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まさかの年率2%超のインフレ進行
日本ではインフレという言葉が、半ば死語になりつつあります。この20年を平均すると、消費者物価上昇率は年率0.1%に過ぎません。ところが、その日本で密かに物価上昇が進んでいます。
物価統計は通常前年比の上昇率で紹介されます。この春にあった携帯通話料の値下げにより前年比で大きく下げたため目立ちませんが、その春以降、限界的には年率2%を超える物価上昇が進行しています。
日本でこれまで2%を超えるインフレが実現したのは、消費税の引き上げによる時と、石油ショック時くらいで、あのバブル最盛期でも最後に2%を超えただけでした。このため政府日銀が2%の物価安定目標を設定したこと自体が無謀ともいわれました。
現に黒田東彦日銀体制になって8年近くも異次元の大規模金融緩和を行いましたが、2%の目標達成はついぞ実現しませんでした。
ところが、足元の物価統計を丹念にみると、この春以降、まさかの2%超のインフレが進行しつつあります。
総務省が発表している東京都区部の消費者物価は、4月から7月までの3か月でみると、瞬間風速が年率2%を超えています。全体では年率2.8%、生鮮食品を除いた「コア」でも2.8%、さらにエネルギーも除いた「コアコア」でも年率2.0%の上昇となっています。
メディアの報道では通常前年同月比の上昇率が紹介されるため、これでみると足元ではほぼゼロとなっていて、相変わらず物価目標とは程遠い印象を与えます。
しかし、これにはからくりがあります。前述した通り、4月に政府が通信料金の値下げを求めて各社がこれに応じたため、携帯通話料は前年比29%の下落となり、これだけで物価全体を約0.5%押し下げています。
その陰に隠れて見えにくくなっていますが、携帯以外のところでは実は物価が大きく上がっています。今のペースが続くと2021年度は消費税引き上げの影響がない中で30年ぶりの2%のインフレが実現する可能性が出てきました。
これは政府日銀にとってようやく目標が達成される「めでたい」ことかと言えば、必ずしも喜べません。物価上昇の「過程」が想定と違うためです。
世界のインフレが日本にも伝播
日銀が目指している2%の物価目標達成の道筋は、景気を刺激して労働者の賃金上昇を通じて消費需要を高め、企業が価格を引き上げやすい環境を作ることでした。
ところが最近の物価上昇は、例えば7月の東京都の統計でみると、ガソリンが前年比20.2%、火災保険地震保険が10.1%、エアコンが9.8%、新聞代が4.5%上昇などで、日銀のシナリオとは異なる形になっています。
つまり、原油価格の上昇や木材紙パルプなど輸入資源価格の上昇によるもの、自然災害多発による保険料の値上げ、半導体不足による生産制約を受けている自動車、エアコンなどの値上げです。
海外からの輸入インフレの伝播、供給制約の影響、温暖化、災害増の影響が原因であり、日銀が目指す「所得増による前向きな循環」によるものではありません。
実際、厚生労働省の「毎月勤労統計」をみても、6月の名目賃金総額は前年比0.1%減、物価上昇を差し引いた実質賃金では0.4%減となっています。ボーナスが減ったことが影響しています。つまり、所得が増え、消費需要が高まって物価が上げられるパターンでないことは明らかです。
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