「東京五輪は大成功」安倍元首相が“国民的思い出づくり”を通して成し遂げようとした政治的な目的とは?

文=早川タダノリ
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 今回の巨大ナショナル・イベントの開催の〈目的〉を、安倍前首相は次のようにはっきりと書いていた。

「スポーツがもたらす感動は私たちを一つに結びつけてくれた。表彰台で日の丸が掲げられ、君が代が流れる感動を分かち合うことで、日本国民の絆はいっそう強固なものとなります。思い出の共有はアイデンティティに向き合い、日本人としての誇りを形成するうえでも欠かせない要素です」(「WiLL」2021年10月号、34頁)

 彼にとっては、まさにこの「日本人としての誇り」を形成することが、五輪で実現すべき目的であったのにほかならない。

 しかもそれは、単に表彰式で「日の丸が掲げられ、君が代が流れる」ことにとどまらない。その「思い出」を「日本国民」が共有することをつうじて、「日本人」としてのアイデンティティを獲得することが目指されていたのである。

 実際、この「WiLL」寄稿に先立つ、「月刊Hanada」2021年8月号での櫻井よしことの対談では、

「〔党首討論で菅首相が「東洋の魔女」の思い出をとくとくと語ったように〕国民が同じ想い出を作ることはとても大切なんです。同じ感動をしたり、同じ体験をしていることは、自分たちがアイデンティティに向き合ったり、日本人としての誇りを形成していくうえでも欠かすことのできない大変重要な要素です」(「月刊Hanada」2021年8月号、37頁)

「日本人選手がメダルをとれば嬉しいですし、たとえメダルをとれなくてもその頑張りに感動し、勇気をもらえる。その感動を共有することは、日本人同士の絆を確かめ合うことになると思うのです」(同上、38頁)

 と、とくとくと語っていた。まるっきり今回の「WiLL」の小文と同じことを喋っている。これは安倍前首相の政治思想が吐露されていると見ていい。

 菅首相がことあるごとに「東洋の魔女」を持ち出すのは、それしか知らない・語れないからではなかったのだ。当時まだ生まれていない人であってもかすかに知っている共通の〈記憶〉を喚起させるために、何度も何度も同じ話をしていたわけだ。

 「週刊金曜日」誌掲載の拙稿でも書いたが、やはり安倍氏はきわめて自覚的に〈国民的な記憶の共有〉を追求している。「よかったよかった」感を演出し、国民的レベルでの「思い出づくり」をすることこそが、日本人としてのアイデンティティを形成することになるとよく知っているのだ。

 この点で「国民の物語」としての日本版歴史修正主義運動と通底する。「記憶」はフィクションや物語でも構わないが、それを(強制的に)共有させることこそが、国家権力の礎であることをよくわかっているのだ。

「感動」の動員

 これは明確に、1964年の東京五輪の「成功体験」を再びなぞりたいという政治的意図のあらわれだ。

 1964年の五輪大会も、多くの人々は直前まで関心がなかったばかりか、はっきりとした反対の声も広く存在していた。しかし、「東洋の魔女」を筆頭とした日本人選手の活躍や、全国を巡回した聖火リレーの〈記憶〉がメディアで何度も反復されることを通じて、東京オリンピック=「よかった」思い出として形成されていく。

 さらに高度経済成長時代の右肩上がりの記憶(1968年に日本はGNPで西側第2位となる)と結びつき(例えば映画『ALWAYS 三丁目の夕日’64』のような)、実際にその時代を体験してもいないのになぜか「郷愁」を喚起される国民的〈記憶〉として社会に流布されていった(この効果について、安倍氏自身が著書『美しい国へ』(文春新書、2006年)で自ら語っている)。

 かつて「世界第二位の経済大国」を看板にしていた過去への「郷愁」は、2010年代以降に「日本スゴイ」ナショナリズムとしてリサイクル利用されまくったわけだが、大きく脇道にそれてしまうのでここでは省略する。

 ともあれ、「私たちを一つに結びつけ」て「日本人としての誇り」を形成するために、疫病流行下で幾多の犠牲をもかえりみず、なりふりかまわずオリ・パラ大会開催に突進したのが自民党政権だった。

 共通の〈記憶〉を媒介にして「一つに結びつけ」られることは、「すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を…」(2011年の「フジテレビ抗議デモ」に際して登場した2chコピペ)的な快感と高揚感を動員される側に与える。

 20世紀のさまざまな体制のもとで行われてきた巨大イベントは、この政治的効果をつねに狙ってきたのだから、「じーん」と高揚してしまうのも無理からぬことで、さほど珍しい現象ではない。

 安倍前首相のような動員する為政者の側からすると、巨大運動会でたやすく感動してくれるマヌケを業務的にハメているだけなのだが、「一体感」の高揚に潤んだ目で「オレたちの感動をわかってくれるリーダーだ!」と喜ぶ人がでてくるので、おもしろくてしょうがないだろうなあ。

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