男性が盗撮依存に陥る背景にある“男尊女卑社会” 斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』より

【この記事のキーワード】
男性が盗撮依存に陥る背景にある男尊女卑社会 斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』よりの画像1

Gettyimagesより

 検挙件数がここ10年で倍増している「盗撮」。性犯罪はしばしば「性欲の問題」だと矮小化されてきたが、実際の背景には女性をモノとして扱う男尊女卑的な価値観が深く関係しているようだ。

 精神保健福祉士/社会福祉士として様々な依存症の治療に取り組む斉藤章佳さんの著書『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)の一部を紹介する。

★10月22日19時から斉藤章佳さんと恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表・清田隆之さんのオンライントークイベントを開催! イベントの詳細は記事末尾をご覧ください。

女性を画面の中で「モノ化」する認知の歪み

 ここまで盗撮加害者が抱く優越感や支配欲について述べましたが、やはり特徴的なのは、盗撮が「非接触型」の性犯罪であることです。

 加害者が被害者に接触する痴漢とは違い、盗撮ではスマホ画面の「画像」として被害者を捉え、そこで完結します。スマホの写真フォルダ内の被害者は、ひとりの人間ではなく記号でありデータです。そうなると当然、被害者の女性に対して対等な立場の存在としての認識を持ちにくくなります。

 性犯罪とはいえ、他人と物理的、精神的に接するとなると、どうしても心理的な葛藤や対立が相手との間に生まれますが、物理的に接触することのない盗撮は、加害者の罪の意識を希薄化させ、盗撮被害そのものを「なかったこと」として認識します。

 また、盗撮は盗み撮りするというプロセスに耽溺していくため、しばらくすると盗撮した画像を消去すると先ほど述べました。しかし、なかには写真をコレクションのようにため込み、それらを眺めることで、「自分はこれだけの女を支配下に置いている」という錯覚を覚えて優越感を抱く、という加害者の話も聞きます。一方で、顔の見えない被害者のスカートの中の写真を見ながら、被害者とのつながりをいつまでも感じていたいという加害者もいます。

 非接触型の性犯罪であることで、盗撮はほかの性犯罪と比べて刑罰も軽く、被害者をデータとして捉えている加害者は罪の意識や罪悪感を感じていません。「またやってしまった」という後悔の念こそあれ、被害者を出したことに対する反省は見られません。むしろ、盗撮行為をしたのに罪悪感を感じない自分に罪悪感を抱くという「罪悪感のパラドックス」に陥っています。これは窃盗症の当事者が感じている罪悪感とよく似ています。

 第8章に収録している上谷さくら弁護士との対談でも詳しく述べていますが、これが残念ながら盗撮行為が軽視されている背景にあります。何度も繰り返しますが、盗撮はスカートをはいている被害者が悪いのではなく、盗撮行為をする加害者に責任があることを忘れてはなりません。

盗撮は100%「男性問題」

 私が2017年に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)を上梓したときは、「痴漢加害者には女性もいるのに、まるで男が全員痴漢になるようなタイトルはなにごとだ!」というお怒りの声が男性から多数寄せられました。

 たしかに男性が性暴力の被害者になることもあります。2021年3月に公表された、内閣府の「男女間における暴力に関する調査」では、無理やり性交等(性交・肛門性交・口腔性交)をされた被害経験について、男性回答者1635人のうち、17人(1.0%)が「ある」と回答しています。性暴力は性別や世代に関係なく、誰の身にも起こり得ます。

 しかし治療の現場に限っていえば、当クリニックを訪れる盗撮加害者は100%が男性です。女性の加害者はこれまで来院したことがありませんし、それを示す公的なデータも存在しません。

 もちろん、例外的にストーキング行為の一環としての盗撮や、違法動画サイトにアップする映像を盗撮するため、女性が共犯となって更衣室やトイレに小型カメラを設置する手口は存在します。しかし、嗜癖行動としての盗撮は100%「男性問題」であると断言していいと思います。

 そして、盗撮によって得られる優越感や支配欲・所有欲には、男性特有のものがあると考えられるのです。

何に依存してしまうかは選べない

 人はさまざまな悩みやストレスといった生きづらさを抱えています。それでも、スポーツで汗を流す、カラオケで熱唱する、旅行をする、友達と会う、サウナに行く、映画鑑賞をする……その人なりのストレス解消法を見つけて、日々をなんとかやり過ごして生きています。かくいう私も、いろんなものに依存しています。アルコール、処方薬、カフェイン、スマホ……。もっとも依存しているのは仕事(ワーカホリック)かもしれません。

 しかし、人は時に何かの拍子で違法薬物や過度な量のアルコール摂取、そして盗撮や痴漢などの性犯罪といった、不適切な「ストレス対処行動(ストレス・コーピング)」に手を出してしまうことがあります。

 そして、その人がどんなストレス・コーピングを選ぶかは、その人が置かれた環境や状況で変わってきます。夫婦と同様、依存症もマッチングが重要です。定年退職後だったら、身近なアルコールに溺れるかもしれませんし、大学生なら時間を持て余してギャンブル(スロットなど)、若い世代ならスマホのゲームや盗撮に耽濁してしまうかもしれません。違法薬物が手に入りやすい環境や金銭的余裕があれば、覚醒剤やコカインを選択する可能性もあります。

 以前、身なりの整った裕福そうな高齢女性が「万引きがやめられない」と相談に訪れたことがあります。その方は、長年飼っていた愛犬を亡くした喪失感から、ふと魔が差して万引きを始めてしまったそうです。当人も「まさか自分が万引きにハマるとは思っていなかった」と話していました。

 このように人は、自分では想像もしなかったものや行為に耽溺し、やめたくてもやめられなくなってしまうことがあります。誰が何にハマるかは、わからない。最近の言葉でいえば「ガチャ要素が強い」とも言えます。その人がいつ、どんな依存症になるかは、当人にすらわからない部分が大きいのです。

 そしてここからが厄介なのですが、男性の場合、自分の達成感や支配欲、優越感を一時的に満たす不適切なストレス・コーピングとして、女性を支配する、劣位に置く、モノのように扱う、性的に貶めるという手段を取る傾向が強く見られるのです。

 これは痴漢、レイプ、盗撮・のぞき、下着窃盗(フェティシズム)……すべての性犯罪の背景にあることです。性依存症は「性欲が原因」と思われがちですが、それは大きな間違いです。「性犯罪を性欲の問題に矮小化して捉えると、その本質を見誤る」という指摘は、拙著『男が痴漢になる理由』でもデータをもとに解説しています。その背景には、女性に対して優越感を感じられないと自分のアイデンティティを保てない、男性たちの「男尊女卑的な女性観」があります。「女性嫌悪(ミソジニー)」ともいわれるものです。

 「たくさんの女性とセックスをしているほうが男らしい」「女性は男性側の性欲を受け入れて当然だ」といった考えのもと、女性をひとりの人間としてではなく所有物として扱う、つまり文字通り「モノにする」、もしくは「モノ以下として扱う」ことで、男性が男性に認められようとするホモソーシャルな男社会の負の産物なのです。

男性が盗撮依存に陥る背景にある男尊女卑社会 斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』よりの画像3

1 2

「男性が盗撮依存に陥る背景にある“男尊女卑社会” 斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』より」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。