
写真:ロイター/アフロ
■連載「議会は踊る」
本会議における当面の審議事項としては、先ほどの総理のごあいさつで御指摘がありましたとおり、仕事と子育ての両立支援策に関する検討や、女性に対する暴力に関する問題のほか、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の実施状況の監視及び政府の施策が男女共同参画社会の形成に及ぼす影響の調査、積極的改善処置、選択的夫婦別姓に関する問題など、さまざまな問題があると考えられます。
上の文章を読んでどう思われるだろうか。「内閣府男女共同参画会議」の議事録であり、当時官房長官であった福田康夫氏が発言した内容である。
これは、今年や昨年の議事録ではない。会議が発足した2001年……つまり、20年前のものだ。当時の総理大臣は森喜朗氏であった。
私は時々昔の議事録を読む。読めば読むほど、日本の根本課題は、20年ほど前からほとんど変わっていないように見える。その間世界は急速に変化している。ジェンダーだけではない。経済においても、デジタルにおいても、だ。日本が沈んでいったのではない。世界の変化に日本だけが取り残されている、と強く感じる。温故知新というが、温故してわかることは、話し合っていることが何も変わらないということだ。
そんな中でも、変わっていくものもある。
選挙が終わり、臨時国会が開かれ、岸田文雄総理大臣は所信表明を行った。同時に、代表質問を前にして、立憲民主党の新しい執行部が発足した。執行部のうち半分は女性となり、泉健太代表の代表選における公約を守った形になる。
また、幹事長には西村智奈美衆院議員が就き、野党第一党の幹事長としてははじめて女性が就任することになった。
残念ながら、今回の衆院選挙において、女性議員の比率は10%台から9%台に落ちた。ジェンダー平等や女性活躍を声高に訴える政治の世界が、民間に劣っている格好だ。そんな中で、まず数を合わせるところから始める立憲民主党の姿勢は高く評価すべきだろう。
小選挙区制において、有権者が選択する選挙である以上、当選者の男女の比率を揃えることは難しい。しかし、執行部の男女比率や比例代表における男女比率、あるいは候補者の男女比率に関しては、政党でコントロールできることだ。
大臣についても同じである。
何よりまず、数を揃えること。選挙以前に、「指導的地位の女性に占める女性の比率を30%に」と政府が掲げる方針を、政府自体が守れていないのではお話にならない。
難しい話ではない。きちんと公約に掲げて、それが有権者(この場合は党員や議員だが)に支持されれば出来る、ということを、泉新代表は証明した。
重要なことは、何を掲げて選挙を戦うかだ。
何度も言うとおり、国民に約束する公約は、政府を縛るものであると同時に、政党や他の議員を説得する材料、政策を進める推進力としての力を持つ。残念ながら、岸田内閣は当初掲げていた公約を大きく転換した。そして、岸田内閣が一体何を約束していたのか、国民に共通認識がなくなってしまった。
政策を大きく掲げれば、賛同しない人を取り込めなくなる。そうして、政権与党の政策は総花的で、誰も反対しないものになる。そうして、大きく社会を転換する政策は先送りにされる。
菅内閣の炭素税導入やデジタル庁発足は、色々な意見がありながらも一定評価すべき英断だったと私は考えている。虎は死して皮を残し、人は死して名を残すと言うが、政治家が残すのは政策である。
岸田内閣は一体どのような政策を残すのか。「安定政権の継続」だけが、総理大臣の役割ではない。積み残された課題を消化する時間は、日本にそう多く残ってはいない。
何十年も同じことを話し合っていても埒が明かない。世界が進む方向は明確であり、日本がそれに対応できる法整備を行っていないだけだ。やるべきことは明確である。

『25歳からの国会: 武器としての議会政治入門』(現代書館)