子どもに対する新型コロナのインパクトは、2020年3月「学校の休校」という形で始まった。当時は、「子どもは感染しても重症化しない」と考えられていた。しかし、それから約1年半が経過してデルタ株の感染が拡大している2021年8月現在は、子どもへの感染拡大と重症化、子どもを通じた家族全員の感染が深刻な状況だ。そのさなかでパラリンピックが開催され、学校単位で団体観戦することの是非が議論されている。
この1年余、子どもたちを振り回してきたコロナ禍と「大人の都合」が、子どものメンタルヘルスに悪影響を与えていないはずはない。しかし、影響の背景や範囲は、あまりにも広い。まずは、理解の手がかりとなる「見取り図」を手にしたいものである。
子どもへの影響を「超・上から目線」で見てみると?
ワクチン接種開始以前の新型コロナ対策は、大規模集会の中止や延期、学校・大学・職場の閉鎖、テレワークや業務のデジタル化であった。それらの目的は、感染を拡大しにくくすることであったが、必然的に失職・失業・收入の減少をもたらし、脆弱性を持つ(vulnerable)人々の生存や生活は危機に陥った。この状況は、子どもに何をもたらしうるだろうか。空中から地球を眺めるような「超・上から目線」で概観してみよう。
約1年前にあたる2020年7月、国際ソーシャルワーク学校連盟は「新型コロナウイルスとソーシャルワーク国別報告集」を取りまとめた。現在から見れば、「まだコロナ禍は始まったばかりの時期だった」とも言えるだろう。この報告集は、和気純子氏らの監訳により日本語訳されており、子ども・女性・高齢者・障害者・傷病者・低所得層など脆弱性を持つ人々にとってコロナ禍が何であるのか、分かりやすく示した資料となっている。
同報告書に示されたソーシャルワーカーの仕事とは、「最も脆弱な人々に働きかけ、支援し、ケアをすること」であり、その核心は「対面的な交流、触れ合い、思いやり」にある。しかし、ロックダウン下の街でソーシャル・ディスタンスを保ち、対面も触れ合いも困難な中で「新しい日常」(ニュー・ノーマル)の取り組みを続ける間にも、新型コロナは新しい社会課題を次々に生み出し続ける。「新しい日常」が、そこからの「新しい逸脱」を生み出すからだ。逸脱は「異常行動」をした人々やグループに対するレッテル貼りやスティグマ化につながり、その人々やグループが地域社会のスケープゴートにされやすい。
日本で現在進行中の事例を想定すれば、このことは極めて理解が容易だろう。居酒屋やライブハウスや性風俗店が「自粛」を求められ始めると、「自粛」に応じない店や従業員や顧客が問題視されるようになった。それらの業態の感染拡大への寄与の程度は未だに明確ではないにもかかわらず、「自粛」要請の強度とペナルティは増大するばかりである。
同報告書は、家庭の中で脆弱性の高い人々とされる子どもたちへの懸念と当時の状況を、詳細にレポートしている。まず、コロナ禍が各国で家族を通じて子どもに与えた影響は、各国に共通している。具体的に言えば、学級が閉鎖され、社会的活動が禁止され、家庭内暴力が増加した。
学校が閉鎖されるということは、困難に直面した子どもとソーシャルワーカーの接点を減少させ、子どもたちから学校給食の機会を奪った。家庭内暴力が増加しているにもかかわらず、子どもたちを一時的にでも施設等で保護することは困難になった。施設や病院にいる子どもたちと家族との面会は制限された。もちろん、オンライン授業への対応、機器や通信環境によって拡大する格差など、容易に数え上げられないほど多数の問題が発生していた。
各国の状況の分析から見えてきたことは、まず、家庭内における女性への負担の増加である。女性は自宅で仕事をしつつ、家事労働やケア労働を行い、さらに子どもの勉強を指導することとなった。家庭内の大人に対するストレスが高まることは、子どもの状況を劣悪にした可能性がある。
同時に、ソーシャルワーカーが子どもに接触することも困難になっていた。オンラインで子どもの状況を適切に把握し、タイミングを逃さずに必要な介入を行うことは、オフラインで行える通常時よりもはるかにハードルが高くなっていた。同報告書の結論部分には、2020年春ごろの懸念として、「家庭内暴力の増加」「長時間同じ空間に閉じ込められることに苦労している家族」「子どもや高齢者への潜在的な虐待」が挙げられていた。対応するためには、何らかの知見や過去のデータを参照したいものであるが、なにしろ人類にとって初めての経験である。したがって、「利用可能なデータの不足」という問題もあった。以上が、2020年春時点での各国のソーシャルワーカーからの報告、および各国の報告に基づく取りまとめである。
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