韓国系移民家族を描いたアメリカ映画『ミナリ』に感じる、そこはかとない不穏さ 西森路代×ハン・トンヒョン

文=wezzy編集部
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 3月に刊行、ご好評をいただいている『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』(駒草出版)。その著者の西森路代さん、ハン・トンヒョンさんのふたりが登壇したオンライン・トークイベントが2021年4月7日、韓国系書籍の専門店、チェッコリさんの主宰にて行われました。イベントタイトル「韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』刊行記念! おしゃべりの続き」通りの、本の中のおしゃべりの続きのようなトークをお楽しみください。

 イベントレポート第1回目のテーマは、第93回アカデミー賞(2021年4月25日)で作品賞等複数のカテゴリーにノミネートされたアメリカ映画『ミナリ』について。この映画についてのふたりの見方は、一般的に語られているものとは、ちょっと異なっているようです。

(※本稿の初出は「『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』刊行記念! おしゃべりの続き(2021.4.7.@チェッコリ) レポート①」(駒草出版note)です。転載にあたり一部修正を加えています)

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西森路代(にしもり・みちよ)
1972年、愛媛県生まれのライター。大学卒業後は地元テレビ局に勤め、30 歳で上京。東京では派遣社員や編集プロダクション勤務、ラジオディレクターなどを経てフリーランスに。香港、台湾、韓国、日本のエンターテインメントについて執筆している。数々のドラマ評などを執筆していた実績から、2016 年から4 年間、ギャラクシー賞の委員を務めた。著書に『K-POP がアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK 出版)など。Twitter:@mijiyooon

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ハン・トンヒョン(韓東賢)
1968年、東京生まれ。日本映画大学准教授(社会学)。専門はネイションとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティ、差別の問題など。主なフィールドは在日コリアンを中心とした日本の多文化状況。著書に『チマ・チョゴリ制服の民族誌(エスノグラフィ)』(双風舎,2006)、『ジェンダーとセクシュアリティで見る東アジア』(共著,勁草書房,2017)、『平成史【完全版】』(共著,河出書房新社,2019)など。Twitter:@h_hyonee

わかりやすい悪人がいない

西森 西森路代です。ハンさんと一緒に、7年越しでこの本を作りました。

ハン ハン・トンヒョンです。西森さんと一緒に、この本を7年越しで作りました。宜しくお願いします。

西森 大体私がなにか言って、(ハンさんが)返してくれる、という感じでやっているので。

ハン そうですね。では、まずは『ミナリ』(2020年 リー・アイザック・チョン監督 アメリカ)の話からですか。韓国映画ではない作品からということになるけど。

西森 たぶん、この本の対談の続きがあれば、『ミナリ』についても話したんじゃないかなと思いまして。

ハン 今年のアカデミー賞で作品賞その他の候補になっているっていうことで。本の中では昨年、作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』(2019年 ポン・ジュノ監督 韓国 ※以下『パラサイト』)についてかなり話しているし、家族を描いているっていう共通点もありますしね。まあ、『ミナリ』自体はアメリカ映画なんですが、ふたりとも観たってことで。

西森 ひとりではまだわからない感じというのが私にはあるので。

ハン まあ、私もまだあんまりわかんない……(笑)、けど、まあとりあえず話してみますか。

西森 家族に対してとか、『パラサイト』の時に思っていたこととどうつながっているかとか……。

ハン 私は『ミナリ』、最初に観た時は結構いいな、って思ったんですよ。でも実はちょっと引っかかっていたところがあって。時間が経てば経つほどそれがじわじわとでっかくなってきて、今日はそういう話をしようかと考えてきました。

 で、いいな、って思った部分ともかかわるんですけど、私自身が移民なので。ちょっとそういう立場性から離れて考えることはできないというか、距離を取って観るのがすごく難しかったんです。どうしても在日コリアンと比較してしまって。で、比較しつつ、まずは重なるところがかなりあって。それはメンタリティー的にというか、私の周りにいたいろんな人のキャラクターが、ここに登場する人たちに割り振られているという感じで。

西森 そうだったんですね。

ハン あのお父さん、ジェイコブみたいに一攫千金を目指す奴っていたよな……、という感じとか。おばあちゃんとかも、こういう個別のおばあちゃんがいたっていうよりも、在日一世にもいろんなおばあちゃんがいたわけで、こういうキャラっていうのも、ひとつのキャラとしてあったなぁとか。

 世代的にはちょっとずれるところもあるんだけど、でも自分の周りというか、自分よりちょっと上の世代で、親戚とかで見ていた人たちの中にああいうキャラがいたな、ってところで他人事じゃない感じがすごくあって。で、まぁ、いいなっていうか、そんな感じ。ただ、違和感というのはなにかっていうと……、ネガティブなことばかり言うのはどうかと思うんだけど……。

西森 でもあの映画、違和感でもってるような感じもありますよ。

ハン 西森さんはそういう印象を持っているんですよね。

西森 ずーっと不穏な感じ。

ハン でもさ、世間ではそういう風に言われてなくない?

西森 言われてるところでは言われてるというか。まぁ、表向きには大自然の中での家族の美しい話、っていうふうに捉えられているとは思いますが。でも、描かなくてもいいところがいっぱい描かれてるじゃないですか。美しい家族の話にするんだったら、ひよこの話とか入れなくてもいいわけで。

ハン でも、ひよこは結構、あの時代の在米コリアンの、ある種の専門職としてポピュラーなものだったと聞きます。

西森 あ、ひよこの話は入ってもいいんですけれど、オスだけが選別されて……っていうのは……。

ハン あ、そっか……でも、不穏?

西森 だって、その後殺処分されてるっていうのって、何か言いたげじゃないですか。しかも結構後にかかわってくることだし。

ハン もちろんそれはそうだけど、だから全体としての「不穏」というよりも、私の場合、違和感というのは、一言で言うとめっちゃ保守的に感じたっていうこと。

西森 そうですね。

ハン うん。で、その保守性の在り方が、なんかずるいっていうか。一見、家族の物語で、かつ、『血と骨』(2004年 崔洋一監督 日本)みたいな、お父さんがすごく暴力的な移民の家の話というわけでもなく。なんだけど自分勝手で。なんというかな、マイルドなんですよ。

西森 そうですよね。

ハン マイルドだけど、実はやばい、みたいなさ。

西森 お父さんもマイルドだし……あと、とにかく今の映画なんですよね。

ハン あ、そうか。

西森 はっきりした暴力性とか、悪人の父親とかということではなく……『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019年 キム・ドヨン監督 韓国)とかにしたって……。

ハン あの時のコン・ユみたいな、か。

西森 はい。わかりやすい悪い人じゃないけど、一緒にいると(人を)疲弊させてしまう人っていう描き方というのは、今っぽいのかなと思いましたけど。

ハン なるほど。

西森 問題がわかりやすいところから、もう少し繊細な部分に移行しているから、っていうことなのかもしれないと思ったんですけど。それは遠慮なのかどうなのかわからないですけど。

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