そもそも「始まったからには」という言い方自体、一見もっともらしいですが、論理的には何の説明にもなっていません。菅首相は、日本国内でずっと多数派だった「今夏開催反対」の意見を無視して、政権与党の権力を使って開催を強行しました。このような異論排除のごり押しで開催しておいて「始まったからには反対の主張を控えて同調せよ」という理屈が通用するのであれば、権力を持っている側は何でもやりたい放題になります。
とはいえ、この「始まったからには」という論理的でない言い方は、論理よりも情緒を大事にする日本人には、強い効果を持つ「同調圧力」として機能します。
日本人は、子どもの頃から「集団の秩序」に適応するよう、思考を訓練されます。親や教師、部活の先輩、会社の上司などの「上」の言うことに黙って従い、所属集団がいったん特定の方向へと動き始めたら、それにおとなしく同調することを強要されます。
この時、疑問や異論を封じるためによく使われるのが「もう決まったことなんだから、みんなの和を乱さず従え」という言い方です。「始まったからには、もう東京五輪に反対せず、我々と一緒に選手を応援しろ」というのも、論理的にはこれと同じですが、心のやさしい人は「そうしなければ、頑張っている選手がかわいそうだ」という「情」にほだされて、東京五輪は中止すべきだ、と言うのをやめてしまうかもしれません。
そんな心境に誘導されそうになったら、いったん立ち止まって、医療関係者の「声」を思い出しましょう。そうすれば、「始まったからには」という言い方が、現実に存在する大きな問題から人々の目を逸らすための「煙幕」のような詭弁だと気づくはずです。
医療関係者の声に耳を傾け、国民の命と健康を守るために、東京五輪の中止を政府に求める。それは、東京五輪が「始まってから」言い続けても全然おかしくはないのです。
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