
Gettyimagesより
「若者たちは政治や社会のことにあまり関心がない」今の日本では、世間一般的にそう思われている。実際、日本の国政選挙における年代別投票率を見てみると、一番最近の平成29年10月の衆議院総選挙では、全年代の平均が53.68%であるのに対して、20代は33.85%、30代は44.75%と、たしかに圧倒的に低い。(総務省「国政選挙における年代別投票率について」)
その一方、#MeToo運動などをきっかけとして、ここ数年は日本でもオンラインを中心にフェミニズム運動が活発になった。その影響もあって、ジェンダーやセクシュアリティ・人種など、社会の中の様々な差別や不平等の問題について積極的に学び、考え、行動するようになった若者が確実に増えていることを、当事者の一人として実感してもいる。
そうした「数字的データ」と「自身の実感」との間にあるギャップには、複雑な思いを抱かざるをえない。それは、社会の中の問題について真剣に考え、改善のために声を上げる若者が増えているという実感があっても、結局はまだ少数派であるという事実を突きつけられているからという理由もたしかにある。
だがそれ以上に、投票しない若者たちはただ単に興味関心がないというよりも、「自分が投票したところで、一体何が変わるの?」と、投票という自分の「声」や「行動」が社会に与えうる影響が取るに足らないものであるという、諦めや無力感のようなものを抱いているようにも感じられるからだ。
投票率の数字が示すように、あるいは上の世代の人々が言うように、日本の若者たちは本当に政治や社会のことに関心がなく、そして彼ら/彼女らの声は、この社会では小さくて取るに足らないものなのだろうか。
そんな憂いやもどかしさを抱えている人に、力強く明るい兆しを示してくれる本がある。それが、『Weの市民革命』(著:佐久間裕美子 朝日出版社)だ。
日本にとって身近な国の一つであり、政治・経済・文化と様々な面で大きな影響を受けることの多いアメリカでは、近年ドナルド・J・トランプ氏の大統領就任やパンデミックという危機的な状況を経験した結果、主に20-30代の若者たちを中心とした「消費を通じたアクティビズム」が急速に開花し、社会を変えていく大きな影響力を持つようになったという。
アメリカでは、1981-1996年生まれのミレニアル世代と、それに次ぐ1997-2000年以降生まれの「ジェネレーションZ(Z世代)」が全世代の中で圧倒的な購買力と高い人口比率を占めている(2世代合わせて4割の人口比率)。
この2世代の若者たちは、社会問題や人権、環境問題への意識や関心が他の世代と比べて非常に高く、所得格差やあらゆる差別を是正することは「自分たちの共同責任」であると考え、経済的・環境的な状況への危機感も人一倍強い。消費に関しても、ブランドネームよりも商品の品質やサービスの価値、社会責任政策などによって、自分がお金を使うブランドや企業を決める傾向がある。
だから、トランプが大統領になったことで明らかになった、社会の中に根強くはびこるレイシズムやアンチ多様性の価値観の存在と、これまで前進してきたはずの社会の状況が急速に後退していく様、依然として経済を優先するために見過ごされる労働・環境問題を目の当たりにしたことで、彼らは未だかつてない規模で連帯し、購買力やSNSでの発信力という武器を使って、企業にサステナビリティ対策や社会的責任などを求める運動を推し進めることによって実際に社会や政治を変えてきたことが、数多くの具体例を交えながら紹介されている。
たとえば、大統領選終了直後からトランプ政権と金銭的な関連のある企業を対象にした不買運動が起こったり、トランプの人気向上に貢献した極右ニュースサイト「ブライトバード」の広告を多くの企業に取り下げさせるといった動きが起こる。さらには、社内の給与格差や倉庫スタッフの待遇の低さ、労働組合運動を妨害してきたアマゾンの第二本部建設に対して大規模な反対運動が展開されたり、長年ヘイト対策を取らないという態度を貫いてきたフェイスブックのCEOマーク・ザッカーバーグに対して、従業員からのオンラインでのストライキや告発、ミレニアル世代の広告エージェントが出稿中止キャンペーンを展開したりするなど、その行動や成果は驚くほど広範囲にわたっていることがわかる。
日本でもよく知られた名だたる大企業やその経営陣に対して、若者たちを中心としたSNS上での圧力運動や不買運動などによって、労働者の待遇改善や、利益のためならあらゆる差別や搾取を黙認してきた企業の行動や価値観を変えさせたという事実を次々に見せられると、違う国での出来事とはいえ、思わず拍手したくなるような高揚感を覚えた。
「政治」や「社会運動」というと、とりわけ日本ではハードルが高く感じられ、自分に直接関係がある実感があまりない人も多いかもしれない。けれども、「若者たち」が主導となって「SNSでの発信」や「自分の消費行動」が直接社会をよい方向へ動かす大きな原動力になりうるという事実や、必ずしも自分が当事者ではない問題に対して、「みんな」が責任を持って共に改善を目指すことが当たり前となりつつある価値観の存在にはかなり勇気付けられるし、ぐっと身近に感じられる人も多いのではないだろうか。
しかしそれでもまだ、「具体的に何をしたらいいのかわからない」「どうにも自分ごととして考えられない」と感じる人に、著者はさらなる導きの手を差し伸べてくれる。
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