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前回までのあらすじ
特別養子縁組で母になった著者。もともと自身の経験から、家庭内に秘密を作って嘘をついたりすれば、かえって子どもを傷つけることになると知っていたので、真実告知をしようと考えていましたが、実際に傷ついた女性の話を聞き、ますます確信を深めました。
第3章 アンの子ども時代:乳幼児のアン
いつでもどんとこいという気持ちで、真実告知の機会を待ち受けていた私。そして、ついに初めての告知のチャンスが到来しました。
3歳を過ぎた頃、アンの友達に弟が生まれたのです。当然、アンは「ママも赤ちゃん産んで〜」と言いました。来た来た来た来た、ここで言わずにどこで言う。私はごく軽くほほえみながら言いました。
私「ごめんね。じつはママは赤ちゃんを産めないの。アンもママのお腹から生まれたんじゃないよ」
アン「え〜っ! じゃあアンはだれから生まれたの?」
私「赤ちゃんには、ママのお腹から生まれる子と病院で生まれる子がいて、アンは病院の子だよ。パパとママが〝一生懸命、大事に育てます〟と約束して、アンのパパとママになれたんだよ」
アン「ふ〜ん。ねぇ、あやちゃんも病院の子? なつきちゃんは? りかちゃんは?」
私「アンのお友達は、みんなママのお腹から生まれた子だね。病院で生まれる赤ちゃんはちょっとしかいなくて、本当に貴重なんだよ。この前、ごちそうを食べに行ったときに遊んでくれたお姉ちゃんや、アンが抱っこしてあげた双子の赤ちゃんは病院から来た子だよ」
里親会の会合や親睦会にはほとんど毎回出席していて、1か月前にもにぎやかに過ごしたばかり。アンの記憶も鮮明で、説明するのにいいタイミングでした。アンを迎えた日のことも、絵本を読むように詳しく楽しく話しました。
「アンが初めておうちに帰ってきたとき、犬のノエルがびっくりしてお庭から見ていたから〝初めまして。今日からメイプル家の一員になったアンです。よろしくね〟ってあいさつしたの。ママがアンを抱っこしてお庭に行ったら、ノエルも〝よろしくね〟ってアンのちっちゃなあんよをペロペロなめてあいさつしたよ。パパが〝ノエルがアンの足を食べるぞ〜〟って大さわぎして、おかしかったよ」
このノエルの話はアンのお気に入りになって、しばらくは毎晩の絵本の読み聞かせのあとにリクエストされました。「ペロペロなめて」のくだりでは、必ずクスクスと笑うアン。今思い出しても、かわいくてたまりません。
こうして初めての真実告知は一見落着。しかし、気を抜くわけにはいきません。成長するにつれて、次々に湧き上がってくる疑問をアンはぶつけてくるでしょう。アンを不必要に傷つけることなく、きちんと真実を伝えることは私の大きな課題でした。
同時に、ちまちまとした気遣いも忘れないよう努力していました。例えば特別養子縁組が成立する以前は、かかりつけの病院で保険証の名字が違っていても、私たち夫婦と同じ名字で呼んでもらうようにしたこと。
また、幼稚園から高校までの担任の先生には、必ず特別養子縁組であることを話しておくこと。事情を知らない先生が、全員が実子である前提で継母や養子の話をして「血のつながりがないと……」といった発言をするのは避けてほしかったからです。事情を知って色眼鏡で見る先生がいれば受けて立とうと思っていましたが、幸いなことによい先生に恵まれて、何の問題も起こりませんでした。(続く)
次回更新は11月22日(月)です。
【特別養子縁組について】
特別養子縁組は、子どもの福祉のために(親のためではなく)、子どもが実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、養親(育ての親)と実子に等しい親子関係を結ぶ制度です(※)。そんな特別養子縁組制度が成立した翌年の1988年、うさぎママ夫妻は児童相談所の仲介で0歳の娘・アンちゃんと出会い、親子になりました。
厚生労働省 特別養子縁組制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169158.html
※この連載は、書籍『産めないから、もらっちゃった!』(2012年、絶版)の改定版を公開するものです。