元女子バレー日本代表・大友愛の“しくじり”に違和感 盗撮被害はアスリートなら我慢すべき?

文=望月悠木
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大友愛公式ブログより

 アスリートは対戦相手や自分自身だけでなく、世間からのプレッシャーなど、様々な障壁と向き合わなければいけない。中でも、女性アスリートはその障壁が非常に多いのではないか。9月7日放送『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)では、元女子バレー日本代表の大友愛が出演し、24歳という若さで現役引退を決意した背景を語った。

 まず大友は現役時代のしくじりとして「マスコミ嫌いで悪態&塩対応」をあげる。彼女は「当時は“美人アスリート”と括られることがあって、それが私はすごい嫌でした」と話し、アイドルのように扱うメディアの取り上げ方に不満をもったと打ち明ける。

 当時のメディアによる大友の扱い方は相当にひどかったようだ。日本代表に選ばれた19歳の時には世界大会のCMに出演したのだが、その内容は「女性タレントにセクハラするお笑い芸人さんに、私がスパイクを打って(ボールを)頭に当てて対峙する」といったものだった。

 挙げ句の果てには写真集の撮影にまで駆り出され「バレーに集中したい」という気持ちを日々募らせていたと語る。

 また、パパラッチにも相当に頭を悩ませたそうだ。プライベートの隠し撮りに留まらず、宿舎の女子トイレでの盗撮や、赤外線カメラを使用して試合中に下着を撮影するなどの被害も珍しくなかったと話す。

 こうした問題を抱えていたのは彼女だけではない。大友は「(当時は)短パンの長さがすごく短い決まりができて、選手の中では下着問題は悩みの一つ。みんながナイーブになっている問題でした」と、バレーボール界には同様の被害を受けた選手が多くいたと語っていた。

大友愛は何にしくじったのか?

 大友は活躍すれば活躍するほど、プレイ以外のことばかり取り上げられることにストレスを感じたそうだ。番組では、「写真を撮られるのが怖くなり外出をしなくなった」「生活に注目されることからは逃げることができなくて、プレッシャーに押しつぶされそうになった」と当時の心境を語っている。

 結果的に2006年に引退を決意したわけだが、あまりにも早い決断に後悔したという。亡くなった祖父が「愛の姿をTVで見れないのは寂しい」と話していたのを知ったからだ。

 それと同時に、現役当時の振る舞いにも後悔の念が湧いたという。大友は「メディアが取り上げてくれないと、頑張っている姿や大会への思いがファンの方に届かないことに、いまさらながら実感しました」とメディアの大切さに気付いたと振り返る。

 大友は2008年に復帰を果たすが、その後はチームの中心選手として以前よりも責任あるマスコミ対応を心掛けているという。番組では教訓として「マスコミを通してカメラの向こう側の応援してくれる人に向けて話そう」という言葉を残している。

 決して大友を責めるつもりはなく、本心からの言葉なのだから否定する気もない。しかし、耐え難いことからの逃避を身勝手な判断と反省し、それを“しくじり”と消化してしまう番組の扱いに違和感を覚える。

 アスリートであれば「競技に集中したい」と考えることは当たり前であり、望まないメディア露出に不満を抱くのも無理はない。加えて、プライベートの詮索や悪質な盗撮被害に遭っていれば、逃げ出したくなるのは当然である。

 終始大友が何にしくじったのかよくわからず、メディアの異常さばかりが露見した番組内容に感じた。

見直されるアスリートとメディアの関係

 アスリートとメディアの関係はいま大きく変わろうとしている。2021年6月には大坂なおみ選手がメディア対応の問題を提起し、記者会見を拒否したのは記憶に新しい。

 また、女性アスリートを性的に消費することにも「NO」が突きつけられた。2020年11月には日本オリンピック委員会(JOC)など7つのスポーツ関連団体が「アスリートへの写真・動画による性的ハラスメント」に関する共同声明を出した。情報提供窓口も設けられ、約半年間で、延べ1000件の情報提供があったという。

 『しくじり先生』のなかで大友はメディアの大切さを口にしていた。確かにメディアはアスリートとオーディエンスをつなげる存在であり、競技や大会を盛り上げる重要な役割を担っている。しかし、競技自体の魅力や各選手のパフォーマンスではなく、容姿を前面に押し出したり、女性アスリートを性的に消費するようなコンテンツはそうした役割を果たさないだろう。

 選手に“大人の対応”を求めることは根本的な解決には決してならない。メディア側、そしてメディアの先にいる私たちが考え直さなければいけない。

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