「口約束が当たり前」に待った! 個人事業主保護のため「契約書」の作成義務拡大か?

文=川部紀子
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 ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。会社員の個人事業主・フリーランス化の話は近年よく耳にするようになってきました。個人事業主やフリーランスと会社員では制度から慣習までさまざまな違いがあります。

 そのひとつに「契約書」があります。発注側も受注側も契約に対する認識が甘く、口約束で行われる業務もまだまだ存在します。その結果、立場の弱い受注側が報酬を十分に支払われないなど「こんなはずじゃなかった!」となるトラブルが発生するケースは少なくありません。

 先日、この件でとても興味深い報道がありました。読売新聞が「【独自】口約束で泣き寝入り多発…フリーランスへの業務発注、契約書の作成義務付け事業者拡大」と報じたのです。まずは報道内容を確認していきましょう。

外注への契約書面義務が拡大か

 読売新聞によると、政府は「業務発注時に契約書面の作成を義務付ける事業者の対象を拡大する方針を固めた。新型コロナウイルス禍でフリーランスの収入源が減る中、口約束の仕事を一方的にキャンセルされるなどのトラブルが相次いでいるためだ。来年の通常国会に関連法案を提出する方向で調整している」ようです。

 現在、資本金1000万円以下の企業等が個人事業主・フリーランスに業務を発注する場合、契約書を交わしたり、発注書を発行する法律上の義務はありません。

 新型コロナウイルスの影響で業務のキャンセルが多発していると聞きます。発注側の経営にもダメージが出ているのだと思いますが、口約束で発注・受注が行われている場合、受注側はキャンセル料がもらえない、入金が遅れる、予定よりも金額を下げられるなどの損害を被りやすくなっていることは十分考えられます。

 こうしたトラブル防止のために関連法案を国会に提出するということです。

外注の実態

 筆者自身、20年近く個人事業主をやっています。幸いにも優良な取引先ばかりなので大きなトラブルはありませんが、働いてきて2つの印象を持っています。下請法の強化によりここ数年で発注書を出してくれる先が増えたこと、一方でメディア等広告業界は規模が大きくても発注書を出さないところが圧倒的であること、です。

 下請法の資本金規模による義務ではなく、企業ごと業界ごとの文化や慣習で発注書の有無が決まるという気がしています。

 数年前に「広告業界って、昔から大きな金額でも契約書を交わさない文化があるんですよね」と聞いたことがあるため、メディア等広告業界の業務に関しては契約書や発注書など要求したことはありません。

 担当者によって振り込まれる金額や端数が前回と違ったり、かなり遅れているので連絡したら何か月も遅れて振り込まれたりという事象が少なからず発生しています。

 こういう業界だし、払ってくれないわけではないのでスルーしていましたが、我ながら良いことではないですね。でも、やはり現状では、事前に契約書だの発注書だのを要求するのは非常に難しいと思います。

発注側も受注側も「契約」の自覚を

 報道によると、「政府が昨年2~3月に実施した調査では、事業者から業務を受注するフリーランスの約4割が、報酬の未払いや納品日の一方的な変更などのトラブルを経験している。このうち約6割は、口頭のやり取りだけで書面やメールを取り交わしていないか、取り交わしていても十分な記載がなかった。フリーランス側が最終的に「泣き寝入り」を迫られるケースも多い」とのことです。

 発注側も受注側も悪気はなく、単に無知であるということも多いに考えられますが、もしもの際に大きな損害を受けやすいのは受注側の個人事業主・フリーランスです。入金時期、入金額が、まさに自分が生きていくために必要なお金、家計に直接影響するからです。

 発注側は契約書や発注書に対して義務感を持つようにしていくべきですし、受注側ももしもの際に泣き寝入りを避けるために事前に交わすべきです。

とはいえ、言い出せない現実も予想されますので、法整備は非常に意味のあることだと思います。今後に期待しましょう。

会社員とフリーランスの違いを知る重要性

 筆者の新刊『得する会社員 損する会社員 手取りを活かすお金の超基本』(中公新書ラクレ)が刊行されました。

 タイトルの通り会社員向けのお金の基本について書いた本ですが、フリーランスの人には会社員との大きな違いを自覚してもらえる内容になっています。また、事業主もフリーランスに都合よく仕事を外注しているケースも見受けられますので、その点をクリアにできると思います。会社員以外の方にもご一読いただけると幸いです。

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