「生理」に対する認識がプロスポーツ界で変化 一方、「男性視点」も根強い

文=サンドラ・ヘフェリン
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Getty Imagesより

●日本と海外、女性の「生き方」「社会」の違い(第3回)

 長らくタブー視されてきた女性の生理ですが、最近ようやく「生理をオープンに扱おう」という流れができつつあります。

 日本では581の自治体が学校や役所で生理用品の無料配布を実施しています(朝日新聞デジタル2021年8月4日付)。

 スコットランドでは昨年11月に世界で初めて「生理用品の無料提供を定める法律」が成立し、フランスでは大学生を対象に生理用品が無償で提供されています。

 そんななかヨーロッパで注目を集めているのは「プロスポーツにおける生理との向き合い方」です。

「生理に配慮したトレーニングを」イギリスの動き

 先日、ドイツ人ゴールキーパーであるAnn-Katrin Berger氏が、自分の所属するイギリスの女子サッカークラブChelsea Football Club Womenでの経験を語り、ドイツで話題になりました。

 このChelsea Football Club Womenでは、世界で初めて「女性の生理周期に考慮したトレーニングメニュー」を行っています。

 女性アスリートがFitrWomanというアプリをダウンロードし、生理の日付、頭痛や倦怠感など生理に伴う症状を記入します。その後アプリが自動的に「そのアスリートが今どんな内容のトレーニングをしたほうが良いのか」「どんな食べ物を摂取したほうが良いのか」を表示します。さらにコーチがそれらのデータを収集し分析しながら、その選手に合った独自のトレーニングプランを組んでいきます。

 女性一人一人の生理周期を考慮した独自のトレーニングを始めてから、同クラブでは選手の怪我がめっきり減ったとのことです。このことについてAnn-Katrin Berger氏は「女性のサイクルに合わせたトレーニングをするだけで、こんなにも効果が出るとは思わなかった」と驚きを語っています。

 Chelsea Football Club Womenでは「女子アスリートの生理周期に合わせたトレーニングをすることで、スポーツでより良い結果を出すことができる」と考えられています。生理の周期によってエストロゲンとゲスターゲンの働きに差があるため、体のパフォーマンスも時期によって違います。その違いをしっかり受け止めた上でトレーニングを行うという考え方です。

「男性がデフォルト」のドイツのプロスポーツ界

 ドイツでは今まで生理について語られる時、「女性自身が心地よく過ごせるためにはどうすればよいのか」について触れられることはあっても、「良い結果を出すために、生理のサイクルに合ったトレーニングをする」という考え方はあまり一般的ではありませんでした。

 そのためAnn-Katrin Berger氏が女子サッカークラブChelsea Football Club Womenの経験について語った時、ドイツでは「革新的だ」と話題になったのです。

 ドイツではそれまで「贅沢品」として扱われ19%の消費税率だった生理用品が、昨年1月には7%の消費税率に下がりました。つまり生理用品が税金の面でも「必需品」とみなされるようになったわけです。

 このように生理に関する「進歩」がある一方で、ドイツのスポーツ界に関してはまだまだ男性中心です。そのため男性があるトレーニングメニューで良い結果を出すと、同じトレーニングメニューをそのまま女子選手にもやってもらうという考え方が普通で、そもそも「男性がデフォルト」なのです。そんな状況のなかで、女子アスリートの生理は長らく「ないもの」とされてきました。

生理を軽視することで将来的に健康被害も

 先日、女性の陸上競技選手のFabienne Königstein氏がドイツの雑誌シュピールのインタビューで「男性中心のドイツのアスリート世界でトレーニングを積むことの苦悩」について語りました。

 そのなかで、同氏は「仲間の女子アスリートが生理中であることを知った男性コーチが、生理をバカにするような内容の発言をしていた」ことを暴露しています。暴言ともとれる男性コーチによる「荒い言葉遣い」がドイツのスポーツ界でも日常茶飯事であることがうかがえます。

 こういった男性中心の状況を変えていくために現在Fabienne Königstein氏はドイツアスリート協会の活動を通して状況の改善に向けて動き出しています。同協会は昨年の秋から「プロスポーツ界の女性の地位向上のためには何が必要かどうか」というテーマに取り組んでおり、「女子スポーツ選手のメディアでの取り上げられ方」、「男性アスリートと同じ報酬を目指すこと」など様々な課題があります。その中でもこの協会が力を入れているのが「女性の体に合ったトレーニング内容を今後スポーツ界に浸透させること」です。

 ドイツでは現在、陸上、体操、カヌー、バスケットボールなどの分野において「女性の体に考慮したトレーニング」はされていません。また女子アスリート自身も「自分の体」や「生理」を軽視する傾向にあるとのことです。

 分子生物学の修士課程の学生でもあるFabienne Königstein氏はシュピーゲル誌のインタビューで「女子スポーツ選手の生理が止まってしまっても、多くのコーチはその問題を過小評価します。でも生理がないままハードなトレーニングを続けてしまうと、将来的に骨がボロボロになったり不妊につながることもあります。生理がないのは身体に過剰な負担がかかっているサインであることが多いので、生理がないことを過小評価してほしくありません。」と語っています。

 過度のトレーニングによって、女子スポーツ選手の生理が止まってしまうことについて、多くの医者が警鐘を鳴らしています。でもドイツでも日本でも肝心の「女子選手たちが身を置くプロスポーツ界の現場」では、この問題がないがしろにされがちです。

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