韓国系移民家族を描いたアメリカ映画『ミナリ』に感じる、そこはかとない不穏さ 西森路代×ハン・トンヒョン

文=wezzy編集部
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マイルドな家父長制と現状肯定

ハン なんていうのかな、マイルドな家父長制みたいなのはあって。で、ある意味、ままならなさを受け入れる話じゃないですか。移民ってやはり、元からそこにいた人たち以上にままならなさを受け入れていかなければならないんですけど……。あのお父さんは最初は、韓国人は賢いんだって言っていたのに、最後はあの、水の……ダウジングしてるじゃない?

西森 そうそう!

ハン はぁ~?って思って。

西森 そっちに行っちゃったのかと。

ハン そうそう。そこに行くって、もはや破滅の道でしかないからさっていうか。なんかすごく現状肯定というか。保守的というのは、そういう意味です。

西森 出て行かないですからね(笑)。置かれた場所で咲きましょうなんですよね。ひとまず父親の中では。

ハン 悪い意味で自己肯定、現状肯定的? 私が知ってる世界、在日一世の物語と比較すると、(在日一世の彼らは)仕方ない状況で日本に来た、みたいなことがあって、現状肯定の仕方が違うような気がします。本来こんなはずじゃないのにここに居る、みたいな。そのフラストレーションが家父長制の暴力になったりするんだけど。でもジェイコブはアメリカに来た自分を、そのマイルドな家父長制含めて肯定する。賢さや理性を捨て、不条理さを受け入れ、ままならなさと和解することで。で、その鍵になっているのが……私はキリスト教のことはあまり詳しくはないですけど……、キリスト教的なものとか、スピリチュアリズムとか。そこと和解していいのか、って思いつつ……。だから、私にとっては割とつらい話でした。折り合いは必要なんだけど、折り合いのつけ方が。しかもその背後にあるはずの葛藤の要素は見えないし。

西森 うん、わかります。あの、お母さんがやっぱり、最後の方にものすごく出て行こうとしているのに……。

ハン あの娘も絶対出て行くよね。

西森 ですね。でもそんな中に、おばあちゃんの一件とかがあって、雨降って地固まる的になるのは、「えーっ」って思いましたけど。ただまぁ実話なので、そうなんだろうな、って思うし。

ハン そうなんだよね。

西森 あとは、実はキリスト教ってことでいうと、あのポールっていう、十字架を背負っている、近所のおじいさんですよね、(ジェイコブを)手伝ってくれている。あの人とかも、キリスト教と結びつけがちなんだけど、初めて登場するシーンでものすごいボロボロの服を着ていて、髪もぼさぼさだし、明らかに南部の白人の中では異端なわけで。

ハン まぁなんか、変な人っていう描き方だよね。

西森 そう、コミュニティーから外されてるというか……だって、十字架背負って歩いているのを、息子の友達がバスから見てバカにしてたりするし。監督自身はインタビューで、人種差別みたいなものを描こうとしているんじゃない、と話してたけど、そうなったのは、あの頃のアメリカ南部にいた人たちの貧困とか、開拓していかなければならない大変さは人種に関わらず同じだったというか、そういう部分が強いのかな、って思ったんですが。

ハン まあでも、ジェイコブたちを受け入れる白人というのはああいう人?層?なのであって、その辺と和解してやっていくというか。まあこの辺はアメリカについての知識がないのでわかりませんが、でも韓国人は賢いとか言っていたのはどこに行ったんだ、とは思ったんですよね。おそらく移民という状況から来ているはずの不条理さとままならなさがどこから来ているのかを描かないで、葛藤や軋轢を見せずに現状肯定されてもなあ、という。子どもの教育とかも、その辺がどうなっているのか全然わからなくて。

西森 まあ、あの後の監督のことを考えると、めちゃめちゃ勉強したんだというのはわかるから、その後、どんな風に生きていったのかは知りたいですけどね。

 あとね、アメリカの人々のスピリッツを受け入れていくというのはわかるんですけど、おばあちゃんも同様にスピリチュアルで……。韓国から持ってきた文化とかそういう感じですかね。もちろん日本にもあると思いますし。

ハン そうですね。韓国から持ってきたもの。とはいえ、おばあちゃんのスピリチュアルとあそこのスピリチュアルは対立しているよね。おばあちゃんのスピリチュアルは、現実のままならなさ、不条理さをどう受け入れていくかっていうおばあちゃんなりの知恵で、それはあの時代の韓国で女性として生きてきたことと分かちがたく結びついてると思うのだけど、でもおそらくだからこそれは、男の孫だけに伝授されるんですよね。で、そのおばあちゃんは脳梗塞になってしまうと。

西森 しかも、孫のことを助けてあげるって言っていた次の日に……。

ハン おばあちゃんは孫の病気を吸い取って身代わりに、っていうような役割で。で、韓国から持ってきた生活の知恵、たくましさ、みたいなスピリットはミナリとして婿と男の孫に託されて。

西森 なんか、おばあちゃんだけが吸い取られちゃって……(笑)。

ハン だから何かね……、差別を描けっていうことではないんだけど……。やっぱりお父さんの人物造形の背景が気になってしまうんですよね。目を背けているようにも感じられて。その保守的な感じがね。

西森 日本で韓国映画観てきた人たちや韓国の人たちは、あのお父さんがあの時代に特徴的な家父長制の中にいる人、っていうのは理解できるじゃないですか。

ハン そうかな。

西森 はい、観てる方もわかるじゃないですか。でももしかしたらアメリカの人とかってそういうところがわからないのかもしれないし。お父さんがどうしてああいう感じなのか、みたいところが。

ハン いや韓国的なものっていうよりも、ああいうお父さんってアメリカとかにもいっぱいいると思うし。家族のために一発、やってやる、みたいな。むしろ、アメリカで普遍的な移民の物語として受け入れられたんだと思っているんだけど。

西森 結構アジア的なものも感じました。

ハン なるほど。あと、かわいそうなのは娘だよね……。

西森 お母さんは唯一科学的なものを信じている人というか。

ハン っていうか、スピリチュアルなものを信じる敬虔なクリスチャンではあるけれど、現実的ではあるよね。

西森 で、娘もそう。

ハン 私はあの娘は速攻で家を出ると思う。

西森 出ますね(笑)。

ハン 15、6歳くらいになったら。

西森 めっちゃ勉強しまくって……。

ハン うん、学校行けたら、だけど。なんかやっぱり、女性はさ、あそこから離れていこうとするというか、家族からもコミュニティーからも離れていくのが女性っていうのがさ……。長女を描いていないという声はよく聞くけど、描いていないというよりも、離れていく人に見えるというか。こいつはもう出ていくな、っていう。

西森 同調しない、融和しないっていうか。

ハン うん(笑)。とにかく、なんていうか、たぶん出て行くんだろうなこの娘は、って。

(2021年4月7日 チェッコリにて)
(構成:こまくさWeb編集部)

※イベント当日(2021年4月7日)の書き起こしを元に、西森さん、ハンさんが加筆・修正等を加えたものを掲載しています。

『韓国映画・ドラマ――わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』
四六判/並製 284ページ
ISBN 978-4-909646-37-8
定価(税込み) 1,870円(税込)

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