性教育本が大ブーム! なかには「子どもに読ませたくない」トンデモ本も…

文=山田ノジル
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GettyImagesより

 過渡期を迎えていると言われる日本の性教育。国の指導要項では今年4月からこれまでとは違う教育を段階的に導入していく方針が掲げられ、今の世の中で子どもたちに性をどう教えていくかが探られているようです。そしてここ最近は「子どもたちへ性の知識をポジティブに教えよう」というテーマの本が次々と登場しています。そこでは教育現場の性教育は、アレコレ制約があって不十分。だから子どもを守るためには、家庭でも積極的に教えないといかん! というのがだいたいの共通認識となっているでしょう。

 わが家では、対象年齢が低すぎるかとは思いつつ、シンプルでわかりやすい『だいじ だいじ どーこだ?』(遠見才希子、大泉書店)なる絵本を子に与えてみました。昨今日本でも知られるようになってきた概念「プライベートゾーン」について学べるかわいい絵本です。うちの子どもは臨場感たっぷりに音読するのがマイブームなので、プライベートゾーンの侵害にはノーと言おう! というシーンの「いやだ! やめて!」なるセリフをご丁寧に毎日大声で叫んでいます。内容を素直に受け入れてくれて喜ばしく思う反面、近所から「あの家ヤベー」と思われているんじゃないかと、正直心配です。

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性教育本が大ブーム! なかには「子どもに読ませたくない」トンデモ本も…の画像2 ウェジー 2021.08.19

 さてこの手の情報を探すとき、プライベートでも原稿のための資料でも、まずはAmazonで検索です。そして表示されたなかから気になったタイトルをピックアップして、購入したり図書館で借りたり。そのようにしてここ半年ほど「性教育」で検索したものを何冊か読み進めていたのですが、ついに「これは子に絶対与えたくない!」というものに出会ってしまいました。助産師やまがたてるえ氏による『13歳までに伝えたい女の子の心と体のこと』『15歳までの女の子に伝えたい自分の体と心の守り方』(かんき出版)です。

 『13歳~』の発行は2010年。『15歳~』は2012年。印象は、いま主軸とされているであろう人権を含む包括的性教育には数歩届かない感じの、ちょい古テイスト。しかしAmazonで表示されるレビューでの評価も上々ですから、その評判を参考にして手にとり、子どもに与える保護者も多いでしょう。

 『13歳~』のほうでは、親に向けては「性について家族で話すきっかけに」、女の子に向けては「ハッピーな性を感じられる女の子になるために、生理と性について一緒に考えましょう!」と呼びかけています。

 構成は2冊とも、子どもでも楽しく読めるコミックエッセイ調(総ルビ)。『13歳~』の主人公は小学6年生のあゆみちゃん。初潮を迎えてオロオロしているところに、ガイド的な謎生物キャラが現れて、心配事や体のしくみについて答えてくれ、ところどころに解説コラムが入るという、よくある展開です。

 『15歳~』では14歳の三女を中心に、17歳の次女、20歳の長女がそれぞれの役割で物語を紡いでいきます。生理に関する基本情報は、ほぼ教科書どおりです……が、「こりゃヤバいのでは!?」と思われるポイントがちょいちょいあるのです。それは、次のとおり。

性教育で絶対取り入れたくないポイント7

1★生殖を「神秘」と説明する

 『13歳~』はこうはじまります。

「生理はけっしてめんどうなものじゃなくて、神秘的なもの、自然なものだってことを、この本で感じていただけるとうれしいです」

 初っ端から壮大な違和感! むしろここを読んで同書が自分(保護者)の思想とマッチするかどうか、ふるいにかけられているのか? 妊娠が奇跡の連続によって成立するという事実はあるものの、それを「神秘」とまで説明するのは、イデオロギーの押し付けだと思えてしまうのですが。そして読み進めると、その違和感は「やはり異界本であった」という確信に変わります。「胎内記憶」※1までが登場するのですから。思春期は親がうざく思えるかもしれないけれど、自分自身が選んだお父さん・お母さんなんだよ、深い縁で結ばれている! ですって~。

 同書は基本、東洋医学やマクロビ、自然派的なケアなど、いろいろな世界観がごった煮になっています。それを知らずに読まされる子ども(しかも繊細な思春期)は、なんじゃこりゃ……と困惑しそう。

※注1・胎内記憶=もともと「胎児が母親のおなかの中にいたときの記憶」のことだったが、一部の布教者たちにより、「子どもは空の上から母親を選んでお腹に入った」という世界観が広められている。思想・教育・自己啓発の一種。

 ほかにもセックスを「神聖なもの」一辺倒で説明していたり、女性の性欲がスルーされていたり(詳しくは後述)。今どきの性教育は「自分の性と再生産に関して自分で決定をする権利」が主軸にあると思うのですが、同書の解説はごく一部の情報・考え方しか載っていないようです。

2★生理の説明に、まさかの布ナプ教!?

 思春期の子どもに向けた性教育では、初潮を迎えたときの対処法=生理用品の使い方・選び方は定番です。ポピュラーなのは使い捨てタイプの紙ナプキン、かぶれやすい場合は布ナプキン。ほかにもタンポンなどもありますよという説明が、デフォルト。

 ここは同書も同じ体裁ですが、問題なのは『15歳~』のほうで、登場人物が「月経痛が楽になったって人もいるんだよ」と説明しちゃっている部分。いろいろな生理の情報を盛り込みたい! ってだけかもしれませんが、根拠のない効果効能を子どもに教えないでいただきたい。

3★子宮にフォーカスしすぎ

 同書が発売された後、2015年に『ぽかぽか子宮の作り方』(河出書房新社)なる本を出し(ちなみに監修は胎内記憶の池川明医師)、「自分をないがしろにすると子宮の病気になる」「女性に生まれたことを喜べないと婦人科系疾患になることも」と書いている著者。もはやある種の「子宮系女子」とも言えます。

 その思想はすでに同書にも登場しており、『15歳~』では「子宮=自分自身」と説明。そして「子宮にやさしい生活をすれば、月経トラブルも自然とよくなる」「冷えるファッションは子宮が悲しむ」「子宮と対話するワーク」と続くのです。生理の話を入り口に、子宮を核にした健康法を説くのは子どもに正しい情報を! という本でやることではありません。ほかのテーマでやっていただきたい。特殊な思想の本を、一般的な本に擬態するのやめてくれませんかねえ(せめてタイトルに「子宮」って入れて)。

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