雑誌・SNSなどで見かける「ていねいな暮らし」。そこに映っている空間は綺麗でオシャレで「我が家もこんなふうにしたい」——そんな思いから挑戦してみるものの、途中で挫折してしまう。そんな経験はありませんか。
『理系夫のみるみる片付く! 整理収納術』(オーバーラップ)の著者・くぼこまきさんも「雑誌の片付け特集をよく読み、やる気はあるものの何度も挫折してしまった」と話します。ついに散らかっている家に限界を感じたくぼさんは、片付けられない悩みを理系夫さんに打ち明けました。すると理系夫さんは、「効率的に片付ける方法を知りたい」と整理収納アドバイザー1級の資格を取得。現在くぼさんの家は物が3分の1まで減り、物を探すのにかかる時間が短くなったり、掃除がしやすくなるという変化を感じているそうです。
著者のくぼこまきさんと理系夫さんに本作の背景や、片付けにおいて大切にされたコミュニケーションなどをお伺いしました。

くぼ・こまき
早稲田大学卒業後、三越・ソニー勤務を経てフリーのイラストレーター・漫画家に。 著書に『クルーズ、ハマりました!』(JTBパブリッシング) 『まんぷくごほうびビュッフェ』(幻冬舎)等がある。 夫と小学生の娘と3人暮らし。ラジオと爆笑問題、将棋観戦が大好き。 9月に『理系夫のみるみる片付く!整理収納術』をはちみつコミックエッセイより出版。

理系夫
本業は某メーカーの機械設計エンジニア。家を効率的に片付けるために「整理収納アドバイザー1級」の資格を取得。キャリアコンサルタントやコーチングなど、本業に直接関係のない資格も複数取得している。完全理系脳で几帳面で心配症。結婚当初から家計の管理・投資計画も緻密に行うマメな性格。温和な人柄。
「完璧な部屋」を目指し挫折していた
——どんなことがきっかけで整理収納に向き合われたのでしょうか。
くぼさん(以下、くぼ):私は小さい頃から散らかし魔で、親からは「片付けなさい」と怒られたり、学校でも机の中が汚いと言われたり。私なりに片付けても怒られました。何が正解かわからなく、誰も片付け方を教えてくれないので、整理収納の方法を知らないまま大人になりました。
夫は「生きていければ問題ない」というスタンスで、埃アレルギーがあるのですが、「埃を立てずに生活すればいい」といった人で。「嫌なことを無理してやる必要はないよ」と言ってくれていたこともあり、片付いていないことに罪悪感を抱かないまま結婚生活を送っていました。
ただ、日常を振り返ると、いつも私と小学生の娘が、散らかった家の中で物を探している状態でした。出かける間際に、絶対に必要なものが見つからないこともしょっちゅうでした。片付いていない状態にイライラし「もうこんな家なんて嫌だ!」となったこともあります(笑)。
ある日夫に「片付けたい」という思いを打ち明けたところ、「それなら協力するよ!」「無駄な行動はしたくないから、効率的な片付け方を調べてみるね」と提案してくれて、「整理収納アドバイザー」の資格に辿り着きました。結果的にプロとして活動できる1級まで取得し、我が家の整理収納において先導してくれるようになったんです。
——「整理収納」をテーマにコミックエッセイを描いたのはなぜでしょうか。
くぼ:元々は、整理収納術の漫画を描くつもりは全くなかったんです。40歳のとき会社員を辞め、未経験で漫画家として活動を始めまして。幸い、本作含め4冊刊行でき、プロとして活動できているものの、きちんとイラストやコミックエッセイの描き方を学んだことはありませんでした。そんな中、2020年9月に元KADOKAWAの敏腕編集者である松田紀子さんが「コミックエッセイ描き方講座」を開催されるとのことで参加し、最終課題として1本のマンガを仕上げるために自分の持っているネタを洗いざらい出すことを求められました。
いくつもネタを出した中に「夫が整理収納アドバイザーの資格を取得し自宅が片付いた」という本作のテーマがあったのですが、「それが一番面白い!」と松田さんから猛プッシュしていただいて。「夫が整理収納アドバイザーの資格を取って自宅の整理収納をする」というのは珍しい話なのだと気がつき、今でも片付けができない私が、片付けられない人の気持ちに寄り添った整理収納術の本を描こうと思い至りました。
——振り返ってみて、当時なぜ片付けられなかったのだと思いますか。
くぼ:短期間で完璧な状態を目指そうとしていたからだと思います。片付けが苦手ではあったものの、やる気がないわけではないんです。主婦層向け雑誌の片付け特集や、Instagramで片付けのコツやテクニックの投稿を見るのが好きで、イメージトレーニングをよく行っていて。雑誌やInstagramに載っているような素敵な部屋を目指し、片付けるのですが……「今日中に北欧風の部屋にしたい」など目標を高くしすぎて結果的に挫折し、片付けられない自分のことが嫌になっていました。
——実際に片付けをしてみて考え方は変わりましたか。
くぼ:そうですね。雑誌やInstagramに掲載されているような部屋にするためには、実際には地道な作業が数々とあることを実感しています。また、作中でも描いたように、私が一気に片付けようとするところを夫が何度も「今日中は無理だからね」「完璧にできなくても大丈夫だよ」と声をかけてくれたので、できない自分を責めてしまいがちなのを避けられました。
物を3分の1に減らし、50平米の家に引っ越し
——家が片付いたことでどのような変化がありましたか。
くぼ:まず、家が清潔になりました。たとえばキッチンでは、ガスコンロの周りに調味料を置いたり、壁にお玉やフライ返しを掛けたりしていたのですが、ガスコンロの付近は油が飛ぶので周囲の物がベタベタして……。今はキッチン周りには何も置かなくなりました。調理後の拭き掃除もすぐにできますし、清潔な状態を保ちやすくなっています。
また、物の住所が明確になったことで片付けの時間が短くなりました。ちょっと他には無い考え方なのかもしれませんが、夫は「散らかしてもいいよ」とよく言ってくれます。生活するなかで散らかってしまうのは当然で、「散らかしてもすぐに片付けられればよい」という考えだからです。以前は来客の予定があると2日前から準備が必要でしたが、現在は「今から行ってもいい?」と言われても「いいよ」と言えるようになりました。
——『理系夫のみるみる片付く! 整理収納術』には、お引越しされたことも描かれていますね。
くぼ:はい。家にある物を全盛期の3分の1に減らすことができたため、70平米から50平米の家に引っ越ししました。50平米というと、一般的には2人暮らしが限界と言われている広さで、私たちの前は一人暮らしの人が住んでいたんです。最初は私の親にも「家計が苦しくて狭い家に引っ越す必要があるのではないか」と心配されました。
実際に住んでみると、住み心地は全く変わらず、狭さを感じることはないですね。我が家に来た人は50平米と話すとみなさん驚かれます。
また、大幅に物を減らしたことによって、今は物を買うときに「本当に必要?」「今の家に合ってる?」とよく考えるようにもなりました。前は物を増やすプロだったのですけどね(笑)。床にもスペースができたため、床掃除ができるようにもなって。スチームモップをかけてみたら真っ黒で、家は思っている以上に汚れることにも改めて気づかされました。
——理系夫さんは「整理収納アドバイザー」の資格取得や、片付けを経て感じたことはありますか。
理系夫さん(以下、理系夫):整理収納のノウハウそのものは、シンプルだと思ったのが正直な感想です。教材自体は片付けのプロセスが体系的にまとめられていて、わかりやすいと感じました。普段、設計の仕事をしているのですが、最終的にどんな使われ方をして、どんな機能が必要なのか、どんな感じに組み立てていけば機械ができあがるのか、最初に頭の中でイメージを作り上げていきます。整理収納においてもそのプロセスが共通しているところもあると感じました。
また、整理収納は家全体のことであり一人ではできないので、家族をチームと考え、協力して進めるにはどうしたらいいか、どう声をかければ動きやすいか。過去に学んだキャリアコンサルタントやコーチングの手法とも照らし合わせながら、意識してコミュニケーションを取りました。
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