スターバックス&ニンテンドー ~刑務所労働と第13条
アメリカの日常生活は刑務所で作られた製品で溢れている。
米国の奴隷制が終わった1864年の翌年、奴隷制を禁ずる「憲法修正第13条」が作られた。ただし、そこには奴隷制を合法に続けるための「抜け穴」が含まれている。以下の訳文の前半は「囚人に罰として無償労働を課せられる」を意味する。
奴隷制および本人の意に反する苦役は、適正な手続を経て有罪とされた当事者に対する刑罰の場合を除き、
合衆国内またはその管轄に服するいかなる地においても、存在してはならない。
https://americancenterjapan.com/aboutusa/laws/2569/
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奴隷解放後、自由人となった黒人たちを逮捕するための法律が作られた。例えば、多くの黒人は奴隷時代に家族離散させられていた。解放後、親族を探し求めて旅に出たが、「歩き回ってはならない」とする法に触れて逮捕された。元奴隷主たちは囚人となった黒人の保釈金を払って出所させ、黒人が保釈金を返済するまで無償で働かせた。
後には刑務所の監視下、集団での囚人労働が開始された。縞模様の囚人服を着せられた黒人が鎖の足枷でつながれて鍬(クワ)を振るう画像は昔から今に到るまであちこちで見掛けるが、彼らが「チェーン・ギャング」と呼ばれる囚人労働者だ。

1900年頃に米国南部で撮影されたチェーン・ギャング。wikipediaより
チェーン・ギャングの伝統は、現代の大手企業に引き継がれた。
刑務所労働の賃金は時給0.5~2ドル程度と非常に低く、医療保険など福利厚生費も不要なことから多くの企業が利用してきた。労働形態は刑務所内で商品を製造する「イン・ハウス労働」と、精肉所などに出向いて働く「ワーク・リリース」がある。イン・ハウスにはカスタマー・センターの電話対応職も含まれる。
スターバックスはクリスマス・ギフト商品のパッケージングを、ニンテンドーはゲームボーイの組み立てを刑務所内で行わせていた。高級スーパーマーケット・チェーンのホールフーズは、チーズなどの商品納入農家が刑務所労働者を使っていた。Netflixの人気ドラマ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」には女性収監者たちがランジェリーを縫うシーンがあり、下着ブランドのヴィクトリアズ・シークレットがモデルだと言われている。
3ストライク法により長期刑となった前述のウィルカーソンは、2ドル50セントのソックスを万引きしたことに対し罰金2,500ドルを課せられていた。ウィルカーソンの刑務所労働の賃金は月20ドル、その半分以上があらゆる名目によって天引きされていた。あるメディアが試算したところ、2,500ドルを完済できるのはウィルカーソンが90歳になってからだった。
近年、刑務所労働は搾取であり、かつ労働者の多くがマイノリティーであることから人種差別でもあるとして批判の声が上がり、多くの企業が利用を停止している。全米最大の小売チェーン、ウォルマートは、同社に商品を収めている企業の中に少数ではあるが「リハビリ・プログラム」を使っているところがあると認めている。リハビリ・プログラムとは、精神疾患などを持つ収監者を社会復帰のためのリハビリと称して無給で働かせる仕組みを指す。
■Netflix「13th -憲法修正第13条」
差別・貧困・ロールモデルの欠如
現在の刑務所のあり方は、歴史をたどると奴隷制に行き着く。奴隷制は正規に定められた法律だった。現在の刑務所労働も同じだ。いつの時代も激しい人種差別があり、それを土台にマイノリティーへの労働力搾取、経済搾取が行われている。この構造的差別がアメリカ合衆国の富を支えている。
黒人にとって選択の余地がなかった奴隷制と異なり、刑務所を避けたければ犯罪を犯さなければよい、つまり真面目に生きろという論は正論に聞こえるが、これも歴史的な背景により非常に困難だ。
奴隷制に基づく差別と貧困が現代の黒人社会にも連綿と受け継がれている。貧困は家庭を崩壊させる。崩壊家庭が一定の数を超えるとコミュニティーそのものが崩壊する。最低限の衣食住・教育・医療すら得られない貧困と、別居、刑務所、死などによる親の不在、もしくは存在していても親として機能しないなど、最も身近なロールモデルの欠如が当たり前の環境に生まれた子供たちが大量にいる。彼らが足を踏み外さずに成長するのは至難の技だ。
3ストライク法のウィルカーソンも父親不在、母親は麻薬中毒の家庭で育ち、その母もウィルカーソンが16歳の時に亡くなっている。その直後、ウィルカーソンは強盗の見張りを行って6年の刑期を務めている。出所後は更生し、フォークリフトの運転手として働いていたウィルカーソンは、時間潰しに入ったモールで特に必要なく、しかも十分に買える値段のソックスを万引きした理由を「自分でもわからない」と語っている。