
Getty Imagesより
●日本人のつくり方(第10回)
9月17日に告示された自民党総裁選(9月29日開票)だが、告示以前から展開された右派系メディアの高市早苗推しには凄まじいものがあった。「月刊Hanada」(飛鳥新社)、「正論」(産経新聞社)、さらに「WiLL」を刊行しているWAC出版局から政策本『美しく、強く、成長する国へ。――私の「日本経済強靭化計画」』の刊行、つづいてDHC系ネット番組『虎ノ門ニュース』への登場など、極右メディアが全力推しだ。また竹内久美子や百田尚樹、ほんこん、門田隆将、加藤清隆といった右派系文化人もこぞって高市支持を表明している。
「トランプ当選」運動との類似点
興味深いのはこうした「有名人」の顔ぶれと、昨年暮れから今年はじめにかけて「トランプ「不正選挙」疑惑」で吹き上がった面々とが重なっているところだ。高市が対中強硬派であり、また政策目標として軍事予算大増額や「成長戦略」などなどを掲げているなど、彼らの高市支持のポイントはさまざまなようだが、破壊的にどうしようもない政治家を積極的に支援するというところは一貫しているものがある。
また右派系「有名人」ばかりではなく、SNSの一般ユーザーレベルでも「高市氏の支持層とトランプ元大統領の支持層が被っている」あるいは「アメリカ大統領選挙が不正選挙だったとする層が被っている」ことについてのレポートも登場している(鳥海不二夫「高市氏を支持するツイートをRTしたアカウントはトランプ元大統領を支持していたのか」)。
さらに「反ワクチン」運動でも活動してきた人物によって高市早苗支持デモが企画されるところまですすんでいた(高市事務所からの要請でデモは中止になった)など、〈反共・反中国〉を基礎に持つここ数年の右派系市民運動のさまざまな潮流が、「高市支持」でふたたび浮上している感がある。
ハッシュタグでトレンド入り戦略
17日の自民党総裁選告示直後に公開された高市早苗公式の自民党総裁選特設サイトでは、Twitter拡散用にしつらえられた「9つの政策を広める」ページがある。
好きなスローガンの画像をクリックすると、「 #だから私は高市早苗」 「#2021総裁選は高市早苗」のハッシュタグとともに、画像込みでツイートが生成される。本文に自分で何も書き込まないままでも「拡散」できるように、最初から敷居を低くした仕様となっている。
ここで訴求対象として措定されているのは、そのクリックをもって「参加した」「応援している」感覚を持つユーザーだ。「ご自分の応援コメントも一言つけてね」というよくある但し書きもないのは、ユーザーに何かを書かせるプレッシャーをかけないためだ。かつてブルース・リーの名セリフに「考えるな、感じろ」というのがあったが、高市サイトでは「考えるな、2回クリックしろ」なのである。こんなところにも、高市(とその陣営)の政治観・人間観があらわれているように見える。
ともあれ、高市を自民党総裁に推すタグは、数時間のあいだTwitterのトレンド入りを果たしたのである。
このハッシュタグ戦略には続きがあった。翌9月19日には高市早苗支持を標榜している杉田水脈参院議員が、こんなツイートを投稿した。
皆さんのTwitterのコメントもしっかり読んでくださっています。高市早苗候補の動画も是非ご覧ください。 https://t.co/tt38UcbgbK pic.twitter.com/IKhDuFefcg
— 杉田 水脈 (@miosugita) September 19, 2021
〈ファンの声に耳を傾ける姿〉を演出するプロパガンダ
公式サイト経由で投稿されたタグ付きのツイートを紙にプリントアウトし、それを壁に貼ったものを高市本人が見ている――そんな写真が公開されている(このツイートの壁を背景にした動画も高市陣営は公開している)。応援メッセージを高市本人が丹念に見て、人びとの思いを受け止める。そんな物語が、この写真でつむぎだされている。〈臣民の声を、天覧に供する〉……そんな、大日本帝国時代に活用されたプロパガンダを彷彿とさせる古典的手法だ。現代風にいえば〈ファンの声に耳を傾ける姿〉を可視化させる仕掛けとでも言うべきか。
ネット上では、「ツイートを紙で読むなんて」という声もあったが、あくまでも「応援メッセージを見ている高市」の絵面が欲しかったので、こんな小道具として活用しているわけだ。ここまででSNSでの拡散を目的としたネット戦略は1サイクル完了となるのである。
高市陣営はSNSのみならず、ネット広告でも悪目立ちした。上記のTwitter拡散キャンペーン中は、ほかのポータルサイトやYouTubeなどでも、高市早苗公式サイトへと誘導するネット広告ががんがん出現した(早川調べ)。
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