知念実希人が大手出版社の「コロナワクチンデマ」に苦言 リスク覚悟で声をあげた理由を聞いた

文=和久井香菜子
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知念実希人氏

 2021年7月5日、『天久鷹央の推理カルテ』(新潮社)シリーズや『病棟』(実業之日本社)シリーズで知られる人気作家で医師でもある知念実希人氏のこんなツイートが話題になった。

 医師であることを踏まえても、作家が各出版社に医学に関する誤情報を流さないようにとお願いするのは、珍しいのではないか。

 こうした発信によって出版社との間に遺恨が残り、小説家としてのキャリアにも少なからず影響が出るかもしれない──知念氏のツイートはそうした覚悟の上だったはずだ。なぜ知念氏は、リスクを承知でこのような「お願い」をしたのだろうか。

 その思いを、本人に聞いた。

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知念実希人
1978年、沖縄県生れ。東京育ち。東京慈恵会医科大学卒業後、2004年から医師として勤務している。2012年『誰がための刃 レゾンデートル』(講談社)でデビュー。2018年『崩れる脳を抱きしめて』(実業之日本社)、2019年『ひとつむぎの手』(新潮社)、2020年『ムゲンのi』(双葉社)で3年連続「本屋大賞」にノミネートされている。
Twitter:@MIKITO_777

――今回の知念先生の行動はなかなかできることではないと感じますが、このような決断をされた経緯やお考えをお聞かせいただけますか。

 新型コロナウイルスが世界的問題となってから1年半が経ちました。2020年3月にダイヤモンド・プリンセス号内での集団発生が発覚したとき、私たち医師は、このウイルスは極めて危険だと思ったのです。伝播性は極めて高く、その致死率は2009年に流行した新型インフルエンザの比ではありません。

 2020年3月当時、新型コロナウイルス感染症の致死率は1.4%と言われていました。またこの感染症は、発症前からウイルスをまき散らし他人に感染させる珍しい特徴を持っていました。

 通常の呼吸器感染症は、症状が悪化した後に大量のウイルスを放出しますが、感染者はすでに重症化して動けないため、院内感染を中心に広がる場合が多いです。その一方で、新型コロナウイルス感染症は、発症前からウイルスをまき散らすのです。感染者は感染の自覚がないため、感染拡大の制御が難しいんです。医療崩壊を引き起こす可能性が十分にある感染症だと感じました。

――流行の終わりはなかなか見えず、今はデルタ株が猛威を振るっていますね。

 通常のウイルスは流行が続くと次第に弱毒化していきます。強毒株に感染した方はすぐに入院したり亡くなったりして動けなくなるため、感染拡大しにくいのです。病毒性の弱い株の感染者は活動を続けますから、それが感染拡大していき弱毒化します。

 しかし新型コロナウイルスの場合は違います。変異株の入院率(重症化率)は、アルファ株で従来株の1.5倍、デルタ株はさらに高いと言われています。潜伏期の感染者がまだ元気なときに無自覚でウイルスをまき散らすため、強毒化したウイルスも拡散されてしまうという最悪な特徴を持っています。

――そのような恐ろしいウイルスに対処するには、やはりワクチンしかないのでしょうか。

 感染が拡大し始めた当初は、どうすればこの事態が収束するのか誰も明言できませんでした。専門家は、このウイルスの世界的な流行を収束させるためにはワクチンを打つか、多数が感染し、集団免疫をつけるかしかないと考えていたのです。

 しかし後者の場合、日本国内だけでも数十万人が亡くなるだろうという予想もありました。医療崩壊すれば感染者以外の患者さんも救えなくなる。現実的にはワクチンしか方法がなかったのです。

 そのような状況下で、mRNAワクチンが想像をはるかに超えるスピードで開発され、臨床試験において有効性が確認されたのです。我々医者をはじめ専門家は「出口が見えた」と喜びました。

 しかしその頃から欧米を皮切りに、ワクチンの危険性を示唆するようなデマが広がり始めました。

 日本でも、ワクチンが薬事承認申請された今年の年明け頃から、突然出版社や新聞社が、ワクチンに対する根も葉もない情報を流し始めたのです。科学的根拠のある情報の発信ではなく、国民の恐怖を煽ることで週刊誌や新聞社が売上・アクセス数を稼ぎ始めた。怖かったです。

 出版社や新聞社にとっては商売が重要で、発信する内容が世間にどのような影響をもたらすかという責任まで考えていないのかもしれません。

 私は医師であり、出版社の売上に貢献している立場でもあったので、公衆衛生を守るためにも、ここで動かなければならないと感じました。そこでいくつかの出版社に話をし、誤った情報を流すことがどれだけ危険かを伝えました。

 メディアからの発信は、広範囲に伝達されます。多くの人がデマを信じて予防策をとらなかったりワクチン非接種率が上がったりすると新型コロナの流行を抑えられない。そうならないためにも各出版社に不正確な情報発信の停止をお願いしました。

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