
「空挺ドラゴンズ」(講談社)
『週刊少年マガジン』『good!アフタヌーン』など、マンガに関わるデザインを数多く手がけるデザインチーム、grower DESIGN。
今回は、そんなマンガに関わるデザインのプロ集団でアートディレクターを務める西原博之氏と、トップデザイナーである川野美樹氏にインタビューを実施。『空挺ドラゴンズ』『うちの旦那が甘ちゃんで』など、人気作のロゴの制作秘話をお伺いしました。

西原博之
デザイン学校を卒業後、フリーデザイナーのアシスタントとして従事。24歳の時に(株)二葉写真製版へ入社。DTPオペレーターを経て、2010年にgrowerDESIGNの前身、二葉デザイン室を立ち上げる。趣味はサッカー観戦とバスフィッシング。

川野美樹
1988年神奈川県出身。白百合女子大学卒業後、(株)二葉写真製版デザイン課(現在のgrowerDESIGN)へ入社。入社3年目に「growerDESIGN」の名称とロゴを発案。現在勤続8年目で、3歳男児を子育て中。趣味として、Podcast「そこ☆あに」パーソナリティーを担当。
1週間でストーリーにあったロゴを完成させる
―― grower DESIGNでは『週刊少年マガジン』(講談社)や『good! アフタヌーン』(同)、『月刊少年シリウス』(同)などを始めとしたマンガ雑誌のデザインやコミックスの装丁を行っていますよね。
西原:うちはマンガのデザインを中心にやっていて、特に『週刊少年マガジン』は表紙のデザインから中身の製版まですべて弊社で行っています。いまは全部で10名ほどのデザイナーがいて、僕はその中でアートディレクターを務めています。
川野:私はデザイナーとして『空挺ドラゴンズ』(『good! アフタヌーン』で連載中)や『うちの旦那が甘ちゃんで』(『月刊少年シリウス』で連載中)などのロゴを担当させていただいています。
――早速ですが、普段マンガのロゴをどうやって制作されているのかお聞きしたいです。
川野:新連載のロゴを作るときは、掲載前のネーム(※マンガのおおまかな内容がわかるラフ図)を1〜2話ほど読ませていただきます。
その内容をもとにロゴを作り、雑誌の掲載までに完成させるという流れですね。
新連載のロゴは大きな仕事なので、社内のデザイナーで案を出しあう事が多いです。皆で案出しして、5パターンぐらいの中から担当の編集さんに選んでもらうという流れです。選ばれた人が担当となるので、ある意味サバイバルですね。
あとは、実績があるデザイナーの場合は、一人で案出しから行うこともあります。最近だと『うちの旦那が甘ちゃんで』のロゴは私が一人で案出しから行いました。
――完成前のラフ案なのに、非常に作り込まれているんですね。
西原:普通はここまで作り込まないんですが、川野がストイックなデザイナーなのでこうなってます(笑)
川野:編集さんの期待の上をいきたいなと思って……(笑)
――素敵ですね!「マンガの最初の1〜2話から作品全体のロゴを考える」というのは大変な作業のように思えますが、どういう風にロゴを考えてらっしゃるのでしょうか?
西原:基本はストーリーから考えることが多いですね。
川野:あとは剣や杖のような主人公が持っているアイテムや、ストーリーの中で重要なマークがあれば、できるだけロゴに組み込むようにしています。
『うちの旦那が甘ちゃんで』の場合も、江戸の捕物帳のようなお話にあわせて、ラフ案のときは「十手」や「捕縄」などのモチーフをロゴに組み込んでいました。
――『うちの旦那が甘ちゃんで』のラフ案を見ると、それぞれロゴのテーマカラーが違いますが、こういった作品のテーマカラーは作者さんや編集さんから指定をもらっているのでしょうか?
西原:基本的にテーマカラーはデザイナーに任されています。指定があることもありますが、あまり多くはないですね。
川野:そうですね。私の場合はいろいろなカラーで作ってみて、作家さんや編集さんに選んでもらっています。
ただ、結局はカラーに頼らず「黒か白の一色にしたときに格好がいいもの」が一番いいロゴですね。
西原:白黒はごまかしがきかないので、ロゴ自体の形がわかるんです。だから新人のデザイナーには「最初はモノクロで作って、形を整えてから色をいれる」というやり方で作らせています。
――おもしろいですね。こういったひとつのロゴを作るまでに、だいたいどれくらいの時間がかかるのでしょうか?
西原:ものにもよりますが、だいたい1週間ぐらいです。
川野:他の仕事もしながらなので、ロゴの制作だけなら2-3日ぐらいですね。
――1週間!想像以上にスピーディーなんですね……!
少年マンガのロゴは「派手」、青年マンガのロゴは「スタイリッシュ」
――ここまでマンガロゴの制作の流れについてお話いただきましたが、「マンガロゴならでは」という特徴についてもお聞きしたいです。
川野:やっぱり、マンガだとちょっと派手でポップなロゴが多いですね。
先ほどの『うちの旦那が甘ちゃんで』は、小説が原作なので小説版のロゴもあるんです。でも、マンガに比べると小説のロゴってデザインがシンプルなんです。
なのでマンガのロゴは、小説のロゴを踏まえつつ、カラーイラスト(の上に置いても)に負けないように派手でポップにしています。
――原作の小説とマンガでロゴに違いがあったりするのはそういう理由からなんですね。同様に同じ作品でもマンガとアニメでロゴに違いがあることも多いですが、あれは同じデザイナーさんがアニメに合わせて調整されているのでしょうか?
西原:それでいくと、映画やアニメのロゴは全然違うデザイナーさんがやることが多いんです。
――そうなんですか!?
川野:そうなんですよ! アニメの場合は、アニメのロゴ制作の実績があるデザイナーさんに依頼がいくんです。
私がロゴを手掛けたマンガ『空挺ドラゴンズ』も、アニメ版は私が尊敬する別のデザイナーさんが手掛けています。
おしゃれにしていただいたのですごく嬉しかったのですが、私のデザインをもとに作っていただいているので、アニメのクレジットでは出来れば私の名前も出して欲しいなって……(笑)
――確かにそうですね。ぜひアニメのエンドロールにはロゴの原作者のお名前も載るようになって欲しいです! 他に、マンガの中にも少年マンガや青年マンガといったいろんな種類がありますが、それぞれのロゴに違いはあるのでしょうか?
川野:少し前までは「少年マンガは派手なロゴ、青年マンガはスタイリッシュなロゴが多い」というおおまかな違いがありました。
ただ、最近は少年マンガに女の子のキャラクターが増えたり、ラブコメ作品が増えたこともあって、少年マンガもスタイリッシュなロゴが増えていると思います。
西原:媒体によっても違いがあって、電子書籍で使われるロゴは可読性にウエイトを置くことが多いので、必然的にスタイリッシュになることが多いですね。
――普段はなかなか気づきませんが、ロゴにも雑誌ごとの違いや時代のトレンドがあるんですね。
川野:ロゴに使われるフォント(書体)にもトレンドがありますね。なので、ロゴを作るときは自分が好きなフォントと、最近よく見るフォントを意識しながら選んでいます。
西原:最近だと「筑紫書体」が人気ですね。「凸版文久体」なども数字に特徴があるので人気です。
川野:あとは最近、手書きのフォントも人気ですよね。よく見かけるから自分でも作りたいなと思って『東京貧困女子』(小学館)ではいちから手書きで書いた案も提案しました。
――ロゴやフォントのトレンドというのは普段はなかなか気づけませんが、こうして説明していただくと「確かに!」と思う部分があって大変おもしろいです。
「苦しいけれど楽しい」マンガロゴの制作
――ここまでgrower DESIGNのお仕事や、川野さんが手掛けたロゴについてお聞きしてきましたが、自社以外の作品で好きなマンガのロゴはありますか?
西原:僕は『ONE PIECE』(集英社)のロゴはすごいと思っています。あれは作れないですよ。フォントに頼らない、レタリング技術(※デザインされた文字を手書きで書く技術)があってこそのロゴですね。
川野:私はスタイリッシュなロゴが好きなので、最近だと『おとなりに銀河』(講談社)『スポットライト』(同)のマンガロゴが好きですね。シンプルだけどこだわりがあって、本の装丁もおしゃれです。
――最後に、川野さんにとって、ロゴ作りの楽しさや難しさはなんでしょうか?
川野:ロゴ作りって基本、毎回苦しいんです(笑)
毎回苦しいんですけど、「ひとつの作品に対してどれだけいろんなアプローチが出来るか」が勝負だと思っていて、「自分の中にこんなにアイデアがあったんだ」という達成感や楽しさがあるんですね。そのアイデアが作家さんや編集さんとマッチする瞬間が嬉しく、生み出す苦しみがあるからこそ楽しいのがロゴのデザインだと思います。
――川野さんがストイックなデザイナーさんなんだなということが伝わってきます。今後デザイナーとしての目標もお伺いできますか?
川野:これまでは漫画デザインが中心だったので、その経験を活かし、今後は小説の装丁など新しいことにもチャレンジしていきたいです!デザイナーとして作品作りをサポートし、完成した作品を手にとってくださる方々に喜んでいただけることが、一番の目標です。