HPVワクチン接種でひとりでも多くの命を救うために…厚労省は積極的勧奨を再開せよ

文=和久井香菜子
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Getty Imagesより

 HPVワクチンへの対応が、正念場を迎えている。このままだと2022年以降、ワクチンが入手困難になる可能性があるのだ。HPVワクチンの子宮頸がんなどへの有効性が示され、世界中で需要が急増していることがその背景にある。

 日本においてHPVワクチンは2013年4月から定期接種が行われており、対象となる女性は無料で受けられる。しかし定期接種が行われるようになった直後から「神経症状が出て苦しんでいる子がいる」という情報が新聞などでセンセーショナルに報道され、わずか2カ月後には積極的推奨が差し控えられた。希望者は無料で接種できるが、積極的に勧めない、という中途半端な施策だ。その後もワクチンの危機をあおる報道は暴走し、それまで70%ほどだった接種率は1%未満へと激減した。

 しかし状況は変わりつつある。2018年2月に7万人を対象にした「名古屋スタディ」が、2021年1月には韓国の成均館大学校から大規模な調査が発表され、HPVワクチン接種と重篤な健康被害の関連性はないことが示された。過激な報道とは異なり、ワクチンの安全性が次々と証明されている。

 ワクチンの効果に対するエビデンスにも続報が続く。2019年に新潟大学が約1500人を対象に調べたところ、初体験前にワクチンを打った人は感染リスクが93.9%も下がっていたという。

 2020年にはスウェーデンのカロリンスカ研究所が約167万人を対象にした調査結果を発表。接種者は子宮頸がんの発症リスクが63%、17才未満で接種した人に限ると88%も低いとのデータを示している。

 ところが未だに積極的推奨への議論が始まらない。今年10月までに再開しなければ、定期接種の最終学年である高校1年生分に確保したワクチンすら使い切れない公算が高い。つまり日本向けに調整されたワクチンがだぶつき、廃棄せざるを得ない可能性が出てきている。

 HPVワクチンは、咽頭がんや肛門がん、陰茎がんの予防にもなるため男性が打つことにもメリットがある。しかし供給の少なさから多くの国で男性への積極的接種は行えないのが現状だ。そんな状況下でワクチンが廃棄されれば、世界的に非難されるだけではなく、今後のワクチン供給にも影響が出ることは間違いない。

 一刻の猶予もない状況になり、「一般社団法人HPVについての情報を広く発信する会(みんパピ!)」が署名運動を行った。3日たらずで55,616名もの賛同者を集め、「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」による積極的な接種勧奨を求める要望書とともに署名を田村憲久厚生労働大臣と加藤勝信官房長官に提出した。

 それを受けて田村厚労大臣は8月31日、閣議後に記者会見を行った。会見では積極的推奨再開について「なるべく早く」としながらも、「コロナが一段落してから審議に入る」として時期については明言しなかった。これでは10月に積極的推奨が再開されるのは実質不可能に近い。

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