
豊島区では知る人ぞ知るスポットである。※住所は非公開。この場所でイベント等が行われることはありません。
幼児向けの教材でも小学校の授業でも、自然科学の教材として必ず取り上げられる生き物といえば昆虫。そうした現場には一部、授業をサポートしてくれる外部の人が存在します。一体、彼らの正体は? それらの人たちを想像すると、きっと子供のころから虫博士で「昆虫の魅力と知識を次世代に!」なる志を抱き……。な~んて思っていたら、大間違い。なし崩し的に「虫の沼」に入ってしまった人もいるのです。今回はそんな珍エピソードや虫のアレコレについて、前後編でお届けしていきたいと思います。
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私は昆虫食愛好家です。するとお約束のように飛んでくるのが、「子供のころから虫が好きだったんですか?」という質問。残念ながら、全くそんなことはありません。子供のころから基本的にインドア派。好き放題に読んだり観たりした漫画や映画に出てくる「虫を食べる描写」から、その味に興味を持ったのがきっかけなので、生態やビジュアルは二の次……というかさほど興味がなく、大事なのは味。好みの味であれば、地味だろうが華やかであろうが何でもOKです。
さて虫活動を通じて知りあった、周りの仲間はどうでしょう? もちろん大学で生物を学んでいたり、幼少期から郷土食として虫を口にしていたなどのガチ勢も一定数いますが、そういった王道ルートばかりではありません。生き物を展示する「カエルーランド」の主は、「虫をエサに子供を誘う不審者」なるデマを広められ、自身の名誉挽回のため虫教育に乗り出したという、気の毒かつ大分なりゆきな雰囲気漂う、レアなルートをたどっています。
カエルーランドの運営者は、豊島区在住の浜野和雄さん。現在、自宅で自営業を営む傍ら、幼稚園や小学校で行われる昆虫観察のサポートを行っています。小学校で行われる授業のために自宅でカイコ1000匹を飼育したり、児童福祉施設で生き物の展示スペースを作ったり。基本的にボランティア活動なので、傍から見れば相当な子供もしくは虫好きな人物でしょう。ところが本人曰く、活動のモチベーションはどちらでもないという(えー)。
浜野和雄さん
昭和四年から続く宝飾品の製造会社の四代目。「カエルーランド」として、児童館や小学校や幼稚園・保育園などで身近ないきものの展示説明したり工作教室の講師のボランティアを行っている。カエルーランドTwitter:@kaeruland
浜野さん(以下、浜野):今、住居兼職場を構えているこの土地で、祖父母の代から商売を営んできました。しかし宝飾品の製造会社なので地域の人と関わる商売でもなく、私は地元の小学校ではなかったこともあり、近所との付き合いはあまりありませんでした。商売を継いだ後も、いつも家にいる会社員ではない人……くらいに、周りから見たら何をしているかよくわからない人だったかもしれませんね。
そんな浜野さんの元で生き物スポット「カエルーランド」が誕生したのは、約10年前の出来事がきっかけ。当時、浜野さんが趣味で飼育していたタランチュラの餌であるコオロギや、近所の家から「どうにかしてほしい」と頼まれて引き取ったヒキガエルの卵を、自宅前の駐輪スペースに置いておいたことが原因でした。
浜野:コオロギは100匹単位で買うと安いけど、タランチュラはそこまでたくさん食べてはくれない。だから成り行きで飼育していると、産卵して増えるんですよ。カエルの卵は放っておけば勝手にどこかへ行ってしまうのでいいかと思い、衣装ケースに入れ、コオロギと一緒に自宅前に設置。するとうちの前が通学路なもんで、小学生たちが勝手に触るんですよ。さらに、そういったタイプの子どもは、だいたい大人に対してもグイグイ来る。私が煙草を吸いに玄関先に出ると、「この虫ちょうだい!」とか。触るのは別にいいけど、勝手にあげると親がびっくりするでしょ……なんて適当にあしらっていたら、それがいつの間にか「虫で子どもを釣って誘う怪しい男がいる」なんて話になっていたんですよ!
後にトラウマになるほどのショックだったという、この出来事。公園で一方的に話しかけたならいざ知らず、自宅の敷地内に侵入されて私物をいじられたあげく、不審者扱いとは理不尽の極み。それがなぜ本人である浜野さんの耳に入ったのかというと、これがまた面白い(失礼)。一部の保護者が不名誉な噂を広め、小学校や児童館にも伝わり、地域の会議で取り上げられるにまで至ってしまったため、まずは児童館の館長が様子を見ようと、浜野さんの自宅にやってきたからなのです。
浜野:「ちょっとご挨拶に……」なんて言って突然やってきた館長の顔を見ると、すぐに思い出しました。私が20歳の頃、地元の児童館でアルバイトをしたときの同僚だったんです。相手は全く気づかず「初めまして」なんて言いましたが、「浜野ですよ!」と言うと「ああ!」と思い出してもらえて。「じゃあ、ぶっちゃけてしまうけど~」と、私が不審者扱いされていることを教えてくれたんです。全く冗談じゃありませんよね。「もう子供らの相手は一切しない。話しかけず、追い払う!」と伝えると、それだと誤解されたままになるから地域で活動してはどうかと、児童館での生き物の展示を提案されたんです。
そうして生まれたのが、カエルーランド。誤解・屈辱・リベンジで作られた生き物スポット……! 癒しと学びの生き物展示が、そんな事件から生まれることがあるのですね(事件を起こした巨大蛇が飼育&展示されているスネークセンター等を思えば、そう珍しくないかもしれませんが)。そもそも、不審者扱いから展示ボランティアへの勧誘というのも、エクストリームな急展開すぎやしないか。
浜野:児童館での活動ということはすなわち、行政とつながりができたということです。そして地域懇談会のような場や会議にも足を運ぶようになり、さまざまなつながりができ、TVで取材されたこともありました。そうこうしているうちに、学校の授業にも力を貸してもらえないかと声がかかるようになったんです。
小学校の授業では「昆虫の観察」があるものの、その虫はどこから調達するのかというと、現場にまかされているため、さまざまな場所で苦労があるようです(この件については、後編で詳しく触れましょう)。そこで、不審者から一転し、地域の人気いきものががりとなったカエルーランドが大活躍。
浜野:私は子供のころ、何度かカイコを飼った経験があったので、それならイケるなと。いろいろな本を読むのも大好きでしたので、そういった情報からだいたいこんな感じで~という飼育のイメージもできました。カイコなら授業のスケジュールに合わせて、ある程度見栄えのある大きさになるように逆算して計画的に飼育できますし、業者から卵を買っても非常に安い。エサであるクワの葉もそこら中にありますし。特に虫が好きとかではなく、本当にそれだけの理由です。
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