「菅降ろし」が始まる可能性はあるのか? 政権の今後を占う横浜市長選

文=平河エリ
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写真:代表撮影/ロイター/アフロ

連載「議会は踊る」

 今月22日に投開票となる横浜市長選は、予想を覆し、菅義偉政権にとっての命運を占う選挙となっている。

 当初、この選挙は「消化試合」感が漂っていた。横浜市は菅総理大臣の地元である。更に、そこに現職の大臣、しかも選挙に強い小此木前国家公安委員長が立候補するとなれば、圧勝との予想は当然と言えるだろう。

 小此木候補はもともと菅総理と関係が深い。父である小此木彦三郎元通産大臣のもとで、菅総理は秘書として政治のキャリアをスタートさせた。その後横浜市議会で「名代」として辣腕を振るった実績がある。

 今回の横浜市長選挙においても、菅総理は全面的に小此木候補をバックアップし、自民党市議団の多数も小此木候補の支援に回っている。

 しかし、予想に反し、情勢調査では野党系統一候補の山中竹春候補が善戦している。すでに出口調査などでは山中候補が先行とのデータもある。

 なぜ横浜市長選はこのような情勢になっているのか。理由はいくつかある。

 自民党横浜市議団はIR(カジノ)推進が大勢の意見だったが、小此木候補はIR反対を掲げて立候補した(争点潰しと見られるが、定かではない)。

 前述の通り、市議団の大勢は小此木支援で固まっているものの、林文子現横浜市長を推す声もあり、一枚岩ではない。また、地元の商工会はIR推進の声が多いため、自民党の支持基盤が充分に固まりきらず、全面支援とまでは行かないのが現状だ。

 また、公明党も、議員辞職した神奈川6区で出馬予定の遠山清彦前衆院議員が家宅捜索を受けるなど、貸金業法違反に関わるスキャンダルの対応に追われ、とても選挙に全力投球するどころではない。

 しかし上記のような事情は些細といってもいい。最大の問題は菅総理が不人気であることである。

 地元の市長選で、総理大臣が「自身が不人気である」という理由で負けるということは、前代未聞の事態と言ってもいいだろう。

 仮に、小此木候補が敗れる、それも大差で敗れるようなことがあればどうなるか。「菅総理で選挙は戦えない」という声は高まるだろう。週刊誌は「菅降ろし」の声で紙面が彩られることになる。

 しかし、だからといって、菅総理が総裁選で交代すると考えるのは早計である。

 安倍前総理の後押しも受けて出馬の意向を示している高市早苗元総務大臣は、いまだ総理候補として認識されておらず、国民から人気の高いとも言い難い。

 前回の総裁選で2位に滑り込んだ岸田前政調会長も、出馬の機運が高まっているとは言い難い。

 一方、待望論のある石破茂元幹事長は前回の総裁選に破れて以来、派閥が崩壊状態にあり、推薦人の目処すら定かではない。そもそも党内に隠然たる影響を持つ安倍前総理に嫌われている以上、総裁の目は薄い。

 国民人気の高い河野太郎ワクチン担当大臣は、ワクチンの供給失敗で自治体から忌み嫌われており、今回の総裁選に出ることは難しいだろう。

 結局のところ、コロナの後始末を引き受けられる人間も、自民党の選挙の顔として出てこれる人間も現状では見えない。

 そもそも、2013年に政権復帰して以降、自民党は「割れない」ことを徹底し、党内の異論を可能な限り封じ込めてきた。

 まして、党内で強い影響力を持つ二階幹事長、麻生副総理とも閣内・党内にいる状況であり、また、二人は総裁候補ではない以上、一蓮托生で菅政権を支えざるを得ない。

 こうした状況のまま自民党は総選挙を迎えることを得ないことを考えれば、菅総理の2期目の総理総裁としての道のりは極めて厳しいものになることが目に見えている。

 結局、コロナ対策も、選挙も、自民党は無策のまま突っ込んでいくことになるのだ。

 「ウルトラC」として、尻に火がついて総裁選で大きな動きがあれば別だが、現状だとそのように機敏な動きができる党の状況ではないと言わざるを得ない。

 国政に大きな影響を与えると見られている横浜市長選ではあるが、あくまで地方選挙であることも忘れられてはならない。

 市政に対する方針を市民が評価するものである。国政選挙に対する影響力はあくまで副次的なものだ。

 有権者は、ぜひ候補者の市政に対する公約をチェックし、身近な課題に照らして一票を投じられることをおすすめしたい。

【横浜市長選挙 立候補者一覧・届出順】

太田正孝   (前)横浜市議
田中康夫   (元)長野県知事
おこのぎ八郎 (前)国家公安委員長
坪倉良和      水産仲卸会社社長
福田峰之   (元)衆院議員
山中竹春      横浜市大教授
林文子    (現)横浜市長
松沢しげふみ (元)神奈川県知事

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