万年筆インクブームはここからはじまった! ナガサワ文具センター「神戸インク物語」の歴史

文=出雲義和
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 2007年にパイロットコーポレーションが、万年筆インクの事務用品的なイメージを払拭した「色彩雫(いろしずく)」全12色が発売してから、各メーカーも色とりどりのカラーインクを発売するようになりましたが、その「色彩雫」よりも数カ月早い商品がありました。

 神戸に本店のある老舗文房具店ナガサワ文具センターが作った1本のインク「神戸インク物語」こそが、いま世界中に広がっているインクブームの先駆けとなったオリジナルカラー万年筆インクです。

神戸インク物語誕生秘話

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神戸を代表する街のシンボル六甲山

 1995年1月17日、早朝に兵庫県南部を襲った阪神淡路大震災は兵庫県に甚大な被害をもたらしました。三宮にあった「ナガサワ文具センター」も被害に見舞われています。

 震災後、店舗の瓦礫を片付けながらくじけそうになる心を支え癒やしてくれたのは、神戸市の山手に連なる六甲山の緑だったと、ナガサワ文具センターで商品開発を手掛ける企画室室長であり、オリジナル万年筆インク「神戸インク物語」の産みの親である竹内直行さんは振り返ります。

 阪神淡路大震災から12年後の2007年。神戸復興を支えてくれた人たちに御礼の手紙を書くためにはどんなインクが良いだろうかと考えた時に、これまで自分を支えてくれた六甲山の緑を万年筆インクに再現しようと思い立ち誕生したのが「神戸インク物語」です。

六甲山の緑からはじまった「神戸インク物語」シリーズ

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はじまりの「神戸インク物語」

 2007年春「神戸インク物語」は六甲山の緑をイメージした「六甲グリーン」からはじまりました。

 夏には神戸メリケン波止場の空と海のコントラストを再現した「波止場ブルー」が、続いて神戸港開港当時のおもかげが今に残る町並みを色にした「旧居留地セピア」が登場。

 これらが地元神戸の人たちに口コミで評判が広がり、2021年2月現在では定番インク76色と特別限定インク29色の合計105色が発売されています。日本でもトップクラスの色数を誇る万年筆インクシリーズです。

「神戸インク物語」特別限定色の登場

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絵画の世界へと広がる神戸インク物語

 30色を越えた頃には神戸を代表するブランドにまで成長した「神戸インク物語」は地元の推薦を得て、日本マーケティング大賞にノミネートしましたが、残念ながら入賞には至りませんでした。

 しかし、これがきっかけとなり朝日新聞社が主催する絵画美術展とコラボレーションしたオリジナルインクを作りたいという話が持ち上がり、そこで生まれたのが特別限定インク第1弾「フェルメールブルー」でした。

 ヨハネス・フェルメールの代表作「真珠の首飾りの少女」の美しいブルーを再現したこのインクは、当初500本(初回生産)の予測を大きく越えて発売と同時に完売。会期中に追加生産された本数も含めた1600本すべて完売という大ヒットになり、これ以降、神戸市で開催される美術展の出展作品の中から象徴的な色を再現した「神戸インク物語」が作られるようになりました。

 この第1弾「フェルメールブルー」は、さらに意外な結果をもたらしました、それまで日本国内の万年筆ファンの間では誰もが知る「神戸インク物語」の知名度が一気に海外へ拡大し、アメリカやカナダ、オーストラリアそしてアジアにも人気が拡大して、一時期中国からの爆買いの対象ともなり、定番インクですら店頭から姿を消してしまうほどになりました。

 そして念願だった、第10回日本マーケティング大賞では「奨励賞」を受賞、文房具業界から初の受賞という偉業を成し遂げ、名実共に世界に誇れる「神戸インク物語」となりました。

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お店毎にも楽しめる「神戸インク物語」

 現在、兵庫県を中心に7つの店舗をかまえるナガサワ文具センターでは各店舗をイメージした店舗限定インクも販売しています。
2021年に10周年を迎える「梅田茶屋町店」の店舗が入るCHASKA(ちゃすか)にちなんだ淡い茶系インク「CHASKAグリーン」をはじめ、子午線が通る街明石の「パピオス明石店」には宇宙をイメージした「COSMO BLUE(コスモブルー)135」などがそれぞれのお店に並びます。

 さらに同じ文房具店として競合相手である東京「銀座伊東屋」をイメージした「神戸インク物語」が発売された時は全国の万年筆ファンを大いに驚かせました。

 銀座伊東屋「銀座ゴールドセピア」は、神戸っ子が見た東京銀座の色を再現するというコンセプトから、竹内さんが銀座の街を隅々まで歩いた末に生まれたインクです。

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最新色の神戸のカフェとコラボした「神戸インク物語」

 2021年2月に発売になった「神戸インク物語」は、神戸旧居留地でカフェを営む神戸コーヒーマイスター橋本和也さんとコラボレーション。その「旧居留地コーヒーブラウン」は、引き立てのコーヒーの香りが漂ってきそうなコーヒーカラーのインクです。

 「旧居留地コーヒーブラウン」はナガサワ文具センター本店と煉瓦倉庫店のみで販売された初回限定100個が発売日の午前中に完売するほどの人気で、神戸っ子と全国の万年筆インクファンの目と鼻孔に刺激を与えたようです。

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 神戸の街で誕生したオリジナル万年筆インク「神戸インク物語」は14年の歳月を経て、日本だけでなく世界からも注目される存在に成長しました。

 今では、ナガサワ文具センターだけでなく、日本の文房具店が地元をイメージしたオリジナルインクを作り販売するようになりましたが、ある文具店さんで訊ねると竹内室長の「神戸インク物語」の影響を受けてご当地インクを作るようになりましたとストレートな答えが返ってくるほどに、このインクが文具業界に与えた影響は計り知れません。

 次はどんな物語を紡ぐインクになるのか、全国の万年筆インクファンは短編小説を心待ちにするような想いで、新色の発売を楽しみにしているのかもしれません。

データ
販売 株式会社ナガサワ文具センター
商品 神戸INK物語
価格 定番色 76色 1800円(税別)
容量 50ml
販売 ナガサワ文具センター各店舗
   オンライン販売もあります(特別限定インクは除く)

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