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●日本と海外、女性の「生き方」「社会」の違い(最終回)
「6年ほど前から幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思うようになった」──今年の8月、小田急線車内で複数の乗客を刃物で切り付けた男はこう供述しました。
その後、大学生らが約1万千筆のオンライン署名を集め、「フェミサイド」の実態解明と対策を求める要望書を法務省と内閣府男女共同参加局に提出しました。世界保健機関(WHO)は「フェミサイド」を「女性であることを理由にした意図的な殺人」「より広い定義では、女性または少女のあらゆる殺害を含む」としています。
皮肉なことに、乗客を切り付けた男が直接的な言い方で「(幸せそうな)女性を見ると殺してやりたいと思うようになった」と話したことから、日本でもようやく「フェミサイド」が注目されるようになりました。「女性であるがゆえに、男性から暴力を受け殺されてしまう」フェミサイドは日本に限らず世界の先進国でも深刻な問題です。
フランスの深刻な問題「フェミサイド」
フランスでは今年に入ってから、平均して「3日に一人の女性」が殺害されています。
2021年1月1日以降、既に100人以上の女性がパートナーまたは元パートナーから殺されました。年間22万人以上の女性が配偶者やパートナーから暴力を受け、そのうちの約9万人がレイプの被害に遭っています。
これを受け「女性に対する暴力撤廃の国際デー」である11月25日を前に約5万人がパリ中心部で抗議デモを行いました。デモの参加者は政府に対し、被害に遭った女性を受け入れる避難所や相談窓口を増やすこと、事件に対応する警察官がより適切な研修を受けることなどの具体的な対策を求めています。
ある女性団体によると、暴力を受けた女性が助けを求めても、避難所の数が足りていないことから保護を受けることが難しい場合もあるとのことです。また女性に対する精神的なケアや法的なサポートも不十分です。女性に対する暴力とフェミサイドへの抗議はフランスのSNSで#NousToutes (和訳「私たちみんな」)のハッシュタグのもと大きな広がりを見せています。
コロナ禍のドイツでも問題に「家庭内の女性への暴力」
ドイツの報道によると、コロナ禍となった昨年2020年は前年2019年と比べパートナー間での家庭内暴力が4.9%増加したとのことです。そのうち169人が暴力の末、死亡しています。
コロナ禍になってから、パートナーまたは元パートナーによる暴力が増加しているわけですが、ドイツ連邦刑事局(BKA) によると、暴力の加害者のほとんどが男性とのことです。
UN Women Deutschland(国連ウイメンドイツ協会)のチェア・ウーマンであるElke Ferner氏は「女性にとって一番危険な場所は自らの家庭である」と言い切っています。
同氏は「どの女性にも起こりうる問題です。社会的な階級は関係ありません」と語ります。ドイツでもフランスと同様に「3日に一人の女性」が殺されているにもかかわらず、一般市民の危機感は薄いです。「フェミサイド」というと「あくまでも女性の地位が低い発展途上国の問題だ」ととらえるドイツ人が少なくありません。ドイツでの数字の高さは多くのドイツの人にとって「聞きたくない情報」なのでしょう。
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