起業は難しいことはではない
——岩崎さんは2017年にYOUTRUSTを設立されていますが、起業の際に不安はなかったですか。
私も最初は「会社を失敗したら借金背負って、責任を負わないといけない」と本気で思っていたので「起業は怖い」と思っていました。でもそれを起業した先輩に話したら「そんなわけないじゃん !」と教えてもらったんです(笑)
また、起業できるかも不安だったのですが、同じ先輩から「起業なんて誰でもできる」と言われ、法務省に書類提出、会社印を発注……などタスクに分解してみたら「自分でもできるじゃん!」と気づきました。
——「起業は怖い」というイメージを抱いている人は多いですが、知らないから「難しそう」と思うのかもしれません。
そうですね。それから身近に起業している人がいないと「起業は難しそう」「自分なんかにできない」と思いがちですよね。大半の人にとって「社長」って遠い存在ですが、自分の同級生が何人か起業していたら「自分にもできる」と思えるのではないでしょうか。
——岩崎さんからはポジティブなエネルギーを感じるのですが、大切にしている考え方はありますか。
最近しっくり来ているのは仏教でいうところの「唯識論」ですかね。何か事象が起きたときに、事象の問題ではなく、自分の解釈の問題とする考え方です。この考えをもとに、自分の世界をハンドリングできるのではと思っています。
例えば近所で建築工事が行われているのを見て、「うるさい」と思うか、「家を建つ過程を見られておもしろい」と思うか。事象は同じでも考え方は違います。普段から自分の解釈を大事にしていて、大変なことがあっても「これを乗り越えられたら、私めっちゃかっこいいのでは?」と思いながら生きています。
——考え方ひとつで変えられることはありますよね。とはいえ、ジェンダー差別といった社会問題など、自分の解釈だけで解決できないこともあると思うのですが、どうされていますか。
そうした面で納得いかないことがあった場合は、はっきりと言うようにしています。以前、知人から「ママ社長すごいね!」とメッセージが来たときは、本人に「やめてください」と伝えました。私が母親であることと社長であることは無関係で、会社や事業を評価してほしいからです。でも、 怒りはしますが、悲観はしていません。その人は今まで教わる機会がなかっただけで、「今ここで私が言わないと、この人は今後も誰かを無意識に傷つけてしまう」と思ったんです。
また、昨年スタートアップのとあるコンテストで選考に呼ばれたのですが、あえてお断わりしました。というのも審査員の方全員が男性だったからです。「スタートアップ関係者の多くがその是正に向けて取り組む中で、全員男性というのは意識があれば自然発生する確率ではないため参加に賛同できない」と伝えました。だからなのかはわかりませんが、今年は審査員のジェンダーギャップが格段に解消されていました。事業を思えば参加するに越したことはなかったのですが、勇気を出して声をあげたのが時間はかかったものの届いたようで嬉しかったです。
——「YOUTRUST」の採用募集ページの「弊社とマッチしない人」の項目で「差別的思想をお持ちの方」「ハラスメント体質の方」と明言されているのも素敵だと感じました。ここまではっきりと書かれる企業はまだ珍しいですよね。
実は、少し過激かな? とドキドキしながら書いたので、そう言っていただけて嬉しいです。
私は「転職市場やキャリア市場が求職者さまのためになること」をYOUTRUSTという会社の柱と考えているのですが、個人の人生の柱としてはジェンダーに関する思いがあります。女性として生まれたゆえに何かを我慢するなど、本人の努力と関係のないところで不平等が生じることが許せないんです。女性ゆえに起業すると何か言われたり、管理職の女性が異常に少なかったり……そういったものの是正に自分の人生を使えたらと思っています。
この二つは別のルートを走っていますが、「本人の努力や意思と関係のないところで、人生が左右されるのは嫌」という点で、私の人生の中では一貫しているんです。
私はそういう哲学を軸として、事業を行い、人生を歩んでいる人間です。ジェンダーバイアスの強い方やハラスメントをする方とは、一緒に働いてもお互い幸せにならないだろうと思っているため、はっきりと書きました。
「意識高い系」が今後の日本を牽引する
——今後の展望についてお伺いします。
短期的には“意識高い話”を安心してできる場を作りたいという思いがあります。今年9月に「YOUTRUST」内の「投稿」を「脳内メモ」に名称変更しました。その背景は、キャリアについて、真面目に書けるソーシャルな場がないことを課題に感じていたためです。
私は今後「意識高くキャリアに向き合う方」が日本を牽引すると思っています。自分の将来やキャリア、環境や社会問題について真剣に考え行動している人に対して、「頑張っているのがダサい」「意識高い系」と揶揄するような空気感が今の日本社会には少なからずあったと思います。
一方で真面目に反省したり「明日も頑張るぞ」といった、健全な向上心やエネルギーはものすごく重要です。「あいつ頑張っちゃって」と斜に構える人より、目の前の仕事に全力で取り組む人がこれからの日本を変えるのではないか。
意識高く人生と真摯に向き合っている人が「自分はこのままでいいんだ。頑張ろう」と思える、安心して仕事の話をできる世界を作りたいです。私たちの次の世代はSDGsが当然の世界で育っていて、今後はその層がマジョリティになっていく。私たちの世代が過渡期であって、今後変わっていくと期待しています。
また、日本の労働生産性はアメリカの6割程度しかないというデータがあります。意識の高い、仕事に対して前向きな人が増えれば生産性も上昇し、日本の活力も上がっていくのではないでしょうか。現在の日本の状況を悲観する「日本は今後沈んでいく」といった考えも変えていきたいです。
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