人生が怖い。就活も留学もうまくいってない 牧村朝子『ふつうにふつうのふりしたあとで、』より

文=牧村朝子
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 10月に、牧村朝子さんの人気連載「ハッピーエンドに殺されない」(cakes)が、『ふつうにふつうのふりしたあとで、「普通」をめぐる35の対話』(双葉社)として書籍化されました。本書は、読者から寄せられた人生相談に牧村さんがお返事する連載から、35本の人生相談と書き下ろし2万字+特選ブックガイドを収録したもの。刊行を記念して、収録されている「人生が怖い。就活も留学もうまくいってない」を試し読みとして掲載いたします。

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人生が怖い。就活も留学もうまくいってない 牧村朝子『ふつうにふつうのふりしたあとで、』よりの画像2 ウェジー 2021.11.17

人生が怖い。就活も留学もうまくいってない

「こんな私を認めてください」

 ってなることは、自分という存在を他者に明け渡すに等しいことだと思うんですよね。そいつらに認められなくたって、存在してんじゃん、もう。って、思うんです。

 今回いただいているおたよりは、「人生が怖い。HSPとか、○○障害とか、自分の苦しみを説明してくれる言葉を探してしまう」というものです。

 そういう言葉って、こう使っていきたいなって、わたしは思ってるんですよね。

×「こんな自分を誰かに認めてもらうため」
○「自分が自分とよりよく付き合うため」

 こんな自分を認めて! って姿勢だと、なんていうのかな、「自分がここにこうしていてもいいという感じ」の決定権が他者に渡っちゃうでしょ。そんな根本的なこと、他者に渡せないですよ。

 それにその姿勢だと、自分を生きづらくしている社会構造に対しても従順になってしまう。「なぜつらいのか」って考えたときに、「自分が○○だからだ。ああ、みんなと違う○○の自分はつらい、苦しい、生きづらい、みんな○○を認めて」ってなっちゃうでしょ。そうじゃなくて、「つらいのは世の中がこういう仕組みだからだ。これをこう改善していけるのではないか」って発想でいきたいんです。一生「かわいそうな○○」をやらされたまま、大きな仕組みにまんまと巻き込まれて生きるの、わたしは嫌なので。そんなに従順でいさせられてたまるかよ、って、思うので。

 取り戻していきます。自分の人生の物語を書くペン、自分の手に。それでは、今回のおたよりです。

***

 こんにちは。まきむぅさんの文章を読むのが好きです。

 今大学4年生で都内の大学に通っているものです。しかし、昨年就職活動に行き詰まりを感じ韓国に留学を決意し今留学中です。

 幸いにもこのような決断をしても両親は許可を出してくれて行動に移せたこと本当に感謝しています。

 しかし留学先では思ったように友達ができなかったり、語学が上達しなかったり、一体何をしたかったのか、結局なにも私は変わらなかったのではないかと自問自答を続けて布団の上から動けなくなってしまいました。結局私は何もできないのだと。留学に来て、語学も身につかなかったら私はダメ人間になってしまうと思ってしまいます。

 それで自己分析をしてみました。

 私は、自分の足で稼いで自立するという不安が今強いのだと思います。就活も平行して続けないとと思うけれど、それに関する情報が出てくれば出てくるほど怖くなってしまって、ネットを見ることができず自分を弱者にする情報ばかり探してしまいます。

 人生相談を見るのも好きです。自分のような欠陥人間でも褒めてもらえるような気がして、大丈夫だよと言ってもらえるような気がして、私はずっとやらない理由を探しているような気がします。でも結局は何かでお金を稼いで生きていかなければいけない。

 結局自分は自分の人生を生きるのが怖いのかもしれません。そして人生相談上であなたの人生はダメだと言われる人間になるのが怖いのだと思います。

 結局あなた自身が悪いですよと言われるのが怖くて、自分の人生を生きるのが怖いです。弱者の仮面をずっと探してきました。発達障害、HSP、強迫障害、双極性障害、、、等々。けれど、このような言葉が私を慰めてくれるのは一時的です。人生相談もしかり。
自分の人生を生きる恐怖にどのように立ち向かえばいいですか。

***

 もう、立ち向かってると思いますよ。その恐怖こそ、立ち向かってる証だと思います。

 わたしも立ち向かってます。ずっと怖いです。牧村朝子として仕事をして11年目になりますが、いまだに「今後食っていけなくなるのでは」という恐怖で布団にくるまってめそめそと2〜3時間泣くことがあります。特に2020年4月頃は怖かった、コロナでの仕事キャンセルとかが相次いだので。ちょっとここからは、不幸自慢じゃないですけど、「立ち向かっとる証としてずっと怖い」って話を何行か具体的に書きますね。

 2017年3月も怖かったですね、事務所から独立したてだったんですよ。あと2012年6月も怖かったです、渡仏に伴いレギュラー番組降板、ほぼ月収ゼロになったので。あとは2009年ごろもマジで布団から動けなくなってましたね、今回おたよりくださった方みたいに。バイト先が倒産して、国保払えなくて、メンタルクリニックに「保険証ない方は受診できません」って言われちゃって。そういう場合は役所に事情を話せば短期証ってのを出してもらえるって、最近ラジオトークリスナーさんに教えてもらって知ったんですけど。

 それに「就活」とかいうやつも個人的にはヤバみしか感じなかったので、一切やりませんでした。入りたかった会社にまずバイトで入って頑張ってたら「正直、高卒が正社員になった前例はないんだよね」って言われたり、大学覗いたら覗いたでいわゆる学閥ってやつがわたしの感性では気持ち悪いとしか思えないベットリ感だったりして、「は? むり」って思ってしまって。そこで考えたんですよね。「就活」じゃなくて、もっと根本的に、「この世にどういう価値を生み、それをどうやって金に換えるか」を考えようって。

 そんな感じで、まあ、「怖い」を「何が怖いのか」って具体化して個別化して対応していけば、なんとかやっていけなくもないんだなって最近わかってきたとこです。そういう積み重ねの先に、結果として、生きております。怖くはあるけど、生きてます。

 朝起きると、いつも窓を開けます。そうすると小鳥が「ビイ!!」みたいな警戒音を出しながら飛び去っていきます。生きることは、怖い。人間だけじゃないんですね。この恐怖は、生きていたさの証なんだと思います。

 怖いと思い始めたのは、あなたが巣の中で親鳥に餌を運んできてもらう生活からの試験飛行を始めたから。飛び立つのは、確かに怖い。けれどわたしには、飛び立つこと自体よりずっと怖いことがあります。それは、自分自身の「怖い」という感情に閉じ込められてどこにも行けないことです。

 だからわたし、人生相談で、慰めや励ましを書こうとは全く思わないんですよ。今回おたよりくださった方は、人生相談を見るのが好きな理由として、こうおっしゃいました。「自分のような欠陥人間でも褒めてもらえるような気がして」。わたし、それ、やりません。それは読者の自主性を奪い、ひな鳥扱いして、その場所に閉じ込めるような行いだと思うから。(あとなんか、欠陥人間という言葉がわたしにはわからない。誰基準? 逆に、完璧人間ってどんな人なん?)

 慰め、励まし、許し。そういうのをご親切に運んで差し上げる親鳥ヅラの人生相談のほうが人気出るのかなって思うこともありますよ、「あなたはそのままでいいのですよ」「きっと大丈夫」みたいな。いるもんね、「自分の欲望を解放しましょう」とか言いながらウン十万円のグッズ売ったりするスピリチュアルカウンセラーみたいな人とか。めっちゃ儲かっとんなーと思って見てますよ。それはそれでそこの人たちのご勝手ですけど、わたし、絶っっっ対やらないので。人をひな鳥扱いしないので。ただ、隣に座って、飛び立つ先の空を見たい。

「わたしから見ると、こんな風が吹いてる。だからわたしたちはこんなふうに流されているんだと思う。だけどどんな風が吹いても、わたしは羽ばたくことをやめたくないんだよね。風を読む。行きたい方角を決める。行きたいところがわからなくっても、とりあえず、“ここではないどこか”でも。さあ、どっちに飛んでいく?」

 ってことで、飛び立つ先の空を見てます。あなたは、いろんな言葉を「弱者の仮面」として使おうとしたとおっしゃった。「発達障害、HSP、強迫障害、双極性障害」……。そうした概念が自分を説明してくれるかどうかじゃなくて、どういうふうに生まれてきたものなのかを、わたしは知ろうとします。それらを決して、「他者に許してもらうためのもの」として使いたくないから。他者に許されることを待ちたくないから。そんな、存在を許す許さないとかいう大切なことを、他者に明け渡したくないから。「自分自身がそういう自分とうまく向き合い、その道の専門家のサポートを受けたり関連書を読んだりしながら、よりうまく生きていくためのもの」として言葉を使っていきたいから(HSPだけは医療概念ではないので、医療現場での治療や診断の対象にならないということは留意しておりますが)。

 それから、語学のこと。それこそ、より遠いところに飛んでいく力になる、語学のこと。「上達しないから自分が嫌だ」じゃなくて、「自分が嫌だからこそ勉強して上達する」んだとわたしは思っています。勉強というのは、前向きな自己破壊です。知らなかった単語を初めて発音するごとに、この世になかった外国語作文を自力で一行書いてみるごとに、自分は、前の自分ではなくなるんです。わたしは今日もオンラインで中国語レッスンを受けました。もう二年目ですけど、いまだに先生に「???」って顔をされます、発音が悪すぎて。「ホァ?」とか言われます。そこで「通じない……」って凹む気持ちもありますけど、むしろ「できてない発音が洗い出されてよかったな」って考え直して、次までに練習します。毎週毎週、その繰り返しです。毎週毎週「通じない……」があるからこそ、できないところが洗い出されていってます。ちなみに、母語である日本語もいまだに勉強中です。

 ってわけで、「飛ぶのが怖い」とおっしゃる方に、「もう飛んでますやん?」と申し上げたお話でした。

 ただ、一つ気になっていることがあります。「布団の上から動けない状態」。これが比喩でないならば、わたしが経験したうつ状態にすごくよく似ていて心配なので、できれば医療機関受診を、難しければ「日の光をできるだけ浴びる」とか「適度な運動をしてみる」とかのうつ対策をやってみるといいと思います。自分がうつ状態であることを「情けない、認めたくない」とか思う人っていますけど、わたしはうつ状態の人を情けないとか思わないので、自分自身含め。むしろ、自分がうつ状態に入ってきてる時のサインを知っておくのはサバイバル手段としてめちゃくちゃ有用だと思ってます。初期の段階で対応が取れたほうが回復早いでしょ。

 しかしね、マジでこの世、われら鳥さんを鳥籠に閉じ込めて管理したがるよなって思うんですよ。就活だの語学の資格試験だの、別ベクトルでいけば「自分がよりよく生きるためではなくてなんか誰かに認めてもらうために“発達障害”診断を欲しがる感じ」だの、「ここで認めてもらえなかったら自分には価値がないのでは?」って思わせてくるこの世の仕組みがある。企業に雇われることとか、なんかの資格を取ることとか、精神科で見てもらって自分の特性を知ることとかって、そのおかげで得られる安全とか取れる対応策もあるので、全然、悪いことじゃないとは思うんです。けど、「鳥籠に入れてもらえてない自分はダメな鳥なんだ」みたいに思わされちゃうんだったら、完全に本末転倒ですよね。「は? 入ってなくても、居ますけど?」って話で。

 忘れないでいてください。空って、本当に広いんですよ。だからこそ未知すぎて、迷ってしまいそうで、不安になることもある。けれども、怖いのは、すでに飛んでいる証なんです。ギュッとつむった目を、片目ずつでもいい、うっすら開けてみたら見えてくるものがあります。本当に「お金を稼がないと生きていけない」のか? 本当に「欠陥人間」なのか、自分にそう思わせているのはいったいなんなのか?

 動かないまま「世界はこういうものだ」「自分はこういうものだ」って決めてしまうより、わたしは、飛び回りたい。わたしを動かすのは、怒りだと思います。わたしの価値を、一個の人間の価値を、値踏みされてたまるか、って。そして……前にも触れましたが、語学を勉強しているおかげで知った大好きな話があります。「怒り」って、中国語でこういうんですよ。

 「生氣」……生きるエネルギー、って。

(2021年1月掲載)

【アーカイブ販売開始!】牧村朝子×ゆっきゅん対談「てか戦ってると思われたくなさすぎる」

 10月15日に開催したwezzy meeting #1 牧村朝子さん×ゆっきゅんさんオンライントークイベント「てか戦ってると思われたくなさすぎる」のアーカ…

人生が怖い。就活も留学もうまくいってない 牧村朝子『ふつうにふつうのふりしたあとで、』よりの画像1
人生が怖い。就活も留学もうまくいってない 牧村朝子『ふつうにふつうのふりしたあとで、』よりの画像2 ウェジー 2021.11.17

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