「スマホを見るな」と言わないで!小児科医・森戸やすみさんが指摘するスマホの利点

文=大西まお
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Gettyimagesより

 「スマホ育児」という言葉をご存じでしょうか? 以前から「スマホ育児」批判のおかしさを指摘し、先月は第30回日本外来小児科学会のシンポジウム「スマホ・デジタルメディアとの付き合い方」で講演をした小児科医の森戸やすみさんに詳しくお話をうかがいました。後編では、親と子ども両方にとってのスマホの利点と問題点、 そして問題点の解消の仕方についてお伝えします。

※前編はこちら

小児科医・森戸やすみさんが「スマホ育児」批判のおかしさを指摘し続けている理由

 「スマホ育児」という言葉をご存じでしょうか? 親や子どもがスマホを使うことを批判するときに使われる言葉です。多くの人にとって、スマホは悪いものではなく…

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「スマホを見るな」と言わないで!小児科医・森戸やすみさんが指摘するスマホの利点の画像2 ウェジー 2021.09.30
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森戸やすみ
小児科専門医。東京・台東区の「どうかん山こどもクリニック」院長。子どもの発達や健康、育て方についてなど、医療と一般の架け橋となるような記事を書いている。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママの子どもの病気とホームケアBOOK』、『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』(内外出版社)などがある。 twitter:@jasminjoy

どうかん山こどもクリニック

ーー実際のところ、親子にとってスマホの利点と問題点はなんでしょうか?

 まさにその点について、先日のシンポジウムで詳しくお話ししました。妊婦さんや親にとっては、以下のような利点があります。妊娠・子育て中こそ、時間がないので便利なスマホは役に立ちますよね。また、孤独になりがちな時期だからこそ、様々な人の意見を見たり、コミュニケーションをとることができるところもいいと思います。

 また、育児中は特に自由時間が細切れです。よくお母さんやお父さんからは「スマホ見るくらいしかできない」と聞きます。子どもが泣いたり、何かあれば飛んでいくので、分厚い本をじっくり読んだりできないんです。スマホは気分転換にも役立ちますね。

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森戸やすみさん「スマホが豊かにする子育て」スライドより

 一方、インターネット上の情報は間違っていることも多く、それをSNS上で拡散してしまうと、インフォデミック(誤情報を広めて社会に影響を与えること)を起こしかねないという問題点があります。

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森戸やすみさん「スマホが豊かにする子育て」スライドより

ーー子どもにとってのスマホの利点と問題点はなんでしょうか?

 スマホの利点はたくさんあります。よく知られているところでは、ゲームやテレビ、動画を楽しんだりできて、絵本や本も読めて、音楽も聞けるところでしょうか。勉強のアプリ等を使って、楽しく効率的に学ぶこともできます。今はインターネット上に無料の学習ツールなどもあるんです。

 それから、スマホは何かを創るという創造のハードルを下げます。たくさんの道具がなくても音楽を作れたり、絵を描けたり、プログラミングをしたりできるのです。昔なら音楽をするには、ピアノやギターなどの楽器が必要でした。絵を描くには画材が必要だったり。でも今ではスマホやタブレットなどがあれば手軽に始めることができます。

 さらには何らかの障害がある場合でも、例えば文字を打てたり、写真で記録できたり、音声で読み上げたりもできるため、学習にも役立ちます。

 以上のようなことから、スマホまたはタブレット等は、子どもたちがより平等に教育を受けるためにも(教育格差も減らすためにも)有用といえます。素晴らしいことですね。

 また、離れた人とも会話することができ、また文字でも映像でもやりとりができるので、コミュニケーションに役立つでしょう。スマホを使うと、コミュニケーションがとれなくなるという説には根拠がありません。

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森戸やすみさん「スマホが豊かにする子育て」スライドより

 一方で、問題点は、視力の低下、体を動かすなど他の体験をする機会の喪失、個人情報の流出や依存症の危険などですが、これらは対策をとることができます。視力の低下や他の体験の喪失、依存症を防ぐにはスマホを使う時間を決めるといいでしょう。個人情報の流出も、見守り機能を使ったり、ルールを覚えて守れるようにすることで対策できます。

 他の何事でも同じことですが、安易に禁止するのではなく、子どものうちから正しい使い方を覚えられるといいですよね。

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森戸やすみさん「スマホが豊かにする子育て」スライドより

ーー思っていた以上に利点があります! あとは問題点に対策をすればいいだけですね。

 でも、ちょっと待ってください。長々とスマホの利点や問題点を挙げて説明してきましたが、ここでいったん考えてみてほしいんです。本来、スマホは単なる道具です。だから本当なら、こんなふうにいちいち利点と問題点を挙げること自体、おかしくないですか? 

 どんなものにも利点と問題点はありますが、車で事故を起こすことがあるからって、使用を中止しないし、わざわざ検討しないでしょう。

ーー確かにそうです。どうしてこんなに利点と問題点を探さないといけないのか……。

 本来なら、おかしなことですよね。将来は、何てバカな議論があったんだということになるでしょう。まるで写真に撮られると魂が取られると考えられていた昔のようです。

 それでも「親がスマホを見たり、子どもがスマホを見たりすると危ない」という情報が広まると、根拠がないにもかかわらず、スマホを使う親子が白い目で見られたりします。また先にもお伝えしたように、真面目な親ほど「絶対にスマホを見ないように、見せないようにしないと」と追い詰められてしまいます。だから、当たり前のことでも正しい情報を伝える必要があるんです。

ーー親子が意味なく追い詰められたり、厳しい視線を向けられたりしないための情報発信ですね!

 こうして「スマホ育児」批判はおかしいということをずっと伝え続けていたら、同じ小児科の医師が賛同してくださり、今回は外来小児科学会のシンポジウムで「ぜひ話してください」と言ってくださって、本当にうれしかったです。

 シンポジウムでは、同じ小児科医のみなさんにもお願いをしました。保護者に「スマホを見るな」と言わないでほしいということです。それから心配ごとをただ聞いたり、ささいな疑問にもやさしく答えたり、相談してくれてうれしいという気持ちや十分によく子育てされていることに尊敬を表したりしてもらえたら、ということもお伝えしました。

 私もふたりの子どもの親ですが、根拠なく何かを禁止されたり叱られたりするよりも、そのほうがずっと子育ての力になるし、子どもにもいい影響があるだろうと思います。

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