SDGs・D&Iを軸にした「エシカル就活」は産業界にムーブメントを起こす 学生が企業を選ぶ時代に

文=雪代すみれ
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Gettyimagesより

 若者の社会課題への関心は高い傾向にある。今年4月に公表された「株式会社電通」(本社:東京都)の第4回「SDGsに関する生活者調査」によると、10代のSDGsの認知率は70%超えで、全世代の中で最も高く、「自分で何か行うにはハードルが高い」と回答した人も最も少なかった。

 一方で、「社会課題への解決を軸に就職活動をするのは難しかった」と株式会社Allesgood CEOの勝見仁泰さんは語る。そうした自身の経験から、社会課題解決を軸に就職活動をしたい学生と、社会課題の解決に取り組む企業をつなぐプラットフォーム「エシカル就活」を2021年5月にリリース。同サービスについて、勝見さんに話を伺った。

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勝見仁泰(かつみ・きみひろ)
株式会社Allesgood CEO。1998年生まれ。高千穂大学経営学部4年。高校時代は野球に没頭し、プロを目指す。野球の強豪大学から声がかかるも、高校3年に訪れたフィリピンで見た貧困問題から途上国の経済成長に興味を持ち、16年間続けた野球をやめる。フィリピンでの「折り紙」による持続可能環境教育プロジェクトに従事。その後、文部科学省「トビタテ!留学JAPAN」に採用され、ドイツ、コスタリカ、アメリカに「途上国の特産品を活用した有機化粧品事業立ち上げ」をテーマに1年間留学。帰国後、パタゴニア日本支社、ソフトバンクのインターンを経て、Allesgoodを創業。

社会課題を軸にした就活プラットフォーム

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株式会社Allesgood提供

——「エシカル就活」とはどのようなサービスなのでしょうか。

 エシカルとは「倫理的」「道徳上」といった意味の言葉で、弊社では社会課題に取り組んだり、中長期的に環境や人権に配慮している企業を「エシカル企業」と呼んでいます。

 優秀な学生と厳選したエシカル企業がマッチングできる採用プラットフォーム「エシカル就活」を2021年5月にリリースし、就活サービスとして展開しています。

——なぜ「エシカル就活」を立ち上げたのでしょうか。

 原体験としては、高校生の頃にバックパックで東南アジアを放浪し、そこでお金で解決できない構造的な貧困や格差を目の当たりにしたり、大学入学後にドイツにてソーシャルビジネスとして化粧品事業を起業し、国民の環境やサステナビリティへの意識の高さに影響を受けました。

 転機となったのは帰国後、就職活動を始めたのですが、「社会課題×キャリア」の視点で就活するのが困難だったことです。企業がどの社会課題にコミットしているのか、既存の就活システムでは情報が得られませんでした。

 同時にSDGsが免罪符のようになって情報が一元化されておらず、企業間の取り組みの比較もできない。就活生としては混乱しました。友人も同じような苦労をしていると聞き、社会課題解決の視点で就活ができるサービスの必要性を感じたことが始まりです。

——企業が本気で社会課題に取り組んでいるのかは判断が難しいですよね。「エシカル就活」では登録する企業をどのような観点からチェックしているのでしょうか。

 まず、その企業が掲げているビジョン・ミッション・パーパス、そして代表者のメッセージを見ています。代表者がどういった思想で経営しているのか、特に中長期的な目標をどのように掲げているかがポイントです。企業として、将来世代を見据えた経営をしているのかを注視しています。

 二つ目に具体的な取り組みです。エシカル企業には、大きく分けて二つのパターンがあります。一つは事業を通じて課題解決を行っている企業です。ソーシャルビジネスしか行っておらず、事業拡大そのものが社会課題の解消に繋がっています。もう一つは、メインの事業とは別軸で、副次的に社会課題解決に取り組んでいる企業です。

 三つ目に具体的な数字です。企業と面談をする際には「サステナビリティレポートはいかがですか」と伺っています。ベンチャー企業は作成していないところが多いので、どのようなことを考えているかヒアリングしています。

 ただ、「現時点でエシカル企業でなければダメ」というわけではないんです。弊社はミッションに「産業界のサステナビリティの加速」を掲げています。スタートアップや中小企業で、資源や知識、経験がなく「何をしたらいいかわからない」企業も少なくないので、「エシカル企業でないから」とシャットアウトするのではなく、企業が社会課題にどうコミットメントしたいかをヒアリングしています。これから取り組みたい企業のサポートも行いたいので、今できてなくても思いのある企業はお声かけください。

大事なのは学歴ではなく経験やスキル

——8月2日付けに出されたリリースでは、利用者の約50%が東京一工・早慶上理ICUなどの上位校の所属で、社会課題を軸とした留学・インターン・起業などの経験者が8割以上と書かれていました。

 「約50%が上位校」と書いたのは、決して学歴社会の肯定ではなく、情報感度の高い優秀な学生が、サステナビリティを軸に企業選びを行っていると、企業側に伝えたかったからです。就職先は学生が選ぶ時代であると、企業側にプレッシャーをかける意味を込めています。

 また、エシカル就活における“優秀”とは、学歴ではなく「何をしてきたか」「これからどんなことをやろうとしているのか」「どんなスキルを持っているのか」です。上位校所属ではない約50%の学生も8割以上が社会課題を軸とした活動経験があるため、上位校所属でなくとも、即戦力になれるような学生はたくさんいます。

——エシカル就活を利用する学生には、大学入学前や、1・2年生の頃から社会課題に興味を持っていた人が多いのでしょうか。

 そうですね。就職活動以前から何かしら課題意識を持って活動している人が多いです。「ウォッシング」——「SDGsウォッシュ」のように、見せかけだけの中身の伴っていない取り組みをする企業を批判する言葉ですが、「ウォッシング」は学生側にもあると考えています。

 シビアな意見になってしまいますが、「御社に入ってから○○したい」と言っている学生は行動が遅いですし、受動的な印象を受けます。求められているのは、「自分の経験から御社をアップデートしていきます」と言えるような学生です。

 学生は「産業界のサステナビリティを加速させる戦力」と考えています。古い考え方を一新したり、しきたりを壊してイノベーションを起こす。弊社としてもロングタームではありますが、行動力のある、実践者である学生を増やしたいという思いです。

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株式会社Allesgood提供

——現状、就活が近くなってからキャリアについて考える学生も多く、就活を機に社会課題に興味を持つ学生もいると思うのですが、そのような方は「エシカル就活」の利用は難しいですか。

 「エシカル就活」の登録者は8割以上が活動経験があるように、「社会課題を解決する就活のため」と明確にビジョンを持っている人が多いです。

 一方で、「関心はあるけれども、何をやったらいいかわからない」人もおり、そういった学生向けに勉強会の場を提供したり、学生団体と協働して受け皿になってもらったりと、行動に移せるようなサポートも行っています。

 エシカルな視点を持っている学生から「就活が上手くいかない」といった声を聞くことがあるのですが、大きな理由はビジネスマインドが弱いことです。営利企業で社会課題解消に取り組む場合、利益も追求していかなければなりません。サステナビリティやソーシャルイシューのマインドは大事だけれども、そこからどうやってお金が生まれるのか、どうビジネスモデルが成り立つのか。企業としてKPIを達成するような利益を出しながら、社会課題を解決していく。「エシカル就活」ではそうした考えも教えています。

——今年4月に公表された「株式会社電通」の第4回「SDGsに関する生活者調査」によると、10代のSDGsの認知率は70%超えでした。メディアで「Z世代はサステナビリティへの関心が高い」と取り上げられることも多いですが、現場から見ても社会課題に関心のある学生は多数派だと感じますか。

 上の世代と比較すると関心は高いと思いますが、社会課題を就活の軸にしている人はまだまだ少なく、20%いたらいいな、というくらいです。ただ、潜在的に関心のある学生はいると思いますし、今の子どもたちは学校でSDGsを習うので、今後増えてくると見ています。

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