「女性はマルチタスクが得意」デマはなぜ世界中で広まったのか 背景に男性の都合が?

文=サンドラ・ヘフェリン
【この記事のキーワード】

 多くの人がワクチン接種を終えた今もヨーロッパではテレワークを続けている人が少なくありません。昨年春から続いたコロナ禍で「仕事は家からでもできる」ことを体感した人も多く、企業にとってもオフィススペースを少なくすることで節約できるなど、テレワークには双方にメリットがあります。

 その一方で、ドイツでは「コロナ禍により多くの人が家で仕事をすることになったことで、女性に負担がかかるようになった」と言われています。コロナ禍で子供の幼稚園や保育園が休園になったにもかかわらず、家で子供を見ながらテレワークをしなければならず、精神的に参ってしまった人も。

 しかし、こういった問題はコロナ禍になって一年ほど経ってから、ようやくドイツのメディアで取り上げられるようになりました。なぜこんなにも時間がかかってしまったのかというと、コロナ禍になった初期の頃はとにかく「ウイルス対策」にしか目が向けられていなかったことが挙げられます。

 また「女性はマルチタスクを得意とするから、いざとなれば、家で仕事をしながら育児や家事もできるはず」と考える人も多かったため、女性の苦悩にスポットが当たりにくかったという背景があります。

 「女性はマルチタスクである」という考えは世界でひろく見られます。しかし実はコロナ禍になる前の2019年にこの説は否定されています。

 ドイツのアーヘン工科大学の研究によると、男性と女性の両方に対して「画面に出てくる文字が『母音であるか』それとも『子音であるか』を判断せよ」「同時に画面に出てくる数字について、『偶数であるか』それとも『奇数であるか』を判断せよ」と指示したところ、性別に関係なく判断能力と作業のスピードが落ちることが分かりました。二つの課題を同時進行でやらなければいけない「マルチタスク」について、人間は「性別に関係なく不得意」だということが分かったのです。

 スイスのチューリッヒ大学の教授で神経心理学者のLutz Jäncke氏は「15万年前のホモサピエンスの時代においても、女性のほうがマルチタスクが得意だったという事実はありません。生き延びるためには優先順位を誤らないことが大事であったため、人間はそもそもマルチタスクには向いていません」と話しています。また同氏は昔の研究の問題点として、「昔は、男性と女性を比較した際『偶然に微々たる違い』が見られただけで、『女性は男性とは違う』と大々的に発表されました。逆に男女間の能力に違いがなかった場合、昔は発表されないことも多かったのです」と指摘しています。

 研究では「女性はマルチタスクが得意である」ことが否定されているにもかかわらず、多くの国で市井の人々は「女性にはマルチタスク能力がある」と信じているわけです。

 たとえばアメリカ、ドイツ、オランダで行ったアンケート調査では、参加者の50%が「マルチタスクについて男女の違いがあると思う」と答えており、この50%の中の80%の人が「女性のほうが男性よりもマルチタスクの能力があると思う」と回答しています。

 日本でも「女性はマルチタスク」という旨の発言を聞くことがよくあります。仕事に集中したい男性が育児や家事をやりたくないとき、「女性はマルチタスクだから、育児・家事・仕事が問題なくできるはず」と考えることは男性にとってはとても都合が良いです。もしかしたら「女性はマルチタスク」は男性側の願望というか妄想の結果なのかもしれません。

 いずれにしても巷に蔓延するこの手の「女性とは・・・」といった情報は正確なものばかりではありません。自分に不利な情報を女性自身が内面化してしまうと、ストレスにつながりかねないので、自省も込めて気を付けたいところです。

1 2

「「女性はマルチタスクが得意」デマはなぜ世界中で広まったのか 背景に男性の都合が?」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。