マルチ系アロマで病気治癒、ワクチンデマ…身内の暴走、どうすればいい?

文=山田ノジル
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病人が警戒すべきは、トンデモ療法

 D社周辺の文化にどんどん染まっていくKさん妹ですが、結婚して家を出ているので会う機会は少なく、Kさんは妙な情報発言や健康食品を極力スルーしてあまり気にしないようにしていたよう。ところが重病を患ったKさん祖父の入院が、「妹がおかしい」と確信させる出来事となったのです。

K:祖父が重病を患い入院すると、妹はここぞとばかりにD社の商品を勧めてきました。「今月からD社のドリンクとレモンのオイル送るから、毎日飲んでもらって。朝は白湯かお水にそのドリンク大さじ1とレモンのオイルを1滴入れて、飲む。これをまず3カ月つづけること。ドリンクは薬と併用しても問題なし。むしろ、ドリンクを摂った方が薬を減らせるかもしれないし。レモンのオイルには、レモンしか入っていないので、飲んでも大丈夫。不純物は一切入ってない。レモンのオイルは、体内の不要なものを排出して、血液をサラサラにしてくれる効果がある」と。

 Kさん妹が使っていたメディカルアロマ教本の一部を見せてもらったところ、当該病名の項目に「レモンのパワーで〇〇の排泄を促す」と書いてあります。「病院に通いつつ、自然な排泄の力を促しましょう」という説明文もあるので、ギリギリOK……なんでしょうか? しかしKさん妹の言動を見ると、本来は食品であるのに、まるで薬であるかのように効果効能が期待されてしまう健康食品の、悩ましい側面が前面に出ています。

 筆者は知人のがんサバイバーから「大変なのは闘病以上に、次々すりよってくる科学的根拠のないトンデモ療法だ」という話を聞いたことがありますが、このケースもまさにそれでは。しかもKさん妹を見るとわかるように、心の底から相手のことを心配してやっている身内というのが、相当にやっかいなポイントです。

身内の異変にやっと気づけた

K:その後祖父はいったんは退院することができたものの、また別の病気で再入院することに。すると妹はメディカルアロマ教本を片手に自作した「爆弾ブレンド」を母に送ってきました。妹曰く、配合したのは「天然の抗生剤のオレガノ」「免疫力アップのオンガード※」「抗菌効果のティーツリー」ほか、病状に合わせたアロマをブレンドしたそうです。これを「毎日足裏のマッサージしてあげて」と渡されました。

※D社で人気のブレンドオイル

 ちなみにアロマオイルを使った足裏マッサージ自体はごく一般的なケアですが、D社のそれは新生児やペットにも「原液を塗る」という過激な使用法がたびたび散見され、巷をざわつかせています。

K:祖父の容体は危険な状態がつづき、母は試せるものは何でも試したいという心境だったのでしょう。毎日妹の指示通りにしていたようです。そして因果関係は不明ですが、ややしばらくして危険な状態から脱し、手術を受けられる状態にまで持ち直しました。ところが昨年からコロナ禍に入ったのと、容態が安定したのとで、家族は祖父と面会禁止となりました。それは祖父も私たち納得しているのですが、妹ひとりだけアロマを塗れなくなったことに憤慨するんです。「アロマを足裏に塗って脳を刺激して、せっかく山を超えたのに! また薬で悪い方向に向かうことも考えられる。せっかく免疫が上がって、自然治癒力が回復したのに!」ですって。私はこの時点でようやく妹がおかしくなっていることに気がつき、いろいろ調べ、D社がマルチ商法であることを知ったのです。気づくのが遅いですよね、私。そこから妹の、投薬治療をはじめとする医療は悪だ、という主張がますます激しくなっていきました。

 Kさん祖父の手術は、すっかり機能しなくなっていた臓器を摘出という大変なものだったそう。それを聞いたKさんは、とてもアロマで直せるようなレベルではない、今の時代の医療があってよかった……と胸をなでおろします。一方母は妹と一緒になってすっかり「アロマのおかげ」と思い込んでしまったとか。そこで慌てて母に、伝えたKさん。妹の送ってくる製品のD社はマルチ商法であること。D社ユーザーの謳う健康効果は根拠が怪しいものが多いこと。広まっているD社アロマの使い方には、一部危険性があること。

コロナ禍で陰謀論にハマっていく…

K:母はものすごく驚いていました。でも危険性を理解して、妹にくぎを刺しておくと言ってくれたので、それは本当によかったです。とはいえ母も朝晩ドリンク大さじ1杯を水に混ぜて飲むことを勧められ、便秘が治ったと喜んでいるんですがね……。それって単なる水分不足で、朝晩普通の水をコップ1杯飲んでも同じなんじゃ? と、思うのは私だけ?

 そしてこのご時世、お約束の展開が発生します。そうです、コロナワクチンは権力者たちの陰謀だというヤツです。「真実に目覚めた」という感覚を得やすい陰謀論とマルチ商法は、いつも一緒のお友だち。

K:妹からのメールはこうです。「コロナワクチンは受ける予定ですか? もし悩んでいるのなら、これをぜひ読んで考えてほしいの。家族や友人を守りたいと考えている友だちがいたら、その人たちにもぜひシェアしてあげてほしい」。

 そのリンク先にはこんなことが書いてありました。「コロナの本当の危機に備えよう」「これはテレビでは得られない大切な情報」「人類初の遺伝子ワクチンだから警戒せよ!」「ワクチン接取で死者が出ている」「ワクチンは製薬会社の金儲け!」「ワクチンで自閉症や不妊、知的障害、アレルギーなどの副反応!」。今ならSNSで通報されること必須の、ワクチンデマど定番です。

K:これはどこで知ったの? と聞いてみると「友だちにもらった。メディアではこういう情報は流さないから」ですって。添付画像まで送ってきたそれはまるで、携帯電話が普及しはじめたころ、チェーンメールを信じて回してしまっていた女子学生のようでした。陰謀論! 毒薬! という記事には、もう笑いすら漏れましたね。妹に「情報過多な時代に何を信じるかは自分で決める」と伝えたところ、「考え方は人それぞれだから、ワクチンを打つことを否定しているわけではないよ。情報を知ったうえで、選択して、決めたらいいと思う。でも実際に、コロナワクチン受けて、人が亡くなってるのは事実だから」と返ってきました。だからこんなエビデンスもない胡散臭い情報いらんわ!! と言いたいのをぐっと堪えてスルー。母にも同じ連絡が行っていたようですが、普通にワクチン接種していました。

 コロナ禍がつづくなか、祖父の病状が再び悪化すると、妹はそれをコロナワクチンの副反応だと騒ぎ出す有り様。相手の健康を思う行為から逸脱しはじめ、自分の主義主張の正しさを示すために、すべてを陰謀に結び付けようとしている印象です。

搾取されていることに気づかない

K:祖父の病気はワクチン接種後3週間経ってから悪化してるんですが、そんなゆっくりの副反応って何でしょうね? 「遺伝子ワクチンだと、赤血球がアメーバみたいな形になるんだって」と騒ぐ妹に、私も母も脱力して「そうなんだ~」とスルーするしかありませんでした。ほかにも、温泉地に行った妹から、どこそこの源泉はコロナを抑えるんだって! とメールが来ました。源泉90℃だから菌も生きていられない! 手洗い場もあって嬉しい! とはしゃいでいる様子が伝わってきましたが、90℃のお湯で手を洗うの…? そもそも、菌じゃなくてウイルスだよ……。マルチ商法って、本当に人格も常識も、どうかしてしまうんですね。とツッコミどころ満載すぎて、もう完全にしばらく距離を置きたくなりました。しかし妹だけの問題ではなく、彼女には幼い子どもがいる。これから先、妹のトンデモとマルチアロマで英才教育されて生きていくのでしょうか。それを考えるといたたまれなくなるんです。

 この手の話では、夫の存在がほとんどないに等しいのが定番ですが、ここでもやはり妹の夫は単身赴任中。

K:夫不在中に、自宅では毎日ZOOMでアロマ講座をしているそうです。また、親戚の健康相談にはアロマ講師よろしく、お値段1万円の小瓶に入ったアロマを勧めていたそうです。親戚は「そんな高いのは買えない」と断ったそうですが、当然です。金銭感覚も狂ってきている様子が見られ、「夫の稼ぎがもっとよければ」とぼやいていて耳を疑いました。資金が尽き、儲からないと気づくまで、この調子で走りつづけるのでしょうか。修復不可能なレベルの破滅に向かわないことを祈ります。

 行動だけ見れば、家族の健康を守ろうと奔走する心優しい妹なのかもしれません。そして、因果関係は不明であろうが、自分の不調が治ったという体験はゆるぎないものでしょう。しかし積極的に会合に参加し、陰謀論を語り、トンデモ級のデマを鵜呑みにするという三拍子は、悲しいかなカモにされる要素がそろいすぎている。「人をだましてボロ儲けしよう」というタイプではなく、純粋にD社の製品と社会貢献のチャンス、そして収益を信じている、搾取される側の典型。そして家族は洗脳によって人が変わっていく姿を事あるごとに見る羽目になり、ジワジワと失望が広がっていく。そんな家庭内の様子が目に浮かぶような体験談でした。

 マルチ商法は基本、人間関係を焼け野原にするという印象がありますが、Kさん家にも確実に家庭内で火種がポツポツ発生中。まだ借金や関係の断絶には至っていないようですが、それらを予防する策は果たしてあるのか。マルチやトンデモにハマるいろいろなケースを、生の声からまだまだ観察していきたいと思います。

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