娘と同じ養子が出てくる漫画『こどものおもちゃ』を一緒に読んで話したこと

文=うさぎママ
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GettyImagesより

前回までのあらすじ

 特別養子縁組によって母になった著者。養子であるという真実を子どもに伝える初めての「真実告知」では自身が産んでいないことを、2回目は「産みの母」がいるけれども自分がお母さんであることを伝え、いつでも気軽に話せるようにしていきました。

第3章 アンの子ども時代:小学生のアン

 一度目、二度目の真実告知を終えてからも、アンの成長に合わせて、いろいろな形で少しずつ真実告知をすすめていました。だからテレビで養子などが取り上げられていても、わだかまりなく話せていたほどです。

 でも、アンはアンなりに考えることもあったようです。一番の疑問は「産みのお母さんは、なぜ自分を手放したの?」ということだったようで、たびたび聞かれました。が、小学校低学年のアンに真実を伝えるのは早いと思い、「お母さんになれない理由があったみたい」としか伝えていませんでした。すると変にぼかしたので、『赤毛のアン』によくある“想像の余地がある”ことになって、アンはいろいろと想像しては伝えてくるようになりました。

「とても寒いところへ行くことになったからかな」
「ひどい病気になって一緒に暮らせないのかな」
「仕事が忙しくてお世話ができないからかな」

 このほかにも、いろいろな理由を考えてみたようです。

 もちろん、「アンを産んだ人はどんな人かなぁ?」という当然の疑問も口にしました。これについては「お母さんとお父さんは会わせてもらえなかったけど、アンが大人になって知りたかったら、病院の人に自分で聞けるよ」と話しました。

 そうこうするうちにアンがハマったのが、漫画『こどものおもちゃ』(小花美穂 著、集英社 刊)です。私はどんな本でも大好きなので、アンの漫画も一緒に読んでいました。

 主人公の紗南(さな)ちゃんは、子役として活躍する明るい小学生。小説家であり、頭の上でリスを飼っている少し変わったお母さんと楽しい日々を送っていました。その紗南ちゃん、じつは3月7日に置き去りにさせていた赤ちゃんで、お母さんは産みの母を探すためにエッセイ本に真実を書き、子役タレントの紗南ちゃんのまわりは騒然……という内容です。

 お母さんが紗南ちゃんを引き取るくだりでは、「こんなに簡単じゃなかったよ。本当に大変なんだよ。アンがうちの子になってくれて、お母さんとお父さんは本当にラッキーだったよ」なんて経験談を聞かせたりしました。「私は紗南ちゃんと同じなんだ!」と少し嬉しそうにも、得意そうにも見えたアン。もちろん、置き去りにされていたのではなく病院に預けられていたと伝えましたが、友達にもかなり吹聴したみたいで、担任の先生が心配して連絡をくださったほど。でも、私は特に注意しませんでした。アンなりに自分の足場を築いているのかもと思ったからです。

 紗南ちゃんはとても強くてやさしい女の子で、二枚目半のキャラがアンにどことなく似ていました。ふたりで先を争って、夢中で読んだものです。漫画として面白いのはもちろん、親と血のつながりのない子どもの気持ちがよく伝わってきます。アンも「うん、うん、よくわかる」と言っていました。機会があれば、ぜひ読んでみてくださいね。

 私たち親子に血のつながりがないことははっきりさせていたけれど、それはどうってことないと話していたけれど、理性より感性のお年頃。社会に目を向け始めた小学生にもなると、普通に明るくのびのびと暮らしているように見えても、無知からくる不安や混乱、おそれも大きかったのでしょうね。何気なさを装って、でもかなりせっぱ詰まった様子で、こんな質問をぶつけてきたことがありました。

「ねぇ、もしもアンを産んだ人が、アンを連れ戻しに来たら……どうする?」

 高校生にもなれば、起こりえないことだとわかるでしょうが、漫画やテレビで半端な知識を得るたびに、小学生のアンの心には少しずつ暗雲が広がっていたのだと思います。こんなとき、徹底しておいてよかったとしみじみ感じました。「なんでも聞いてね。なんでもわかる限りは答えるから」ってことを。

 毎日一緒に暮らして、泣いたり笑ったりケンカしたりしていても、だからこそ、こういう質問って聞きにくいと思うんですよ。それをあえて聞いてくるっていうのは、かなりせっぱ詰まった状態だったはず。暗くならないよう、できるだけ明るい口調で答えたのを覚えています。

「だれが連れにきても、アンは絶対に渡さないよ。だってアンの家はここだもの。アンを産まなかっただけで、アンのお母さんは私だもの。テレビドラマじゃあるまいし、そんなことは絶対に起こらないから大丈夫。

 前にも話したけど、特別養子縁組って本当の親子になるってことだし、法律でちゃんと守られているんだよ。もしもアンが悪い子になっても、アンが我が家を嫌いになっても、私には大事な子だよ。アンの家はここだけ。アンの親は、ここにいるお母さんとお父さんだけ」

 このあと、アンを産んだお母さんも結婚して新しい家族がいることを改めて説明し、アンの不安にはまったく根拠がないと伝えて安心させておきました。

私「あっ、だけど……小説みたいに大富豪のおじいさんが迎えに来て、アンが行きたいと言えば別かもね。アンはお小遣いを100万円もらえるかもよ」
娘「ひゃくまんえん! すごい! ねぇ、お母さん、ひゃくまんえんだと“けんこう”を何  個買えるかなぁ?」

 この当時のアンの金銭感覚は、けんこうが基準でした。けんこうは、近所の酒屋さんの駄菓子コーナーで大人気のするめの足で1本50円。アンの大好物でした。

私「計算してみたら? ほらほら〜」
娘「とにかくいっぱい買えるねっ。いっぺん、あの容れ物ごと買ってみたかったんだ〜」
私「けんこうの工場ごと買ってくれるかもね。でも、大富豪は財産や家柄とかでややこし  いことが多いかもしれないよ」
娘「いやだ〜どうしよう〜」(すっかり大富豪の孫のつもりのアン)
私「やっぱり大人になるまでは、この家にずっといたら?」
娘「うん、そうする! うちの子でいるのがいい!」

 こうして、とても簡単に一件落着したものです。

次回更新は12月13日(月)です。

特別養子縁組について

特別養子縁組は、子どもの福祉のために(親のためではなく)、子どもが実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、養親(育ての親)と実子に等しい親子関係を結ぶ制度です(※)。そんな特別養子縁組制度が成立した翌年の1988年、うさぎママ夫妻は児童相談所の仲介で0歳の娘・アンちゃんと出会い、親子になりました。

厚生労働省 特別養子縁組制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169158.html

※この連載は、書籍『産めないから、もらっちゃった!』(2012年、絶版)の改定版を公開するものです。

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