
Gettyimagesより
私たちの生活のいたるところに入り口があるにも関わらず、その危険性が一部にしか知られていないのでは? とたびたび感じるマルチ商法。当連載内のシリーズとしてお届けしている「身内がトンデモになりまして」※では過去に、コミュニティ内でマルチ系アロマに手を出した仲間が引き起こした騒動についてお届けしましたが、今回は家族が同物件にハマったエピソードをお届けしていきましょう。
※エセスピリチュアルや疑似医学をベースにした科学的根拠のない健康法などの謎物件に家族がハマってしまった体験を語ってもらうシリーズ。
「妹がマルチ系アロマであるD社に心酔し、近ごろではトンデモ発言を繰り返すようになってきました」と話すのは、30代女性のKさん。妹は学生時代から、何にでもすぐハマる性格だったと振り返ります。
K:妹は一時期デパコスの某ブランドMにどハマりしていて、基礎化粧品や洋服、ポイント特典の日用雑貨まですべてをコンプリートする勢いでした。身の回りの物ほとんどが特徴的なあのブランドロゴなんです。またあるときはパワーストーン。いろいろな石を組み合わせ、家族全員分のお守りをせっせと作っていましたね。「これは運気が上がる石で、模様に神様の姿が浮かんでいて特に貴重!」とかなんとか。もれなくその石を磨く専用のオイルまで渡されましたが、黄色くておばあちゃんの家にあるタンスのようなニオイがしたのを覚えています。
アロマオイルで食物アレルギーが治った!?
K:マルチ商法関係では、20歳そこそこで年相応とは思えない高級美容機器や専用化粧品も使っていました。あるとき母が電話で突然カフェへ呼び出されると、妹と一緒にいた人からネズミ講の勧誘をされたんです。何かを買わせられそうになったと怒って、母はすぐ帰宅。その後私も、似たような話を持ち掛けられていました。ただ当時は私も母も何となく怪しそう……というレベルの認識で、マルチ商法については何も知りませんでした。
そんな具合に次々と沼を渡り歩いていたKさん妹が、アロマオイルを扱うD社にハマったのは、食物アレルギーを発症したのがきっかけだと言います。
K:それが本当にアレルギーなのか、一時的な不調なのかはわからないのですが、顔が赤くただれたり今まで普通に食べていた食品が食べられなくなったりと、つらそうでした。ところがしばらくすると、少しずつ症状が改善したんです。妹曰く、どうやらD社の健康ドリンクを飲んだから治ったのだと。アレルギー発症前の食事に戻しても、不調が出ないようになっていました。もともとアレルギー体質で肌が弱いのがとても気の毒だったので、そのときは純粋に「すごいね、よかったね」と思っていました。
その体験によってD社に絶大な信頼を覚えたKさん妹は、D社ユーザーたちが発信するトンデモも鵜呑みにしていきます。ユーザーが主催する講座で仕入れてきた知識は、「経皮毒」(日用雑貨の化学物質が肌から吸収され体内に蓄積されるという主張から生まれた造語)。経皮毒はやや行き過ぎた自然派の人たちが、日常にあふれる化学物質を危険視する思想ですが、植物由来であるアロマオイルを湯水のごとくジャブジャブ消費してほしい界隈とは抜群の好相性。経皮毒の話で消費者を脅し、だから植物由来で自然なアロマを使うべき! とゴリ推してくるのが定番です。
「子どもの健康守るため」に、さらなる暴走
K:「だから、石油由来製品を粘膜に当てるような使い捨てタイプのナプキンも体に悪い!」とか突然言ってくるのでギョッとします。どうもD社ユーザーである地元の友だちが講座などを開いていて、そこに通うようになったみたいです。経皮毒講座につづき、ワクチン勉強会という名の反ワクチン集会、ほかにもワンコインで気軽に参加可能な料理、クラフト系のアクティビティなどなど。「今度一緒にどう?」と誘われましたが、行ったことはありません。
女性向けの集まりを入り口に、マルチ商法会社の会員を増やしていくのもあるあるでしょう。これは一見、単なる趣味の集いに見えてしまうのが厄介です。
そうして着々とマルチコミュニティに溶け込んでいったKさん妹がさらに深入りしていったのは、念願の子宝に恵まれたことも大きいそう。自分のアレルギーがD社のドリンクで治った体験に、子どもの健康を守らねばという使命感が相まり、さらに傾倒していったようだと話します。
K:出産後も毎日そのドリンクを飲むことを欠かさず、D社のアロマオイルを常に持ち歩き、私や母にも「試してみて」と配るんです。その当時は私もよく知らずに勧められるがまま、レモンの精油を一滴垂らしたドリンクを飲んでいました。ときにはカプセルに入ったものもありました。飲むと胃からラベンダーのような強い香りがせり上がり、ものすごく気持ち悪くなりましたね。同時期には、D社のシンポジウムに出席するため、妹のアップ※と思しき友人らと連れ立って泊まりがけの遠征までしていました。そこで恐らく「夢をかなえよう!」みたいなキラキラ系の映像でも見たのでしょう。SNSにアップしていた妹のそのときの写真を改めて見てみると、イベント会場風景に写りこんでいるキッチンカーのメニューが、すべてオレガノオイル入りでした。
※報酬ステージが上位のヒエラルキーの位置にいる、自分と繋がっている会員のこと。
アロマオイルの中には食用できるものもあると言いますが、特にマルチ系アロマは不安を覚えるような使い方を発信しているユーザーが少なくなく、Kさん一家及び、イベント参加者の健康が心配になってくる話です。
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