わかりにくくなった敵、政治的対立のエンタメ化の先を描く韓国映画 西森路代×ハン・トンヒョン

文=wezzy編集部
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 『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』(駒草出版)の著者、西森路代さん、ハン・トンヒョンさんが登壇したオンライン・トークイベント(2021年4月7日@チェッコリさん)のレポート、第2回です。

韓国系移民家族を描いたアメリカ映画『ミナリ』に感じる、そこはかとない不穏さ 西森路代×ハン・トンヒョン

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わかりにくくなった敵、政治的対立のエンタメ化の先を描く韓国映画 西森路代×ハン・トンヒョンの画像2 ウェジー 2021.07.25

 今回は新作映画(2021年7月9日公開予定の『サムジンカンパニー1995』、公開中の『逃げる女』)2本と今年の初めに公開された1本(『KCIA 南山の部長たち』)についてのトーク。図らずも、前半の2本は主な登場人物が女性、そして後半に話題にした映画は、男たちの映画、といえそうな内容です。それぞれの作品についてのふたりの見方や解釈の仕方にご注目ください。

(※本稿の初出は「『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』刊行記念! おしゃべりの続き(2021.4.7.@チェッコリ) レポート②」(駒草出版note)です。転載にあたり一部修正を加えています)

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西森路代(にしもり・みちよ)
1972年、愛媛県生まれのライター。大学卒業後は地元テレビ局に勤め、30 歳で上京。東京では派遣社員や編集プロダクション勤務、ラジオディレクターなどを経てフリーランスに。香港、台湾、韓国、日本のエンターテインメントについて執筆している。数々のドラマ評などを執筆していた実績から、2016 年から4 年間、ギャラクシー賞の委員を務めた。著書に『K-POP がアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK 出版)など。Twitter:@mijiyooon

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ハン・トンヒョン(韓東賢)
1968年、東京生まれ。日本映画大学准教授(社会学)。専門はネイションとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティ、差別の問題など。主なフィールドは在日コリアンを中心とした日本の多文化状況。著書に『チマ・チョゴリ制服の民族誌(エスノグラフィ)』(双風舎,2006)、『ジェンダーとセクシュアリティで見る東アジア』(共著,勁草書房,2017)、『平成史【完全版】』(共著,河出書房新社,2019)など。Twitter:@h_hyonee

「出て行く」か、「出て行かない」かをポイントに

西森 最近、「出て行く」っていうのがフェミニズムにとって重要な感じがするんです。なんか最近の韓国映画とかだと意外と出て行かないな、って思って。

ハン 例えばどんな?

西森 公開前の映画になりますが、『サムジンカンパニー1995』(2020年 イ・ジョンピル監督 韓国 ※以下『サムジンカンパニー』)の中で制服を着て働いている女性たちが感じることはものすごくリアルで、私も自分のことを思い出して。

ハン 自分が組織で仕事してた頃のことを……?

西森 そうです。私も社員になったのが1995年ですからね。

ハン そうか、1995年の話か。

西森 同じなんです。だからすごく共感するんだけど。労働問題っていうのはフェミニズムとかとつながると思うじゃないですか?

ハン ん? 労働問題とイコールとは思わないけど(笑)。

西森 まだまだ男女で労働条件が同じ職場ってのは少ないと思うし、賃金格差もあるので、そういうことを考えていくと、フェミニズムにつながりやすいじゃないですか。私は同じ大卒で試験を受けて会社に入るにしても、女性だけが正規と限定的ないわゆる「腰掛」とかで分けられていた環境で働いていたからこそ、そう思うんですけど。

ハン うんうん。女性の労働問題は、まさにジェンダーの問題。

西森 女性だからお茶くみをしなければならないとか、っていうことにつながるので。何かその組織に問題があったとき、その原因にもよりますが、問題をつきとめて反旗を翻してぎゃふんと言わせるとか、もう出ていって新しいことを始めるとかそういう話なのかなと思っていて。もちろん、OLたちは奮闘して問題に立ち向かうのですが、「出て行く」という感じではなかった。

ハン そうなんですね。でも、まだ観ていないので何とも言えません(笑)。

西森 もちろん、どこに原因があるかで出ていかなくてもいいんですけど、出て行かないというのは、その場にとどまるということなので保守的でもあるとも言えるという。『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019年 キム・ドヨン監督 韓国)とかもそうですけど。

ハン そこが、この本の最後の方で話したことと被るという感じね?

西森 そうですね、私は今結構、出て行くか出て行かないか、っていうところで見る感じはあるので。

ハン なるほど。

西森 っていうと、ハンさんがまだ『逃げた女』(2020年 ホン・サンス監督 韓国)を観てないからあまり言えないけど。『逃げた女』は……。

ハン まあ、タイトルがそうだから。

西森 そうなんですよ、出て行こうとしてるのかなぁ……みたいな話というか。出て行った人とか、出て行けない人とかがいっぱい出てきて……、しかも、おしゃべりな映画なんですよ。

ハン うんうん、でもホン・サンスってしゃべる映画じゃん、基本的に。

西森 そうなんです。今、しゃべる映画だったら、確実にシスターフッドの方向にもっていくじゃないですか?

ハン そうかな……?(笑)

西森 まあ、そういう作品が多くなっているなと感じるものがあるんですが、そういうのとは違う感じがあるというか、それがホン・サンスの凄いところだなと思って。単純な図式には落とし込まないんだな、と。

ハン うん、これまたまだ観ていないのでなんとも言えない(笑)。私も観るので、ぜひ観てください、皆さんも。

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