「45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要だ」日本を代表する経営者の1人、サントリーホールディングスの新浪剛史社長による発言が報道され話題になっています。
ウィズコロナの時代に必要な経済社会変革について述べた発言の一部です。SNS等では、ご本人が60代であることへの指摘、サントリー製品の不買宣言などがあふれています。
今回は、会社員が知っておくべき「45歳定年制問題」について考えていきたいと思います。
会社にとって従業員はコストとリスクの要因か
会社は長きに渡って社員の労働に支えられて成長を遂げてきた歴史があります。また、労働・社会保険関連の法律を見ても労働者が守られるのがトレンドの様相です。このまま歴史や法律の流れで、正社員として長く雇用してくれるかと思いきや、これらが日本の企業を苦しめていると考えている経営陣が増えているのも現実です。
長時間労働の抑止、解雇権の濫用の禁止、時間外労働や深夜労働の割増賃金の支払い、退職金など労働条件の維持、定年延長の措置、小さな怪我から過労死まで多岐に渡る労働災害の責任、雇用の維持、労働保険料・社会保険料の会社負担分の支払いなど、会社が従業員を雇用している以上避けられないことは多く、かつてよりも厳しくなっています。
ついては、雇用はコストやリスクの要因との考え方が生まれてきます。
45歳定年は会社がコストとリスクをカットする完璧な方法
先述のコストとリスクは「労働者を雇わない」ことで、完璧に逃れることができます。
特に、給料が上がれば上がるほど保険料や補償などあらゆる単価も上がるので、年齢や経験を重ねた給料の高い正社員に辞めてもらうことで大きなコストとリスクのカットに繋がります。
非常に雑で危険な思考だと思いますが、定年が早まれば、会社はそれらの縛りから一部開放されることになります。しかし、有能な人材も多いので、「フリーランス化」による業務委託契約への変更など、正社員でない形で貢献してもらうのが会社にとって合理的な裏技のようになってきている節も見られます。
このような風潮が広がり始めた中、長引く新型コロナウイルス感染症により厳しい状況を強いられている会社も増えていることでしょう。今回の新浪氏の発言は「ウィズコロナの時代に必要な経済社会変革」として述べられています。苦しい会社が生き延びるための策の1つとして、コストやリスク要因を削ぎ落とすべく「45歳定年制」案という「本音」が飛び出したことが考えられます。
批判が起こるのは自然
この本音ですが、批判される要素があるのは確かです。
年金受給年齢が後ろ倒しになりそうな中、長く会社で働きたい社員は多いため、45歳定年だなんて「リストラ」と何が違うのかと言われるのは無理もありません。
政府の経済財政諮問会議の民間議員も務めている日本を代表する経営者が、会社が従業員を長く雇用する中で成長を遂げてきた歴史や慣習を断ち切り、現行の法律による責任から逃れるために提案しているように感じられる点にも問題を感じます。
さらに、法律では、定年を60歳から65歳に、さらに2021年4月の改正で「70歳までの就業機会の確保のために事業主が講ずるべき措置」が施行されたばかりです。45歳定年は、完全に改正に逆行した発言です。
会社員が心しておくべきこと
案の定、「釈明」がありましたが、新浪氏は現行の法律に大きな不満や反発の念を抱えており、それらに苦しめられているのではないかと感じました。言ってはいけない立場だということも考えればわかるはずですから、よほどの思いなのでしょう。
日本中の会社の本音であり実際に苦しい実態とも受け取れるので、批判の声には納得ですが、今回のような意見を冷静に受け止め、自分の将来のために粛々と行動する必要もあると思います。
法律上、45歳定年制の導入は考えにくいですが、フリーランス化や副業の推奨などの流れは現実にあります。自由で多様な新しい働き方など耳障りのいいスタイルで正社員から離れることを勧められる可能性は大いにあります。
新しい働き方を選ぶにしても、会社員として重宝され勤め上げるためにも、仕事のスキルはもちろん、法律など制度面の知識、家計が傾かないための資産やマネーリテラシー、健康維持など個の力を付けて蓄えていくことは、現代の会社員には有用だと考えます。
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