宋美玄先生に聞く「なるべく自然な出産をしたいので、会陰切開はしたくないんですが…」

文=宋美玄
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GettyImagesより

Q.なるべく自然な出産をしたいので、会陰切開はしたくないんですが… 

A.自然な経過に任せることが多いですが、会陰切開が必要な場合があります。

 多くの妊婦さんが「自然な出産」を望んでいます。ここで言う自然な出産というのは、たぶん医療介入のない出産ということでしょう。でも、そもそも多くの医療者は、基本的に母子の安全を守るために必要な場合に介入します。

 会陰切開についても同じです。2016年にアメリカ産婦人科学会も「会陰切開は、決まった作業として行わず、限られた状況で実施すべき」と推奨しています。未だに、ときどき「医者はすぐ切りたがる」と言う人もいますが、よほど古いところはわかりませんが、現在はルーチンで会陰切開を行っている医療機関のほうが少ないでしょう。切ったり縫ったりしなくていいなら、それに越したことはありません。

 それでも会陰切開をするのは、例えば以下のような場合です。

①ひどい裂傷になりそうなとき

特に肛門や直腸まで裂けてしまうと、細菌感染などの問題もあります。肛門方向へ避けないようコントロールするため、あらかじめ切ることがあるのです。

②骨盤底筋が損傷しそうなとき

骨盤下部でガードルのように子宮などの内臓を支えている「骨盤底筋群」がひどく傷つくと、臓器脱や排尿や排便などに問題が起こるリスクがあります。

③母子ともに疲弊しているとき

お母さんもしくは赤ちゃんが弱っていたりして、会陰切開することで早くお腹から出してあげたほうがいいこともあります。

 もちろん、自然に会陰がうまく伸びて切ることなく出産できたら一番いいのですが、皮膚(会陰)がやわらかく伸びやすい(一般的に経産婦に比べて初産婦は伸びにくい)、お産の進み方とのタイミングが合うなどの、いくつかの条件が重ならないと難しいでしょう。また頭が出かけた状態で会陰が伸びるのを待つと、皮膚を切らずにすむこともありますが、内側の筋肉が伸びきってしまうこともあり、それも問題です。

 ちなみに「妊娠中に毎日、オリーブオイルなどの食用油をつけて会陰マッサージをすると、皮膚が伸びやすくなって切らないですむ」という説があるようですが、痛みが少ないかもしれない程度の根拠しかないようです。妊娠中に毎日行うのも大変ですし、かぶれたりするかもしれませんから、やらなくていいでしょう。

 以前もお伝えしたように、出産は何が起こるかわからないもの。会陰切開をしないですむかどうかも、そのときになってみないとわかりません。一番大事なのは、肛門や直腸にまで裂傷が及ばないこと、骨盤底筋群を守ること、母子の命の安全であることを知っておいてくださいね。

<今回のポイント>

○裂傷が肛門や直腸まで及んではいけない
○骨盤底筋群を守ることが大事
○会陰マッサージのエビデンスは微妙

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