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●日本と海外、女性の「生き方」「社会」の違い(第4回)
近々女性総理が誕生するかもしれません。メディアでは再度「女性の活躍」にスポットが当たっています。その一方で、気になるのは、この国では女性に対して「女性ならでは」の役割を求める場面も目立つことです。
先日、女優の木村佳乃さんがテレビ番組で「針に糸が通せない。ほんとにダメでお裁縫」と語り、「お裁縫が苦手」であることを明かしました。娘たちが学校で体操着袋やきんちゃく袋が必要なときは、母親や裁縫が得意な友達に頼んで作ってもらうこともあるそう。「自分の苦手な分野」について本音でテレビで語ったことにネットでは多くの女性から共感の声が上がりました。
ただこの話で気になるのは、子供が「家から母親の手作りの袋を持ってくること」を求められている日本の学校現場の空気です。
物があふれている今の世の中では、お店やネットで手軽にきんちゃく袋などが買えます。それでも学校で「母親のお手製」といういわば「伝統」がなかなかなくならないところに何か複雑なものを感じます。
現在、日本で専業主婦の数は減り、「働くママ」は増えています。この「お手製のきんちゃく袋」から見て取れるのは、働くママであっても、子供に対して「専業主婦のようなケアをすること」が求められることです。
ところで昭和の時代にも「妻が働くことに寛容」な男性はいました。ところがそれらの男性の一部は堂々と「外で働いてもいいけど、家の中のことはおろそかにしないでね」などと言っていたものです。つまり男性は「働く妻」に対して、専業主婦がやるような育児家事を求めていました。
今もなお日本の一部の学校で「お手製のきんちゃく袋」や「お手製の雑巾」が当たり前だとされているのを見ると、学校現場もまた「昭和のお父さん」のようだな、なんて思ってしまいます。
ヨーロッパでは「親のお手製」にこだわらない
筆者が育ったドイツには、「子供が学校に母親のお手製の袋を持っていかなければいけないような雰囲気」はありません。ほぼ全員が市販の袋に体操着を入れます。
「芸術性が高い」ということで「日本のキャラ弁」がドイツで話題になったりもしましたが、だからといって、ドイツの親は子供のために毎日キャラ弁を作ることはありません。ドイツの子供が幼稚園や学校に持っていくのは「タッパ―に入れたリンゴや、バナナ、サンドイッチ」といったシンプルなものです。
ドイツの学校に授業参観はありませんし、親が見に来るような運動会もありません。基本的にドイツの学校のシステムは「親に負担がかからない」ようにできているのです。
日本は親が授業参観や学校行事などに参加することで「学校と交流ができる」という良い面もありますが、働くママにとって時間的な負担は大きいといえるでしょう。なかでも公立校に通う子供の場合、母親にとって負担が大きいのがPTA活動です。
「専業主婦ありき」のPTA
PTAは戦後にアメリカから日本に入ってきました。当時のPTAは「会員であれば誰でも発言ができ、何かを決定するまでに会議や話し合いを重ねていく」という民主主義の鑑のような組織でした。
その中でもベルマーク運動は、戦後の貧困の中で、日本の僻地の教師が全国の新聞に学校の劣悪な状況を訴え、設備を整える費用の援助を呼びかけることを発端としており、その発想は「貧しい子達にも教育を」という素晴らしいものでした。
問題は時が流れ、70年以上経った今も、このベルマーク運動が続けられていることです。というのも母親たちの「ベルマークを回収し、整理をして、計算機で点数を出し、会社別にベルマークを用紙に張り付ける」という作業は非常に時間がかかりますが、利益は数千円ですので、言ってしまえば全く割に合わない金額です。
利益が少ないこと以上に問題なのは、この一連のベルマーク作業が「平日の昼間の時間帯」に行われていることです。
昭和の時代は専業主婦が多かったので、平日の昼間に母親たちが学校に集まって活動をすることは自然な流れだったのでしょう。
しかし前述のように、今の日本では働くママが増えてきており、専業主婦の数が少なくなっているにもかかわらず、今もなおベルマーク作業を含むPTA関連の会合は「平日の昼間」に設定されていることが多いのです。つまり働く女性であっても「平日の昼間に時間を作る」という専業主婦のような対応が求められているわけです。
「お手製のきんちゃく袋」といい、「PTA活動」といい、学校や教育現場のシステムはいまだに「専業主婦ありき」で成り立っているといえるでしょう。
ところで筆者が出身のドイツにもPTAに該当するElternbeiratがあります。学校での子供の教育について親が提案をしたり、教育の改善を図る場となっているところは、日本のPTAと同じです。ただ参加している親の数は少なく、たとえば筆者の出身地であるバイエルン州の公立校のElternbeiratは10人程度の親で回しているところが多いです。
ドイツのPTAには「参加しなければいけない」という圧力はないため、参加している親は本当の意味で任意の活動をしています。「母親も働いているのがデフォルト」であるため、ドイツのPTAの会合は平日の夜に行われます。
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