2020年5月25日、黒人男性ジョージ・フロイドが警官に9分29秒ものあいだ首を押さえつけられ殺されたことにより、全米はおろか世界各国で Black Lives Matter デモが繰り広げられた。
フロイド事件の裁判は今年3月に始まり、被告のデレク・ショーヴィン元警官は第2級殺人/第3級殺人/故殺の3つの罪、全てで有罪となった。6月、ショーヴィンに対し懲役22年6カ月の量刑宣告がなされた。
フロイド事件はその全容が目撃者の撮影した映像により世界中で閲覧されたこともあり、裁判は驚くべきスピードで進められた。だが、フロイドが警官に殺害された同じ2020年の1年間で、全米で1,126人もの市民が警官により命を奪われている。うち27%(300人以上)が黒人だ。米国の黒人人口比は13%に過ぎず、いかに多くの黒人が警官によって命を奪われているかがわかる。
こうしたデータは米国における黒人への警察暴力の実態理解に欠かせないが、同時にBLMのデモで多用されるフレーズ「Say her/his name.」(彼女/彼の名前を言おう)を思い出す必要もある。犠牲者たちは統計上の数値ではなく、ひとりひとりの人間だ。ゆえに犠牲者の名を声に出して呼ぼう、人として忘れずにいようという意味だ。
以下に昨年亡くなった黒人犠牲者のリストを付す。事件が起きた日付/氏名/年齢のみを記してある。最年少は15歳、最高齢は88歳。圧倒的多数が男性であるため、女性のみ「女性」と記している。
中には警官にとって殺害不可避の件もあったと思われるが、まずは抹消されてしまった人々の存在を感じて欲しい。
なお、このリストにある248人(*)の事件のうち、警官が起訴されたのはわずか12件。コロナ禍による遅延もあり、ほぼ全ての裁判がまだ始まっていないか進行中であり、裁判がすでに済み、警官が有罪となったのはジョージ・フロイド事件のみだ。
リストの後に警官が起訴された事件のうち、隣人との喧嘩や恋愛のもつれなど私人として起こした以外の9件の概要を記している。それを読み解くことにより、警察暴力がなぜ起こるのか、その予防策があるのか、が多少は見えてくるだろう。
(*)警察暴力による犠牲者統計を取り続けている policeviolencereport.org から抜き出し、調べたもの。多くが捜査続行中の事件であり、内容が変化しているケースがある可能性あり
2020年の警察暴力事件の犠牲者:黒人248人
黒人市民を殺害した警官が殺人罪で起訴された事件
1月27日 メリーランド州
犠牲者:ウィリアム・グリーンJr.(43)
警官:マイケル・オーウェンJr.(黒人)
交通事故の通報を受けて現場に赴いた警官は、車の中で眠っている黒人男性ウィリアム・グリーンを発見。グリーンが薬物を摂取しているようだとして後ろ手に手錠を掛け、パトカーに移した。警官はパトカーの中でグリーンに向かって7発発射し、6発を命中させて死亡させた。
警察は当初、2人がパトカー内で揉み合っているのを目撃した者がいるとしたが、警察署長はそれを否定。またグリーンが麻薬を摂取していた形跡もなかったと述べている。警官はボディカム未装着につき、映像はない。裁判は始まっておらず、警官が発砲した理由は不明。
警官は2011年に「自分に銃を向けた男」に発砲し、死亡させている。2009年には非番時に「強盗されそうになり」、相手に発砲。相手は逃走。いずれの件でも懲罰なし。
2020年9月、警官の裁判が始まる前の段階で、メリーランド郡は遺族に補償金20万ドルの支払いを決定。警察暴力事件の慰謝料としては相当に高額。
3月13日 ケンタッキー州
犠牲者:ブリオナ・テイラー
警官:1名が近隣住人を危険に晒した罪で起訴されたが、テイラーの殺人では起訴されず
Black Lives Matterが終わる時〜「人種なんて関係ない」が、今はまだダメな理由
今年5月、ミネソタ州にて黒人男性ジョージ・フロイド氏が警官に殺害された事件によりBLM(ブラック・ライブス・マター)運動が全米規模で再燃し、米国社会は…
4月6日 ルイジアナ州
犠牲者:トミー・マクグローゼンJr.(44)
警官:4名(白人男性、黒人女性、黒人男性2名)
住宅地で男が住人の道を塞ぎ、家の中まで付けてきたと通報があり、駆け付けた警官が黒人男性トミー・マクグローゼンを取り押さえようとした。目撃者が撮影した映像によると、マクグローゼンは抵抗し、当初は2人の警官がマクグローゼンを地面に押さえ付け、1人(白人男性警官)はマクグローゼンを何度か殴り付けていた。次の映像では4人の警官が逮捕しようと格闘。最終的にマクグローゼンは手錠を掛けられ、停めたパトカーの中に48分間、留め置かれた。その後、警官はマクグローゼンを病院に連れて行くが死亡。
マクグローゼンは偏執症/統合失調症/うつ病の診断を受けており、この日は3度、警察に通報されていた。3度目の事件で死亡。
4月18日 カリフォルニア州
犠牲者:スティーヴン・テイラー(33)
警官:ジェイソン・フレッチャー(白人)
小売り店チェーン、ウォルマートの店員が、黒人男性スティーヴン・テイラーが商品の支払いをせずに店を出ようとしていると通報。警官2人が駆け付けた時、テイラーは手に持っていた野球のバットを振り上げたが、その動作は緩慢だった。警官はテイザー銃を使用したが効果がなく、テイラーを正面から射撃、テイラーの上半身に当たる。
テイラーは店舗の通路に大量の血を流して転倒。店内には多くの買い物客がおり、ある客が「もう撃たないで!」と叫ぶ中、別の警官がさらにテイザーを撃ち、倒れているテイラーに後ろ手の手錠を掛けた。テイラーはその場で死亡。
警官が店舗に到着してから発砲まで40秒を切っていた。
テイラーの母親は、警官が精神疾患者への対処法を訓練されていないと指摘し、「警官が呼ばれた時、精神疾患を持つ相手が黒人であればまずい結果になる」と語っている。
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