「コンドーム=100%予防」ではない 正しい性感染症予防と検査について医師に聞いた

文=雪代すみれ
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Getty Imagesより

 セックスの際、コンドームの着用が推奨されているのは避妊のためだけではない。コンドームを使用しない性交渉や、つけていても途中で脱落・破損したとき、妊娠のリスクだけでなく、性感染症に感染する可能性もある。

 性感染症の中には無症状のものも存在するため、治療を受けないまま放置することは自身の健康を害するだけでなく、他者にうつしてしまう危険性もある。一方で、性をタブー視する傾向の強い社会において、性感染症への理解は十分とは言えないだろう。

 性感染症の予防方法や性感染症検査について、また、どのタイミングで検査を受けるべきなのか、枚方市保健所所長の白井千香先生に話を聞いた。

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白井千香
枚方市保健所所長。全国保健所長会副会長・公衆衛生医。日本公衆衛生学会代議員、厚生労働省厚生科学審議会感染症部会委員、日本性感染症学会理事。日本性感染症学会では中高生向け性感染症啓発スライド「あなたのためになる性感染症予防」を作成し、学会ホームページに掲載。性と健康を考える女性専門家の会で「性感染症」DVD(中学生以上対象)を作成。

コンドームをつけていても性感染症に罹患することはある

 性感染症とは性的な接触で感染する感染症のこと。性感染症には、主に以下のようなものがある。

●HIV
感染すると初期症状に風邪のような症状が見られることがあり、その後、自覚症状がないまま少しずつ免疫力が低下し、病気にかかりやすくなる。近年は早期発見及び、早期治療によりエイズの発症を防ぎ、治療を続けることで体内のウイルスを極限まで減らすことができるので、感染性も低くなり感染前と同等の生活を送ることが可能となっている。

●梅毒
近年、増加傾向にある性感染症。性器に潰瘍ができたり、皮膚に発疹ができるなど、全身にさまざまな症状が見られる。薬物治療が可能。妊婦の場合、治療をしなければ胎児の早産や死産、先天異常を引き起こすことがある。

●性器クラミジア感染症・淋菌感染症
男性は排尿痛や尿道の不快感など、女性は下腹部の痛みやおりもの異常などの症状が見られる。オーラルセックスで感染することもあり、無症状の人も多い。男女ともに不妊の原因になることがある。妊婦の場合、治療をしなければ、出生1か月くらいで、乳児に肺炎が起こることがある。

●性器ヘルペスウイルス感染症
男女とも、性器に痛みのある水庖ができる。一度感染するとウイルスが体内に残り、治療後も再発することがある。妊娠・出産時に感染した場合、胎児に脳炎など重大な合併症を引き起こすこともある。

●HPV(ヒトパピローマウイルス)感染症
性交経験のある女性なら50%以上が一度は感染すると言われている。子宮頸がんや尖圭コンジローマの原因になる。小学6年生~高校1年生の女子を対象に、無料で定期接種が行われている。

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「コンドーム=100%予防」ではない 正しい性感染症予防と検査について医師に聞いたの画像2 ウェジー 2021.06.01

※参照:厚生労働省より 検査しないとおしおきよ!(平成28年度作成)

 性感染症の予防といえば、真っ先にコンドームを思い浮かべる人も多いだろう。しかし、「コンドームだけでは予防できない性感染症もあります」と白井先生は話す。

 コンドームだけで予防できると考えられているのは、HIVと性器クラミジア、淋菌だけです。他の性感染症は、ペニスの直接接触は防げるものの、コンドームで覆えない性器の周りに症状が出ることもありますし、コンドームなしでオーラルセックスをすれば、口を介して感染する恐れはあります。

 コンドームは最低限の性感染症予防です。ベターな対応としては、パートナーでお互いが性感染症検査を受け、陰性であることを確認できている状態で、コンドームは使用しつつ、知らない人とはセックスをしないことです。

匿名・無料で受けられる保健所の性感染症検査

 性感染症は医療機関(産婦人科、泌尿器科、皮膚科、口腔については耳鼻咽喉科)、もしくは保健所で検査を受けることができる。

 自覚症状がある場合、もしくはすぐに治療を受けたいときには医療機関(診療所や病院)に行ってください。例えば、性器クラミジアは陽性判定が出た場合、その場で薬を飲めば治療は終了です。

 また、保健所の場合は受けられる検査が限られています。保健所によって多少内容は異なるのですが、主にHIV(血液)、梅毒(血液)、クラミジア(尿)での検査を対応している所が多いでしょう。それ以外は医療機関で検査を受けてください。

 どの診療科で検査を受ければいいかわからない時は、地域の保健所に電話で相談してみてください。

 保健所で検査を受ける場合、望ましいタイミングはあるのだろうか。

 大前提として、セックスの経験が全くない方は検査を受ける必要はありません。オーラルセックスを含め経験がある方で、パートナーが変わるタイミングなどに二人で受けるのが理想的です。

 性感染症は自覚症状のない場合も少なくないので、セックスの経験がある方はあまり難しく考えずに一度受けてみてもいいと思います。

 また、パートナーとコンドームを使ったセックスをしてても、パートナーの陽性が発覚した場合は、ご自身も検査を受けてください。

 保健所で実施している性感染症検査は、場所によって実施している曜日や時間が異なる。住んでいる市区町村に限らずどの場所で受けることもできるが、予約が必要な場合もあるため、事前にインターネットや電話等で調べて欲しい。

 また、HIVは感染可能性のあるセックスから2~3カ月、梅毒は3週間、クラミジアは2週間経過しないと、感染していても陽性だと判定することができない。

 保健所の性感染症検査は無料、かつ匿名で受けられます。保険証も必要ありません。未成年でも保護者に勝手に連絡するようなことはありませんし、ご高齢でも検査を受けに来られる方もいます。

 検査方法は保健所によって異なりますが、血液検査と尿検査のところが多いでしょう。検査内容や方法によっては、即日で結果がわからないこともあるので、後日改めてご本人が結果を聞きに来ていただくことが必要で、都合が悪い時には電話で日時の相談ができます。

正しい情報にアクセスできないという課題

 オーラルセックスの経験がある人は多いものの、オーラルセックスでコンドームを使わないことは珍しくない。正しい予防が行われない背景について白井先生は「若者が正しい情報にアクセスできない課題を感じています」と話す。

 中学校で性感染症予防の授業をするお時間をいただいたことがあるのですが、学校側から「セックスという言葉を使わないでほしい」と言われました。「セックス」がダメですと、「オーラルセックス」という言葉もNGです。図を用いて説明することもできず、的確な情報を伝えることが非常に困難でした。

 オーラルセックスでは妊娠はしません。そのため、ネット上ではオーラルセックスを「妊娠しない安全なセックス」と説明したり、「キスでは性感染症はうつらない」と断言するサイトもありますが、正しくは、粘膜と粘膜の接触があれば感染する可能性はあります。

 性感染症には未だに「不特定多数と遊んでいる」といった偏見が見られる場面も少なくない。しかし、1度でもセックスの経験があるならば誰でも感染の可能性はある。

 そもそもお互いが対等なコミュニケーションによって同意の上での行為ならば、誰とどのくらい性交をしようとも個人の自由だ。「回数が多ければ感染する確率は高くはなりますが、『性感染症に感染=遊んでいる』といったイメージはただの偏見です」と白井先生は強調する。

 まだまだ日本では性のタブー視は根強いと感じます。性教育講演の際には「性とは何か」といったところからお話するのですが、「いやらしいものではないんだよ」ということから伝えています。

 まずは「自分の体も相手の体のこともよく考えよう」と話し、そのうえで、「知らないと病気を予防できないこともある」と、性教育のイメージを明るく、ネガティブな印象が残らないように心掛けています。

 一方で、性感染症に関しては「性」を取り上げなくても、新型コロナウイルスのこともあり、「感染症予防」という観点で教えやすくなっているとは感じます。たとえば、「感染症には、飛沫感染、空気感染、接触感染、媒介物感染があります」「接触感染の中には粘膜に接触することで感染するものがあります」「じゃあ粘膜(体の中でヌルヌルしているところ)はどこにあるかな?」と、子どもたちが口や眼や性器について、イメージできるよう誘導する方法です。新型コロナの話と一緒に性感染症について伝えるきっかけはあるかもしれません。

 昨今は家庭での性教育への関心も高い。家庭で性感染症について教える際のポイントについても教えてくれた。

 小さいお子さんでしたら、清潔にする習慣を通じて、感染症の文脈で予防意識を育むことができます。お子さんが思春期になって、セックスの話もできる関係性ができているなら、「セックスは体を清潔な状態にしてから」「事前に検査する方法もある」といったことが伝えられると思います。

 ただ、小さい頃から性に関する話を積み上げていなければ、いきなり思春期に性感染症の話をするのはハードルが高すぎます。直接話して伝えることが難しければ、信頼できるサイトや本、資料などを紹介したり、パンフレットを渡す方法もオススメです。

●日本性感染症学会 予防啓発スライド
●性と健康を考える女性専門家の会 啓発ツール

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