【シリーズ黒人史16】Black Lives Matterへと続くアメリカ黒人の歴史~黒人社会の未来

文=堂本かおる
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多様化する黒人~女性・ジェンダー・人種ミックス

 このように現代社会においてもアフリカン・アメリカン・コミュニティーは多くの問題を抱えている。ゆえにBLMといった黒人運動が継続されている。だが、BLMの目指す「平等性」は1950~60年代の公民権運動とは変化している。黒人側が内包する多様性を前面に打ち出すようになったのだ。

 まず、黒人女性のプレゼンスの大きさがある。BLMを立ち上げた3人はいずれも女性だった。ジェンダー問題も自ずと取り込まれている。昨年のプライド月間には「ブラック・トランス・ライブス・マター」と称されたマーチが複数の都市で開催された。中でもニューヨーク市では1万人以上が参加する、非常に大規模なものとなった(Black Trans Lives Matterについては、鈴木みのり氏がwezzyでも特集を組んでいる)。

 以前よりトランスジェンダーへのヘイトクライム、わけても殺害事件が続いており、被害者の圧倒的多数が黒人なのだ。特に昨年はHRC(ヒューマン・ライツ・キャンペーン)が記録を取り始めた2013年以来最多の44人の犠牲者が出ており、うち26人が黒人、次いで10人がラティーナ/ラティーノとなっている。米国の黒人比率13%を考えると黒人への偏りが分かる。

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プログレス・プライド・フラッグ。従来のレインボー・プライド・フラッグにトランスジェンダーを表すピンクとブルー、黒人を表す黒、ラティーナ/ラティーノを表す茶色を加えたデザイン(wikipediaより)

 アフリカン・アメリカンたちの連帯意識の根底にある「奴隷の子孫」に当てはまらない黒人も存在する。アフリカ諸国などからの移民や、その二世たちだ。バラク・オバマも父親がケニア人であることから、立候補当初は一部のアフリカン・アメリカンの支持を得られなかった。しかし彼らもアメリカでは黒人として構造的人種差別、警察暴力の犠牲にもなっている。

 先日、昨年の国勢調査の結果が発表された。人種の項目では「白人」「黒人」「アジア系」など単一の人種でなく、「2つか、それ以上」を選ぶ人が格段に増えたと報じられた。異人種間の結婚やパートナーシップが増え、人種ミックスの子供たちが多く生まれている。

 あらゆるミックスのアメリカ人が存在する中、黒人と白人のミックスは黒人差別問題について複雑な心境とならざるを得ない。当選後、国勢調査でどの人種を選ぶのかと聞かれたオバマ大統領は「黒人」と答えた。複数の人種バックグラウンドを抱え、アイデンティティーを模索し続けなければならなかった人の最終的な選択だった。だが今、国勢調査を自ら記入する年齢となったミックスの人々は、自身が持つアイデンティティーが一つではないことを自覚し、主張し始めたのだ。

アメリカの未来

 現在、ニューヨーク市のブルックルリン美術館にてオバマ前大統領と、元ファーストレディのミシェル・オバマの肖像画が公開されている。ワシントンD.C.のスミソニアン・ナショナル・ポートレート・ギャラリーに歴代大統領の肖像画と共に常設されているポートレートだが、今は1年をかけて全米5都市での巡回展覧会中だ。

 大統領夫妻に指名されて肖像画を描いた画家はキハインド・ワイリーとエイミー・シェラルド。共にアフリカン・アメリカンだ。オバマ夫妻がアフリカン・アメリカンの画家を選んだのには理由がある。グラフィティなどストリート・アートはひとつのアート・ジャンルとして完全に浸透したものの、ファイン・アート界において評価される黒人画家は今も少ない。そこで夫妻はアフリカン・アメリカンの画家の作品をホワイトハウスに飾り、肖像画の画家にも選んだのだった。今後、アメリカと世界は後世に残る大統領の肖像画を描く才能と技術を持つ黒人画家がいること、伝統的な肖像画とは異なる画風であり、その斬新さもまたファイン・アートであると認識することとなる。

 昔から今に至るまで公民権運動やBLMといった黒人運動に幾千人、幾万人の市民が参加してきた。大勢の名もなき一般市民の地道な努力が時間をかけてアメリカの人種問題の方向性を大きく変えたことは間違いない。同時に分野を問わず、影響力のある地位に優秀かつ志のあるアフリカン・アメリカンが立つことによって、人々の意識を急旋回させることも必要だ。

 ここ数年、石鹸のメーカーから高級ファッション・ブランドまで、多くの企業が商品に黒人差別デザインを取り入れ、または差別表現のあるCMを作り、その度に炎上と謝罪を繰り返してきた。いずれも社内の決定権のある地位に黒人が起用されていれば起こらなかったはずだ。優秀か否かにかかわらずマジョリティーには理解の及ばないマイノリティーの有りようがある。これについてはマイノリティー自身が主張し、社会を是正していかなければならない。

 つまり政治・行政であれ、アート界であれ、IT業界であれ、教育界であれ、一定数のマイノリティーが影響力のあるポジションに就く必要がある。そうしたポジションに就くためには優れた教育を受け、安定した生活を送れる、別の言い方をすればごく当たり前の住環境が必要だ。

 警察暴力も同様だ。今はまだアイヴィーリーグ出身の一流企業勤務者でさえ不審者として通報されてしまう。だからこそ黒人地区の生活環境と教育制度を改善して子供と若者に健全な進路を提供し、社会のあらゆる職種と地位にまんべんなく就けるようにする。そうすれば時間はかかるが、マジョリティー側の偏見も薄れていく。その支援策となるのがアファーマティヴ・アクション、黒人補償、ポリティカル・コレクトネスだ。人種問題についてアメリカは今も長い過渡期、変化の時期にある。アファーマティヴ・アクション、黒人補償、ポリティカル・コレクトネスはあくまで不公正な現状の是正策であり、永久に続けるものではない。だが、現在は必要なのである。その過程でアフリカン・アメリカンは内部にある多様性を受け入れ、ラティーノ、アジア系、先住民といった他のマイノリティーとの関係性を築き、アメリカをアメリカたらしめていくのである。

敬称略
(堂本かおる) 

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