
写真:REX/アフロ
わたしは俳優/ラッパーの「オークワフィナ」の大ファンだ。
とにかくめちゃくちゃ面白い。キレてる。しかもジワジワくる。映画も主演のシットコムもたまらん可笑しさで、彼女が出ている作品はとりあえず観たくなる。アジア系の俳優をこんなふうに感じたことは今までなかったかもしれない。
ゆえに今回は彼女について書く。日本での浸透度がイマイチなのがもったいなく、もどかしいから。ただし以下、彼女の名は「アクアフィーナ」とする。ミネラル・ウォーターのブランド名と同じ。その理由は後ほど。
ハリウッドで主役を張れるアジア系アメリカ人の女性俳優がようやく増えてきた中、アクアフィーナはまさに今時の、いかにもその辺にいそうな風体なところが新鮮なのだ。世代としてはミレニアルだけど、Z世代の匂いもする。
先達に、優れたキャリアを築き、その影で悩みを抱える役を演じるサンドラ・オー(『キリング・イヴ』『グレイズ・アナトミー』)がいる。明るく華やかに、ある意味、天然に我が道を突き進む役柄が得意なコンスタンス・ウー(『クレイジー・リッチ!』『フアン家のアメリカ開拓記』)もいる。
対してアクアフィーナが演じる「隣りの冴えないねえちゃん」っぷりが潔い。「もうすぐ30歳なのに」親と同居だったり、低賃金職だったり、大学時代の成績がダメダメだったりする。そんな役ばかり演じるアクアフィーナの存在感が、ハリウッドでどんどん大きくなっている。
アメリカ在住の日本人であるわたしは、アメリカを舞台とした映画やドラマを観るとどうしてもアジア系のキャラクターに目がいく。ニューヨーク市でこそ人口の14%を占めるが(これでも十分にマイノリティだけど)、全米だとわずか7%。劇中でも圧倒的なマイノリティなのは言うまでもない。
以前、アジア系の役といえば、中華の出前持ち、貧しい移民、果ては中華街のギャングだった。ハリウッドに多様化の波が押し寄せると、そこからいきなり「警察のIT担当捜査官」「精神科医」などに大出世した。ただし主役ではなかった。主役にアドバイスを求められて専門知識に基づいた意見を10秒ほど述べ、画面から抹消されるのだ。
映画『クレイジー・リッチ!』は「アジア人」の映画であって、婚活映画ではない!
日本では9月28日から公開となる話題のハリウッド映画『Crazy Rich Asians(原題)』を観た。“話題の” は単なるマクラ言葉ではなく、アメ…
アジア系が主役のドラマが大ヒット!~米国テレビ史の快挙+あれもこれも「アジア系」問題
やや旧聞になるが、今年9月のエミー賞には歴史的な異変があった。なんとアジア系の俳優が最優秀俳優賞を勝ち取ったのだ。 エミー賞はいわばテレビドラマ版…
駐車係がスーパーヒーローに随行『シャン・チー テン・リングスの伝説』
アクアフィーナの最新作は、日本では9月に公開されたマーベル初のアジア系スーパーヒーロー物『シャン・チー テン・リングスの伝説』だ。主役のシャン・チーを演じるのはシム・リウで、その親友ケイティがアクアフィーナだ。
ガールフレンドではなく、親友なところがポイント。しかもケイティはスーパーパワーなど持たない、ただの人間。なのに親友を助けるつもりでサンフランシスコからはるばる中国の秘境に出向き、とんでもない展開に腰を抜かすことになる。アクアフィーナのコミカルさゆえに、スーパーヒーロー・アクションにそれほど興味のない人にも十分に楽しめるはず。
もちろん主要登場人物のほとんどがアジア系で、大物も出ている。なのに外観はわたしや、わたしの在米の友人たちのようなアクアフィーナが、スーパーヒーロー映画を大いに盛り立てている。これは凄い!と、わたしはそこに感動してしまったのだ。
韓国系一家のシットコムが大ヒット~多様化社会のツボにハマった『Kim’s Convenience』
アメリカの映画やドラマにアジア系が登場する作品が増えている。劇中に多様性を持たせるための「主人公の親友」役、もしくは秀才、頭脳明晰というアジア系のステ…
※主役シャン・チーを演じるシム・リウは、カナダの韓国系移民一家を描いて大ヒットしたシットコム『キムさんのコンビニ』の長男役で人気爆発したセクシーガイ
ニューヨークのスリ『オーシャンズ8』
そもそもはラッパーだったアクアフィーナが俳優として注目を集めたのは、2018年『オーシャンズ8』に大抜擢された時だ。
ジョージ・クルーニー主演の『オーシャンズ』シリーズのスピンオフとして、サンドラ・ブロックを筆頭に女性の犯罪者8人が集まり、ニューヨークを舞台に大胆な宝石強奪を行うストーリーだ。アクアフィーナ演じるコンスタンスは、アクアフィーナの実際の出身地であるアジア系の街クイーンズでスリの腕前を見初められ、チームに参加する。
この映画は本家の男版シリーズに比べると多少の「多様性」が盛り込まれている。8人のうち東アジア系(アクアフィーナ)、南アジア=インド系(ミンディ・カーリング)、黒人(リアーナ)と3人がマイノリティ。どこを切っても大いに楽しめるゴージャスな娯楽作品ながら、「マイノリティ3人の描き方がちょっとステレオタイプなんでないの?」と、ややモヤンとしないでもない。マイノリティとしてアメリカに住むと、このあたりがどうしても過敏になる。
富豪のファッション道楽娘『クレイジー・リッチ!
アクアフィーナがさらなる魅力を発揮した『クレイジー・リッチ!』は、ハリウッド発のアジア系映画として異例の大ヒットとなった。
この映画を観た時の爽快感ときたら! ひたすら勤勉に、マイクロ・アグレッションな差別にも耐えて学び、高学歴・高収入だけれどひたすらに地味なアジア系のステレオタイプ、モデルマイノリティを見事に覆してくれたのだ。
登場人物は億万長者のアジア人ばかり。アクアフィーナも親の財産でファッション三昧のお気楽な娘、ペク・リンを演じている。こんなアジア人だって存在するのだ。もう拍手喝采モノではないか。
ちなみに邦題は『クレイジー・リッチ!』だが、こうした内容なだけに原題の『Crazy Rich Asians』から「エイジアンズ」をカットしたことを、わたしは今も許していない。想像すらできないほどの巨額の富を持ち、とことんクレイジーに振る舞う(=それが許されるパワーを有する)アジア人たちの物語なのだから。
1 2