——ここまで状況が悪化してしまった背景には、メディアを中心に行われた「公務員叩き」の影響もあると感じますか。
瀬山:そうですね。公務員バッシングが見掛け上の公務員数を削減することを後押しし、非正規公務員を増大させたという見方はあり得ると思います。背景には、バッシングをする側の生活の困窮や、行政に対する不信があったのではないかと思います。しかし、結果として、それが、さらなる行政の弱体化を後押しすることになってしまった。
今でも、役所の窓口や、福祉、就労支援などの部署で相談員として働く非正規公務員が、住民から、「公務員は楽してていいな」といった言葉を投げられることがあると聞きます。新型コロナの影響もあり雇用不安が増し、大変な状況で生活している人からすると、行政で働いている人は安定しているように見えるのかもしれません。
ただ、実際に窓口にいるのは、いつ自分も支援が必要な側になるかわからない状況で働いている非正規公務員である場合も少なくないわけです。アンケートには、そうした住民からのクレームを受ける、サンドバック要員として雇われているように感じるという悲痛な声もありました。
渋谷:公共機関で働いている人が、必ずしも恵まれた待遇で働いているとは限らないのが事実です。情報の受け手にもメディアの情報を鵜呑みにするのではなく、リテラシーを身につけ、自分で判断していただきたいと思います。
やりがいや善意に頼るシステムからの卒業を
——制度や待遇に関して、どのような改善をしていく必要がありますか。
瀬山:例えば、民間企業では非正規でも一定年限働くと、無期雇用になることを申請できる制度が導入されています。しかし、非正規公務員には民間の労働法制は適用されず、そうした無期転換権はありません。せめても、非正規公務員も一定の条件をもとに、無期転換できるような仕組みがあれば、状況は変わるのではないかと思います。
無期採用になったとしても、収入などの条件が変わらなければ、問題は継続するとも言えます。単年度のままでは、労働条件の改善にしても、ハラスメントの問題にしても、「声をあげたら、来年打ち切れられるかもしれない」という問題が常に付きまとうことになるので、無期になり、地位が安定することは、とても重要です。
加えて、給与や休暇制度の改善も重要な課題だと思います。これまでの、働き手のやりがいや善意に頼る仕組みでは、この先の公共サービスを維持していくことはできないと考えています。
はむねっとのアンケートでは、回答者の3人に1人は主たる生計維持者で、女性の主たる生計維持者のうち、4割以上が2020年の就労年収が200万円未満、7割が250万円未満でした。また、主たる生計維持者でなくとも「自分の収入がないと家計が厳しい」と回答した人は半数以上です。こうした実態も踏まえた上で、働き手が将来展望を持ち、安心して暮らしていける収入や社会保障のあり方を考えていくべきだと思います。そして、相談員などの対人援助職などの仕事を、希望を持って選べる職業にしていく必要があると思います。
渋谷:「公共サービス基本法」の第11条には<国及び地方公共団体は、安全かつ良質な公共サービスが適正かつ確実に実施されるようにするため、公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努めるものとする>と書かれています。理念法ではあるのですが、この法律の存在を多くの人に知らせ、待遇改善に繋げていきたいです。
「誰が行政サービスを担うか」が私たちの生活に影響する
——「自分は非正規公務員になる予定もないので関係ない」といった認識の人もいると思いますが、非正規公務員のこうした現状は私たちの生活にどう影響しますか。
瀬山:全国には、地方自治体の非正規に限っても、短期任用を含めると112万人の非正規公務員がいます。そのため、身近な人が公共職場で、非正規の立場で働いているという人も少なくないと思います。加えて、行政による住民サービスは私たちの暮らしのあらゆる生活場面に関わっていて、無関係な人はいません。
渋谷:行政の公共サービスそのものは市民から見えやすいものですが、それを誰が担うか、実は人事政策も市民に関わるものです。専門性のない職員ばかりになったら、公共サービスの質は低下していくでしょう。公共サービスの担い手に関する法や制度がどのようになっているのか、そして、そのことが自分たちの生活に影響するという意識を持っていただけたらと思います。
——今後の活動予定についてお伺いします。
瀬山:「はむねっと」を立ち上げたのは今年3月で、約半年間、発信をしていくなかで、公務非正規問題はまだ十分には知られていないことを感じてきました。まずはアンケートに回答いただいた1200人を超える非正規当事者の声を多くの人に届けていきたいです。
加えて、非正規公務員のおかれている不合理で理不尽な実態を改善していくことが、私たちの目的の一つです。そのため、今回のアンケートでつながった方ともネットワークを組み、追加の実態調査なども行いながら、非正規公務員同士で繋がり声をあげていきたいと考えています。
元々、公務という仕事の特性上、自分たちの置かれている実態について外に対して訴えにくい状況がありました。さらに単年度任用の不安定な状況下で、限られた席を手に入れるため、職場内で非正規同士対立してしまったり、労働組合などの組織ともつながれていなかったり、相談窓口が十分でなかったりと、孤立してしまっている人は少なくありません。その意味でも、ネットワークを組み、広げていくことが大切だと思います。
はむねっとでは、語り手を募りながら「語り場」を開催し、職域や地域を超えた横の繋がりを作っていけたらと思っています。自分たちが経験していることは、個人の問題ではなく社会の構造的な問題であると認識し、状況改善に向けて大きなうねりを起こしていけたらという思いです。関心のある方は、是非、HPからご連絡いただければと思います。
渋谷:アンケート調査を経て、個人で動くこと・声をあげることの難しさを感じました。「はむねっと」に声を届けていただければ、団体を通じて社会に対して発信がしやすくなります。「あなたが伝えたいことをはむねっとを通して伝えることができる」ということも広めていきたいです。
★「はむねっと」の活動情報はこちら
1 2