自民党総裁選の討論会で河野太郎氏が打ち出した年金改革が話題です。他の3候補が問題を次々に指摘する事態になっています。
改革案の1つは「基礎年金の財源を全て税金に替えて最低保証をする」というもの。河野氏は消費税を財源にと言及しているので、全国民に影響があります。
今回は話題となっている「基礎年金」の仕組みの基本を解説していきます。消費税が財源になるとどのようなことが起こりうるのか、一緒に考えていただければと思います。
基礎年金の現在の財源
基礎年金とは、年金の土台となっている「国民年金」のことを指します。保険料を納める際は「国民年金」、もらう際は「基礎年金」と呼ばれますが同じものだと考えて問題ありません。
保険料を納める対象者を「被保険者」といい、全国民を次の3種類に分けて考えます。年齢は省略して概要を説明します。
・第1号被保険者
主に個人事業主・学生・無職・これらの配偶者で会社勤めをしていない人などです。
→国民年金保険料を月16,610円(令和3年度)納める必要があります。収入の状況によっては免除などの制度もあります。
・第2号被保険者
主に会社員や役員・公務員で厚生年金保険料を納めている人たちです。
→厚生年金保険料が天引きされていることで国民年金保険料を納めている扱いになります。実は、国民年金保険料を払っていないわけではなく、厚生年金全体の中から「基礎年金拠出金」という名でみんなの分がまとめて国民年金の方へ払われています。
・第3号被保険者
上の挙げた2号の配偶者で無収入または扶養の範囲内で働く人たちです。会社員や公務員の配偶者で専業主婦・夫や時間や収入を抑えてパート勤務をしている人たちです。
→国民年金保険料はかかりません。
老齢基礎年金をもらうには
基礎年金は老齢・障害・遺族の3つありますが、今回はもっとも多くの方に関係のある、老後に受け取る老齢基礎年金を解説していきます。
老齢基礎年金を受け取るには、最低でも10年間は、上に挙げたいずれかの被保険者として、納付等の適切な手続きをすることが必要です(10年未満だと無年金です)。仕事や立場が変わることもあるので、1、2、3号の被保険者期間の合計で問題ありません。
ただし、10年という期間は受給資格を得るための最低条件であり、満額の老齢基礎年金を受け取れるわけではありません。40年を満たせば満額ですが、10年であれば4分の1の金額を受給することになります。令和3年度の満額は月額にして65,075円です。
満額、つまり最も金額の多い人で約6万5千円ですから、老後の生活には心許ないものがあります。第2号被保険者、つまり会社員等の期間があれば、上乗せとなる老齢厚生年金も併せて受け取ることが可能です(40年間平均的給料の会社員だった場合の老齢厚生年金は約9万円です)。
基礎年金の財源が消費税になると考えられること
河野太郎氏の改革案によると基礎年金の財源を全て消費税にするとのことです。ここでは、一般生活者に直接影響の出そうな点を挙げていきましょう。
・第1号被保険者の保険料が0円になるでしょう。約1万6千円の保険料が0になりますが消費税が上がるので注意が必要です。また、第1号被保険者でも免除や猶予などの制度で保険料負担が発生していない人にとっては0円で変わらないまま消費税増税の影響を受けることになります。
・第2号被保険者の厚生年金保険料が会社負担分も含めて下がることになるでしょう。給料によって下がる額は大きく違うと予想しますが、現在、基礎年金拠出金の1人単価と国民年金保険料を考えると、平均で約1万6千円~1万8千円下がる可能性があります。しかし、消費税増税の影響を受けることになります。
・第3号被保険者は現在保険料がかかっていないので、消費税増税の影響のみを受けることになり収支はマイナスになるでしょう。
・消費税の増税により、家計収支が大幅に悪化する人も出てくるでしょう。基礎年金程度の額を確保するには6~8%の大増税が考えられます。2020年の消費税額の月平均額は23,696円(2020年度日本生活協同組合連合会「家計・くらしの調査」・「消費税しらべ」)から8%増税となると毎月の消費税負担が平均約1万9千円上がる計算になります。また、消費税が収入に占める割合は低所得層の方が高いので、低所得層であるほど増税の負担は重くなります。
大混乱必至の年金改革
最低保証年金が払われる案の具体的な金額は不明ですが、多くても老齢基礎年金(現在約月6万5千円)ほどでしょう。今まで全く納めていなかった未納者にも支払われることになるので、確かに無年金の人は発生しなくなります。これにより、高齢者に生活保護を廃止にできるとのことですが、月6万5千円ほどの最低保証で廃止にできるものか疑問です。
一方、一定の資産を持つ人や高収入の人には基礎年金は支払われないということなので、大きな不満を生むはずです。
今まで納めていない人と既に何百万円も納めてきた人との不公平感など移行期の処理も非常に大きいことも気になります。そのような年金改革をするなら、納付した分と利息を一括で返金してもらえないか、という意見が多発し大混乱となるでしょう。
河野太郎氏は厚生年金の改革も挙げていますし、他の制度との整合性を図りながら考えていくべきだとは思いますが、今回解説した基礎年金部分の改革を考えるだけでどうやったら実現できるのか疑問です。
総裁選の行方も気にしつつ、これを機に年金の基本事項も確認していただければと思います。
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