これで良いのか? 歪んだコロナ対策の結果生まれた勝者と敗者

文=斎藤満
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Getty Imagesより

 中国で最初に新型コロナウイルスの感染者が確認されてから2年近くの月日が経とうとしていますが、ここまでの新型コロナウイルスとの戦いにおいて、様々な側面で明暗、勝者・敗者が分かれました。しかし、その中には素直に納得できない、歪んだ「勝者」も散見されます。

インドと中国の現状

 まず、新型コロナ禍を真っ先に乗り切り、コロナ戦争の勝者を自認している中国と、感染爆発で医療崩壊し、悲惨な状況が世界に紹介されたインドにおいて、様相が逆転した感があります。

 中国では相変わらず厳格な感染者の管理を行い、10人でも感染者が出るとその地域をロックダウン(都市封鎖)して感染の拡大を防いでいます。コロナ戦争での勝者を自認しますが、未だにコロナとの戦いを続けています。

 中国国家衛生健康委員会の報告によると、今年7月22日の段階で、ワクチン接種回数は15億回を超えたことになっています。それでも新規の感染者が発生する事態に、当局は一層のワクチン普及を進め、年内に8割から9割の接種率を達成しようと、各地の行政に働きかけ、住民を説得して接種を受けさせようとしています。そのために、接種をした人には豪華な景品や現金を付与するようになっています。素直に接種した人より、ごねた人が得をする不公平が生じています。

 一時は「勝者」中国をアピールしようと、ワクチン外交を展開、中南米やアジア諸国に中国製のワクチンを提供したうえ、さらに中国景気の立て直しにコロナ禍を利用し、マスクや医療器具、ワクチンの輸出で経済を支えました。ところが、中国ワクチンを接種しても感染が拡大する報告が増え、中国のワクチン外交も行き詰まりました。

 一方、コロナで大きな被害を受けたインドが今やコロナ前の経済、生活を取り戻し、正常な日常を取り戻しています。新規感染者数は一時1日に40万人にも達しましたが、最近では2万人前後に減少し、医療ひっ迫も改善が見られます。

 現地の医療専門家によると、2度のワクチン接種を終えた人は1割にも達しないのですが、国民の6割から7割がすでに感染して「集団抗体」を獲得したため、と見られています。もっとも、その過程では、公式発表で約40万人の犠牲者を出したと言われますが、焼き場や棺桶の需要から、実際の死者はその10倍の400万人を下らない、とも言われます。

 このため、結果としてコロナ前の日常を取り戻し、マスクなしの正常に戻ったのですが、インド当局は決して日本にはこの方法を勧められないと言っています。医療崩壊で医者に診てもらえないまま死を余儀なくされる人であふれ、地獄を見たと言います。

 もっとも、一度感染した人がまた感染するケースも世界中で報告されているだけに、インドの平穏がいつまで続くのか、まだ予断を許しません。

感染放置国の政治リスク

 インドと同様に「集団抗体」獲得を目指した国の多くが、結果的には政治的に苦境に追い込まれ、「敗者」となりました。

 米国のトランプ前政権は、新型コロナはただの風邪だとして当初は無視しました。これにトランプ支持者が追随し、米国民の約4割がこれを信じ、ワクチン接種にも応じません。この結果、米国は世界一の感染者と死者を出し、トランプ支持派の中からも政府のコロナ対応に不安を持つ人が増え、トランプ氏は再選に失敗しました。

 同様にブラジルのボルソナロ大統領もコロナはただの風邪だと言い、ワクチンより集団抗体のほうが効果的として、感染を放置しました。この結果、ブラジルは一時米国に次いで2番目に多い感染者、死者数を出し、大統領のコロナ対応に対して、全国で政府への抗議デモが展開されました。

 その一方で、ニュージーランド、オーストラリア、台湾は、徹底的に水際でのウイルス流入阻止に力を注ぎ、感染者が出るとすぐに感染者を隔離し、一時的にロックダウンも利用して感染を抑え込みました。この結果、一時的な生活の不自由さは余儀なくされたものの、感染者、犠牲者は最小限にとどまり、ほぼ日常の生活を維持しました。これらは政治的には「勝者」に分類されます。

 また一方で、英国は当初、トランプ氏と同様に集団抗体を目指したのですが、感染者や犠牲者の急増したために方針転換し、急ピッチでワクチン接種を進め、経済、生活面で平穏を取り戻しました。イスラエルも真っ先にワクチン接種を推進し、ほぼ全国民が接種を終了し、「勝ち組」に入りました。

 これに対して日本はこのどちらにも入らない中途半端な対応で、政府に批判が集まりました。当初はトランプ氏の影響もあって集団抗体獲得の声があったのですが、治療薬のない新型コロナの感染増に国民が不安に陥りました。しかもワクチン接種が遅れ、結果的に感染を抑制できず、医療崩壊を招いてしまいました。

 感染しても医者に診てもらえないまま死ぬ、との不安を抱えた感染者が増えるにつれて、菅政権は国民の支持を失いました。結果として日本も「負け組」に入ります。

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