子供を育てることは罰なのか? 日本はなぜ子育てに冷たい国になってしまったのか?

文=望月悠木
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末冨芳氏

 厚生労働省が6月に発表した「人口動態統計(概数)」によると、令和2年に生まれた子供の数は84万832人と過去最少を記録した。新型コロナウイルスの感染拡大によるコミュニケーション機会の減少、経済的な不安など、様々な要因が想定される。ただ、日本では子供を持つことが贅沢となり、子供を育てることが罰になっている現状もこの数字に大きく寄与しているのではないか。

 7月中旬に出版された、日本大学文理学部教授の末冨芳氏と立命館大学産業社会学部准教授の桜井啓太氏の共著『子育て罰― 「親子に冷たい日本」を変えるには』(光文社新書)では、日本が子供を育てることがもはや“罰”になっている現状を具体的かつ厳しく指摘されている。著者である末冨芳氏に子育て罰の実態、背景、そして子育てしやすい国にするための提言を伺った。

末冨芳(すえとみかおり)
専門は教育行政学、教育財政学。主な著書に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店/編著)などがある。

所得格差なく平等に子育て罰

――子育て罰の象徴として、著書内では児童手当等の問題点を厳しく指摘されていました。改めて児童手当等の現状をお聞かせください。

 民主党政権時代には、対象世帯に所得制限を設けず導入された児童手当制度、所得制限のなかった高校無償化などが、2012年に自民党に政権交代して以降、次々と改悪されています。これに加えて、2011年の年少扶養控除の廃止、2019年の消費税増税など、家計を苦しめる様々な政策が進められてきました。そして、2021年2月には、以下の方針が閣議決定されました。

1.中学生以下の子どもを対象とした児童手当のうち、高所得者向けの「特例給付」について、世帯主の年収が1200万円以上の世帯は廃止。
2.高所得層の児童手当廃止は2022年10月支給分から廃止され、約61万人の子どもがゼロ支援になる。
3.高所得層への浮いた財源・年間370億円を、新たな保育所整備など待機児童対策に充当する。
4.2022年度から2024年度までで14万人分の保育の受け皿を確保(1年で約4万6000人の待機児童解消財源)

 この方針には様々な問題点があり、ちょっとした収入の差によって児童手当を受け取れない世帯が生まれます。

 約61万人の子供を児童手当支給対象から排除して、約14万人の保育の受け皿を確保することは、はたして子育て支援と言えるのでしょうか。また、高所得層の支援を削ることは、少子化に拍車をかけるだけでなく、消費の冷え込み、そして何より、「納税しているのに支援を受けられない」という疎外感を植え付けることになります。

――低所得層の状況はどうなのでしょうか?

 低所得層の支援も全くもって不十分です。子育て世帯の16.9%が食料を、20.9%が衣服を買えなかった経験があり、日本でも深刻な貧困状態にある人は少なくありません。にもかかわらず、格差是正を果たすための所得再分配は、子育てをする若い世代には全く不十分です。

 所得に関わらず、全ての子育て世帯は酷い子育て罰を受け続けているのです。

――低所得層の支援には理解を示しつつも「高所得層はお金があるから児童手当をなくしても良い」と考える人もいそうですが……。

 高所得層の子供に支援しないことは法の下の平等に反することです。憲法第14条に「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と記されている通り、各家庭の経済状況によって支援を受けられない、ということは適切なのでしょうか。親が金持ちだからといって、子供も金持ちになるとは限りません。富裕層であろうがなかろうが、少子化に苦しむ日本では、すべての子供を応援する発想がなければ、少子化問題の改善などされるはずがありません。

 ヨーロッパ諸国は子育て支援に力を入れていますが、基本的には全ての子育て世代に平等に児童手当を給付したうえで、低所得層に積み増すやり方を採用しています。子供の権利を尊重し、“子供は独立した存在”と考えており、様々な事情によって親が時には仕事をできなくなる可能性も想定して、「全ての子供に最低限のセーフティーネットを用意しよう」という意識が根付いているからです。

 日本でも、子供はちゃんと人権を持ったひとりの人間として、世帯所得に関係なく支援しなければいけません。

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