【シリーズ黒人史14】Black Lives Matterへと続くアメリカ黒人の歴史~医療とコロナ禍

文=堂本かおる
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タスキーギ梅毒実験

 アメリカには「タスキーギ梅毒実験」と呼ばれる歴史上の汚点がある。1932年から40年間の長きにわたり、アフリカン・アメリカン男性600人が梅毒治療の人体実験に使われたのだ。

 アメリカ公衆衛生局は、南部アラバマ州メイコン郡のタスキーギで実験参加者を募った。奴隷制の終了後は多くの黒人が小作農となった貧しい田舎町だ。集められた600人のうち399人は梅毒に感染しており、201人は無感染だったが、全員が「悪い血」の治療を無償で受けられると説明された。悪い血とは、一般的な慢性病全般を指す総称だった。

 実験の目的は無治療の梅毒の進行具合を確かめるもので、参加者はアスピリンやミネラルのサプリメントを治療薬として飲まされ続け、実際の治療は行われなかった。1947年にはペニシリンが梅毒の治療に有効とされ始めたが、タスキーギでは意図的に使われなかった。

タスキーギ梅毒実験の一環として治験者から採血する白人医師。1932年(wikipediaより)

 やがてアメリカ公衆衛生局のサンフランシスコ支部に所属する捜査官がタスキーギ梅毒実験に気付き、メディアにリークしたことから1972年に実験は終了した。その時点で128人の実験参加者が梅毒または合併症で亡くなっていた。加えて少なくとも40人の妻が感染しており、胎内感染して生まれた子供も19人となっていた。

 この件は激しく批判され、翌1973年に議会による公聴会が開かれ、生存者と遺族に慰謝料が支払われた。1997年にはタスキーギ梅毒実験を描いたテレビドラマ「Miss Evers’ Boys」(主演:アルフレ・ウッダード、ラリー・フィッシュバーン)が放映され、その3カ月後に時の大統領ビル・クリントンが公式謝罪を行っている。

 このタスキーギ梅毒実験は、実験終了から50年近くを経て全世界を襲ったコロナ禍において、アフリカン・アメリカンの命を大きく脅かす脅威となったのだった。

梅毒:性行為による感染症。感染後3週間程度で陰部や唇などに痛みの無いしこりができるが(第1期)、症状は自然に消える。ただし治癒はしておらず、数カ月後に手のひら・足の裏・身体中に赤い発疹が出ることがある(第2期)。これも自然に消える場合があるが、数年後、皮膚・筋肉・骨にゴム腫ができたり(第3期)、心臓・血管・脳などに病変が生じ(第4期)、神経障害を起こしたり、死に至ることもある。現在は治療法が確立しており、多くの場合、第1~2期での治療によって治癒。第3~4期への進行は稀。

米国コロナ禍の現状〜非マスク派との戦い

 現在、アメリカのコロナ禍は非常に複雑な様相となっている。2020年1月に米国初の陽性者が判明。4月にニューヨーク市で感染爆発となり、その後、全米規模で感染が急激に広がり、今年1月にピークを迎えた。

 しかしピーク直前の12月からワクチン接種が始まっており、接種年齢枠が広がるにつれて感染者数は減り、6月にはいったん非常に少なくなった。だが、トランプ政権時からの「コロナは嘘」「ワクチンを打たない自由がある」と主張するグループに加え、ワクチンを打ったがゆえに「もうマスクは不要」とする人も増えた。そこにデルタ株が登場し、夏以降は感染者数が再度増え続けている。

 にもかかわらず、8月に学校が再開したフロリダ州、テキサス州では共和党の知事が「学校でのマスク義務化」を禁止し、開校早々に感染者が出て閉校するケースが相次いでいる。事態を鑑みた判事がマスク義務化禁止令を違憲と裁定したところ、その裁定に知事が不服の申し立てするなど混沌状態となっている。

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