「年をとった“女子アナ”は見たくない」女性アナが直面するキャリアの壁について小島慶子さんに聞いた

文=雪代すみれ
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小島慶子さん:©️今村拓馬

 “女子アナ”という言葉は我々の日常に定着している。だが、違和感を覚えたことはないだろうか。

 男性アナウンサーのことは“男子アナ”と言わないのに、女性アナウンサーのことは“女子アナ”と呼ぶ。“女子アナ”という言葉には「女性のアナウンサー」という以上の意味が含まれているのだ。

 元TBSアナウンサーでエッセイストの小島慶子さんは、今年3月の国際女性デーの前日に、メディアで働く女性有志でリレートークを行った。その中の一つのテーマが「メディア表現とジェンダー」であった。

 アナウンサー、キャスターとして働く女性たちが直面する課題や、メディアにおけるジェンダー表現への違和感についてトークをしていたところ、現役のアナウンサーやキャスターたちが男女複数参加してくれた。決定権のある立場には男性が多く、メディアの女性の扱い方に違和感を覚えても、言い出せないことも少なくないという。

 女性アナウンサーやキャスターが孤立しないよう「組織を超えた繋がりが必要」と感じた小島さんは「女性アナウンサーネットワーク(FAN)」を立ち上げた。活動はメーリングリストでの情報共有や、月に1~2回の勉強会、交流会をオンラインで行っている

 ジェンダーへの関心が高まりつつある中、女性アナウンサーはどのような壁に直面しているのだろうか。また、その壁を取り除くために私たち視聴者はできることがあるのか、小島慶子さんに話を伺った。

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小島慶子(こじま・けいこ)
1972年生まれ。95年TBS入社。2010年に独立。エッセイスト、タレント、ソーシャルコミュニケーター。東京大学大学院情報学環客員研究員、昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員。連載: AERA、VERY、日経ARIA、withnews、mi-mollet 、FQ Kidsほか

女性アナウンサーが直面する壁

 ここ数年、テレビ番組においてもジェンダーや人権に関する表現が問題となる機会が増えている。だが、番組内で偏ったジェンダー表現があっても、アナウンサーの立場で指摘するのはなかなか難しいという。

 メディア内でも変化はあるものの、キャスティング権を握るポジションにある人の多くは男性で、悪気なく女性アナウンサーに“女子アナ”の役割を求めることが多いのが現状です。“女子アナ”とは、若くて華やかなアシスタント、アイドル的な役割もこなす気が利く女の子、というイメージでしょうか。従順な女性像が好まれるので、女性アナが主体的に発言すると「うるさい人」と見られてしまうことも。意見を言ったらキャスティングされなくなるのではという不安から、ニコニコしながら葛藤を抱えている女性アナウンサーもいると思います。

 「ジェンダー主流化」——つまり様々な場面でジェンダーの視点から物事を検討・分析する必要性は国際的に注目されて久しいものの、日本のメディア業界では「一部のうるさい人が何か言ってる」「女性だけが関心を持つ分野」といった認識の人も少なくありません。

 一方で主要な放送局でも、20~30代の社員が自主的にジェンダーやLGBTQについての勉強会を行う動きが出てきています。近年は、性差別やセクハラについてきちんと「あってはならないことだ」と放送で発言する女性アナウンサーやキャスターが視聴者に支持され話題になることも。これは先述したような“そつなく従順な”役割が求められることが多い環境では、勇気のいることです。そうした声をあげた人が孤立しないよう、同じ意識を持っている仲間がいるという実感が持てる、横の繋がりを作ることが大事だと思いました。

 「女性アナウンサーネットワーク(FAN)」では、例えば放送中にジェンダーに関する偏見を助長しかねない表現があったときに、アナウンサーやキャスターがどんなふうに介入したら効果的だったか、スタッフにどんな提案をしたら上手くいったかなどの経験もシェアしています。(小島さん)

 昔は「30歳定年説」という言葉があったように、30歳を過ぎると女性アナウンサーは仕事が少なくなっていった。今では徐々に、出産後に番組復帰したり、30歳以降も活躍し続ける人も出ているが、キャリアに悩む女性アナウンサーは少なくないという。

 一般的な仕事では、年次を重ねて実績を積むほど信頼が増し、任される仕事も増えますが、女性アナは未熟さや新鮮さが重視される傾向があります。だから若い女性アナウンサーには、仕事が集中します。30代でキャリアの展望が描けなくなり、悩む人が多い。

 一方で、私がキャリアをスタートした25年前と比べれば、30代の女性が報道番組のメインキャスターを担うことが増え、育児との両立もしやすくなっています。40代、50代のベテランの女性アナウンサーがテレビに出続けることも、かつてよりは増えています。それでも全体を見ると、まだまだ女性が多様な活躍の場を得ているとは言い難い状況です。ローカル局では未だに「30歳定年説」は現役で、20代の終わりの頃には女性の先輩はほとんどいないといったことも珍しくないようです。

 起用サイドに「視聴者は年をとった女性の顔は見たくないだろう」という価値観が依然として強く、女性が40代・50代で主要なポジションで起用される機会は男性よりも少ない。男性キャスターは50代、60代で新しい番組のメインキャスターに抜擢されることも珍しくないですが、女性はどれほど実力があっても、熟年になると「そろそろ若手に譲ってください」と交代させられることも。白髪頭で深いシワのある男性メインキャスターは皆さんも思い浮かぶと思いますが、日本の女性キャスターでそのような人を見たことがありますか?男性のシワには貫禄があるけど、女性のシワは見苦しい、というイメージがないでしょうか。(小島さん)

 ジャーナリストやプロの司会者として活躍するには、ある程度の年数や実績、経験を重ねることが必要だ。しかし小島さんは、「これまで女性アナウンサーは『経験よりも鮮度が大事」と考えられ、視聴率の低下や番組リニューアルのタイミングで、女性アナを安易に若い人に交代させることも多かった』と話す。ある程度年齢を重ねても画面の華として扱われ、報道番組であっても、女性は視聴率を稼ぐ看板としてキャスティングされるという独特の慣習が存在するようだ。

 日本では、女性のニュースキャスターには、記者の経験や報道での実績はさほど重視されません。女性は視聴率を稼ぐための看板として起用される側面が強いため、もしニュースキャスターを目指すなら、まずは報道番組とは関係のないバラエティ番組などで「知名度」と「人気」を獲得する必要があります。

 アナウンサーの仕事は幅広く、報道を志す人、バラエティのプロを志す人、朗読のプロを目指す人、いろんな人がいます。どの専門を目指す人にも、若い時からベテランになるまで活躍のチャンスがあるのが望ましいと思います。

 でも、実際はそうはなっていないのが問題です。報道を志す人を例にとってみると、ニュースキャスター志望の若い女性が、まずはバラエティで人気者を目指さなくてはならないという構造は、歪ですよね。もちろん、キャスターには知名度が不可欠ですが、アナウンサーや記者として20〜30代でしっかり報道の経験を積みながら知名度を高め、メインキャスターを目指せるようにするのが、本来あるべき育成の道筋ではないかと思います。

 「20代にバラエティで活躍した“女子アナ”やタレントが、30歳前後で報道番組のキャスターに抜擢される」というパターンが多いことからも「女性キャスターは経験よりも話題性」という起用サイドの価値観がうかがえます。もちろん、中には女性キャスターを長い目で育てようというプロデューサーもいますが、これまでは視聴率の低下を女性キャスターの好感度のせいにして、キャスター交代で話題作りをするというパターンが繰り返されてきました。(小島さん)

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