
吸水型パンツ『OPT』(株式会社Rebolt提供)
生理用品といえば紙ナプキンが定番だったが、ここ数年で月経カップ、吸水ショーツ、ソフィ「シンクロフィット」など、新たな選択肢が普及してきた。
特に吸水ショーツは数々のメーカーで製造されているうえ、今年3月にはGUで「トリプルガードショーツ」が、9月17日にはユニクロから「エアリズム 吸水サニタリーショーツ」の販売が予定されており、注目度の高い商品だ。
吸水ショーツを展開する株式会社Rebolt(東京都・渋谷区)は、今年4月~5月にクラウドファンディング「アスリート発の吸収型ボクサーパンツ『OPT(オプト)』を、新しい生理の選択肢に」を実施。終了時には、798人から約617万円の支援という、当初設定していた100万円を大きく上回る反響があった。
株式会社Reboltの共同代表を務めるのは、元/現役女子サッカー選手でもある内山穂南さんと下山田志帆さん。『OPT』は自身がアスリートとして感じてきた違和感、及びアスリートの声を反映して生まれたプロダクトだ。
『OPT』制作への思いや、「アスリートと生理」について、お二人に話を聞いた。
内山穂南(うちやま・ほなみ、左)
株式会社Rebolt共同代表。元女子サッカー選手。早稲田大学卒業後、単身イタリアへ。サッカー文化が根付いたカルチョの国での生活から、アタリマエに違和感を感じる。現役を引退し2019年に帰国後、株式会社Reboltを起業。
下山田志帆(しもやまだ・しほ、右)
株式会社Rebolt 共同代表。現役女子サッカー選手。慶應義塾大学卒業後、ドイツに渡り2シーズンプロ選手としてプレー。2019年春に同性のパートナーがいることを現役選手として初めて公表。現在は日本でプレーしながら、Reboltで吸収型ボクサーパンツ『OPT』の企画販売、個人として「スポーツとLGBTQ」をテーマに問題発信を行っている。
『OPT』のおかげでやっとフェミニンなものが捨てられる

かっこいいデザインの吸水ショーツを実現した(株式会社Rebolt提供)
——『OPT』を制作された背景には、どのような課題意識があったのでしょうか。
下山田志帆さん(以下、下山田):私自身、生理が始まった頃から最近まで、ずっと生理に悩まされ続けてきました。その理由は二つあって、一つは純粋に生理用品が不快という点です。雨や暑い日など自分ではコントロールできない環境下での練習や試合でも、生理がくれば生理用品をつける必要があります。蒸れたり、ナプキンが雨を吸収して重かったりと、どうしようもできない不快感が付きまとっていました。
二つ目に、生理用品を身につけることへの心理的違和感です。生理用ナプキンのパッケージは、パステルカラーで花柄やリボンなど、いわゆる“女性っぽい”デザインのものが圧倒的に多いですよね。かわいらしいものを身につけたり、選んだりすることへの違和感や苦痛に、ずっと悩まされ続けてきました。
心と体、どちらの悩みも軽減できる方法として、吸水型ボクサーパンツの『OPT』は誕生しました。
——制作の過程はいかがでしょうか。
下山田:2019年秋に、他ブランドの吸水ショーツのリリース記事を読み、「私が感じていた違和感や不快感は、仕方ないものではなかったんだ」と気づかされました。その後、2019年末頃から、吸水型ボクサーパンツを作るために動き始めています。
当初コラボを予定していた企業があったのですが、新型コロナの影響で話がなくなってしまったり、工場を探す際にも「本当に売れるんですか?」「誰が必要としているかわからない」と言われてしまうこともあったり、必要性を理解してもらうことが難しかったです。紆余曲折があり、形になるまで1年半近くかかりました。
——『OPT』の特長はどのようなところですか。
下山田:まず、「アスリートレベルでも満足できる機能性」を重視しました。アスリートは日常生活の動作よりも大きく足を広げるなど動き回るため、それでも吸水部分がフィットしてずれないか、ボクサーパンツと吸水部分の縫製をこだわっています。
また、クロッチ部分は「吸水速乾素材」「吸水素材」「透湿防水ラミネート素材」「ストレッチ性/フィット性に富んだ立体成型ニット」の4つの素材を使用しており、30〜35mlの液体を吸収します。抗菌や防臭の加工もしており、独特の臭いの発生を防ぐようにしました。
デザイン性も力を入れた部分です。「立体成型ニット」という縫製方法を採用することで、メンズボクサーと同じ形でクロッチ部分が外から見えない「かっこいい吸水ショーツ」を実現しています。
——使った人の反応はいかがでしたか。
下山田:みなさん口を揃えて「最初は不安だったけれども、履いてみたら楽だった」と言ってくださいます。チームメイトや、チームメイト以外のアスリート仲間も買ってくれて、「すごいね。なんで今までこんなに悩んでいたんだろう」と喜んでくれました。
「『OPT』を買うことで、やっとフェミニンなデザインなものを捨てられます」といった声も印象的でした。私たちも捨てたいものを捨てられなかったり、捨ててはいけないと思わされていたり、手放したら変だと思われるといった悩みがあったからこそ『OPT』は誕生したんです。同じような悩みを抱えていた方が悩みを解消できるまで一緒に寄り添えたことを嬉しく思います。
——クラウドファンディングの支援者は、アスリートが多かったのでしょうか。
内山穂南さん(以下、内山):もちろん、アスリートや日常的に運動をしている方もいますが、それ以外の方にも広く届いたと感じています。支援者は女性が多かったのですが、男性の方や無回答の方も3割近くいて、プレゼントだったり、尿漏れ対策として必要とされている方もいる印象でした。アスリート以外の方にも広く届いて、多くの方に必要とされていることが可視化され、非常に励みになりましたし、自信にも繋がりました。
心と体どちらも大切にできる選択を
——ここ数年、アスリートが生理についてお話される機会が増えましたが、競技人生を優先するあまり「生理が来なくても気にならなかった」「むしろラッキーだと思っていた」とおっしゃる方もいます。「アスリートと生理」について、課題に感じていることはありますか。
下山田:構造の問題があると感じています。アスリートは「チームが最優先」と教育を受けているため、自身の向上を大切にしつつも、「チームとしてどう活動するか」「人としてどう協調性を磨きながら活動するか」に重きを置きがちです。
そういった背景から、生理痛がつらかったり生理がこないなど、体がSOSを発していても、「『そんなことよりもチームのために競技に参加しろ』と言われてしまう」と考え、周囲に言い出しづらい環境はあると感じます。
選手が自分の体のSOSに気づけるよう、指導者やスタッフも意識を変え、選手と接する必要があると考えています。
内山:生理については、小学校で初潮が来る頃に教えられるか、保健の授業で触れる程度でしか学んでいない人がほとんどだと思うのですが、自分のいる場所や状況に合わせた深い学びができる機会がもっと必要だと感じます。また、私たちのように自分の経験を話したり、違和感に声をあげるアスリートが増えることも、同時に必要なことではないでしょうか。
——生理へのタブー視は少しずつ薄まりつつあるように感じますが、まだ指導者に相談するのは難しいと感じますか。
下山田:そうですね。現状、指導者には男性の方が多いので言い出しづらい背景はありますが、構造的な問題でもあるので、女性の指導者が増えただけでは解消されないかもしれません。
また、指導者の中にはアスリートの生理に関して、「何かしなくては」と思っていてもどうしたらいいのかわからず、一歩目が踏み出せず困っている人もいるのではないかと思います。
——最後に、今後の展望についてお伺いします。
下山田:現状、様々なものに関して、選択肢の少なさから自分の心と体、どちらにも合ったものをなかなか選べない世の中だと感じています。心を重視して体を痛めつけてしまったり、体に合わせるとジェンダーステレオタイプに阻まれ、心を病んでしまったり……。
心と体をどちらも大切にするプロダクトは、まだ世の中に出てきていないと感じています。『OPT』には「選択肢」という意味が含まれているのですが、自分という生き方を選択できるプロダクトやサービスを、株式会社Reboltからもっと生み出していきたいという思いを持っています。『OPT』のような物を届けるだけでなく、私たちが生き方に模索する誰かを肯定する立場でありたいですし、肯定の連鎖を生み出せたらと思っています。
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