男性が盗撮依存に陥る背景にある“男尊女卑社会” 斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』より

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世界に遅れをとる日本のジェンダーギャップ指数

 性犯罪者や性依存症者は、生まれつき男尊女卑の価値観を持っているわけではありません。子どもから大人になっていく過程で、社会からの刷り込みによって認知の歪みが内面化されていくのです。そして、前述した暗黙理論でその歪みは強化されていきます。

 両親など大人の男女の関係を見て、「男性の役割はこう、女性の役割はこう」と学んだり、メディアを通して古くからの女性観を植え付けられたり、学校で友達同士のふれあいから刷り込まれていくこともあるでしょう。

 そうやって培われた女性観は本当に時代に即しているのか、相手を尊重しているのかをつぶさに検証することなく、“自然と”自分の内面にインストールされていきます。そのため本人に「自分は差別している」という意識はありません。

 折しも2021年3月に発表された、男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数2021」で、日本は156か国中、120位でした。経済、教育、政治参加、健康と、日本社会におけるあらゆる面での男女不平等があらためて問題視されています。

 その数字からもわかるように、男性と女性の間には明らかな構造的ギャップがあります。もっともわかりやすく表れているのが、日本の「職場」と「家庭」です。

 ジェンダーギャップ指数は、経済・数育・健康・政治の4部門において男女間の格差を数値化するもので、スコアが1に近いほどギャップがなく平等であることを示しています。日本は健康部門においては0.979をマークし、ランキングでも40位。たしかに日本で生活するうえで、医療にかかる機会などでジェンダーギャップを実感することは、ほかの部門と比べると少ないのではないかと思います

 教育部門も0.983でランキング91位。これは悪くないように見えますが、本来ならどれも1であってしかるべきです。日本の場合、識字率や初等教育就学率は1なのですが、中等教育就学率、高等教育就学率と年齢が上がるにつれ男女間ギャップが広がります。

 日本では「女性に学間はいらない」「女性は数学や物理が苦手」という偏見がいまだ根強く、それが女性の高等教育就学率を下げていると指摘する専門家もいます。入学試験で女性受験生の点数を一律で引いていた有名私立大学があったことも記憶に新しく、女性が男性とまったく同等の教育を受けるチャンスを得られているとはいえない状況です。

 それでも、経済・政治部門でのスコアと比べると、まだマシかもしれません。経済部門が0.598(115位)、政治部門が0.049(144位)というのは惨憺たる数値です。政治部門では閣僚、国会議員それぞれの男女比が示されています。2021年8月現在は菅義偉内閣ですが、2020年9月の発足時点で女性閣僚はたったの2人でした。国会議員に占める女性の割合は、衆議院9.9%、参議院22.9%(2020年6月時点) と、圧例的多数を占める男性によって政治が動かされていることがわかります。

 また、経済部門の指標のひとつに「管理職に占める比率」がありますが、2020年7月時点の女性管理職の割合は平均7.8%。2003年に内閣府は、2020年までに社会のあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合を、少なくとも30%にする「202030」という目標を掲げましたが、とても残念な結果に終わっています。

 これらの数字は、政治や経済の意思決定の場に女性が少ないことを意味しています。女性の声が国の政策や職場に反映されず、「ないこと」にされているのです。個人という単位では、「女性を下に見ている」と意識している男性は少ないと思います。しかし、社会全体がこのような状態にあるかぎり、この社会は男性が尊ばれ女性が蔑まれるという、男尊女卑の価値観を十分すぎるほど維持しているのです。

盗撮加害者の認知の歪みは、社会の歪み

 ジェンダーギャップを数値で示すまでもなく、私たちは日々、男尊女卑を目の当たりにしています。朝起きてテレビをつければ、男性アナウンサーがメインで女性アナウンサーが補佐をするニュース番組を目にしますし、通動電車には女性を痴漢という性暴力から守るための女性専用車両があります。こうして当たり前のように存在する事象に対し、私たちは疑問を抱きません。特に、優位に置かれ利益を享受している側は、この状態を「なんとかしなければ」とは思わないものです。

 このように、社会通念として男尊女卑的な価値観が広く共有されている社会では、ただ普通に暮らしているだけで、知らず知らずにその価値観を内面化してしまいます。性犯罪者や依存症者でいえば、彼らの認知の歪みは、社会全体に男女の非対称性が色濃く残る日本社会全体の価値観を反映しているだけ、ともいえるのです。

 また、盗撮について取り上げると、第三者からも「盗撮ぐらい」「減るもんじゃなし」「ほかの性犯罪と比べて大したことない」といった声が聞かれます。こういった男尊女卑的な認知の歪みは、問題行動を起こす人のみならず、社会全体に見られるものです。

 年ごろの娘を持つ親なら、子どもの身を案じて「そんな短いスカートだと盗撮に狙われるわよ!」とつい口走ったことがあるかもしれません。親心だと思います。しかしこれは「短いスカートをはいているから盗撮されても仕方ない」という盗撮加害者の認知の歪みを結果的に強化してしまいます。また、もし娘が盗撮されたときに、「私がスカートをはいていたから悪かったんじゃないか」と自分を責めてしまうことになりかねません。

 このように周囲が被害者の落ち度や自己責任を問うたり、被害者が自責を強いられる社会全体の認知の歪みは、盗撮加害者の責任を「性欲の問題」に矮小化することになってしまいます。そしてこれは、彼らにとって都合のいい言い訳になるのです。

 現代の日本社会に生きる以上、私たちはどうしても男尊女卑的な価値観に基づく認知の歪みを学習しやすくなっています。盗撮加害者として生まれてくる男性はいません。盗撮加害者になりたくて生まれてきた男性もいません。この社会のなかで、彼らは盗撮加害者になっていくのです。これまで見てきたとおり、「自分は盗撮なんてしない!」と強く思っていても、ある日ふとしたことで盗撮行為にハマってしまう可能性があるのです。

 男尊女卑的価値観の“種”は、いつの間にか私たちの体内に埋め込まれ、時間をかけて根を生やしていきます。やがて学校で芽を出し、ジェンダーバイアスのるつぼであるメディアの言説で水と肥料を与えられ、社会によって花が咲き、悪質な盗撮加害者ができあがっていきます。自らの歪みを自覚するのは時に痛みを伴いますが、特に男性は、「自分にも男尊女卑的な価値観や認知の歪みがあるかもしれない」と自らの加害者性を自己点検し、自覚的になることが求められているのです。

斉藤章佳×清田隆之 オンライントークイベント「盗撮依存と男社会」

 

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★本商品は【オンラインライブ配信視聴チケット】です。

開催日:10月22日
時間:19:00~20:30
料金:1,500円(税込)
配信:Zoomウェビナー(PC、スマホ、タブレットから視聴できます)
チケットをご購入後、視聴用URLをお送りいたします。

※ イベントの録音・録画、撮影、アップロード、頒布、URLの共有は禁止いたします。
※ イベント終了後、アーカイブ動画を販売予定です。
※ contact@wezz-y.com よりイベント前日に視聴用URLをお送りさせていただきますので、メールが受信できるよう設定をお願いいたします。

アーカイブ動画の販売を開始いたしました!

【アーカイブ販売開始!】斉藤章佳×清田隆之「盗撮依存と男社会」

 10月22日に開催したwezzy meeting #2 斉藤章佳さん×清田隆之さんオンライントークイベント「盗撮依存と男社会」のアーカイブ動画の販売を開始…

男性が盗撮依存に陥る背景にある男尊女卑社会 斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』よりの画像1
男性が盗撮依存に陥る背景にある男尊女卑社会 斉藤章佳『盗撮をやめられない男たち』よりの画像2 ウェジー 2021.11.24
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斉藤章佳
大船榎本クリニック精神保健福祉部長(精神保健福祉士/社会福祉士) 1979年生まれ。アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなど様々なアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で現在まで2000名以上の性犯罪者の治療に関わる。著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス/2017)、『万引き依存症』(イースト・プレス/2018)、『小児性愛という病-それは、愛ではない』(ブックマン社/2019)、『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社/2020)、『セックス依存症』(幻冬舎/2020)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社/2021)などがある。

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清田隆之
文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表 1980年東京都生まれ。 これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。『QJWeb』『日経doors』『臨床心理学』『すばる』『現代思想』など幅広いメディアに寄稿。朝日新聞beの人生相談「悩みのるつぼ」では回答者を務める。桃山商事としての著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)『生き抜くための恋愛相談』『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(ともにイースト・プレス)、単著に『よかれと思ってやったのに──男たちの「失敗学」入門』(晶文社)『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)がある。

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