメですか?』より
――世間には「もっと夫に家事や育児をやってほしい」とモヤモヤしている妻も少なくないと思うのですが、“夫に家事や育児をやってもらうコツ”があれば教えてください。
私も以前は、イライラが溢れそうな状態で「あれやって!」と強く夫に言っていたんですが、それで状況が改善したことはなくて。その原因を考えた時に「まずは夫が話を聞いてくれる体制を作ることが必要なのかも」と思い、夫が何かしてくれたら「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えることを心がけました。それこそ、一日に何回も言うようにして。
その上で「あなたのことが本当に好きなので、もっと関係を良くしたいから言うんだけど」と切り出してお願いするようにしたら、うまくいくようになったんです。単純に「こうしてほしい」と伝えるのではなく、その先にある家族としてのビジョンを提示することが必要なのだと思います。